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断りのキメラ   作者: 和銅修一
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怪奇の根源

 それからというもの、隣に善意の塊である委員長こと、鶴ヶ谷 芽衣がいるので授業中は寝れなかった。

 普通、授業中は寝ないものだがそれが唯一の救いがなくなっしまった。

 別に悪いということではない。寧ろ生徒としては良い方向に進んでいると言えるが、いつも授業に専念していなかった者としては厳しい。

 そして席替えから一週間が経ったある日、珍しいことに鶴ヶ谷は授業や勉強のことではなく、個人的な話をしだした。

「ねぇ、加々良くんって犬とか猫飼ってる?」

 何の脈絡もないが、これは話すネタがなかったら聞くことだ。

 もしかして俺とは勉強以外に話すことがないのかもしれない。それはそれで悲しい。

「どっちも飼ってない。姉があまり動物が好きじゃなくて一度もペットなんて飼ったことないからな。俺も餌あげるのとか面倒だからこれからも飼う気はないが、それがどうした?」

 さりげなく拾った犬や猫を飼ってみないかという頼み対策をするが全く関係ないことだった。

「実は私は猫を二匹飼ってるんだけどね、その二匹がもう一週間も帰ってこないの。お母さんも心配してるから探すことにしたの」

「へ〜、それは大変だな。猫ってのは自由気ままな生き物だから飼い主のことなんて考えてなさそうだから気にしなくていいと思うがやっぱ心配だよな」

「うん、猫って加々良くんみたいだよね」

「それって褒めてるのか?」

 あんなモフモフで目がクリッとしていて愛らしい生き物に似ているなんておこがましい。

「うん、それで加々良くんにお願いがあるんだけど猫探しを手伝ってくれないかな? 私の地域は全部見回ったんだけど何処にもいなかったから後は加々良くんの地域を探したいんだけど、そこに行ったことないから迷子になっちゃいそうだから案内してくれないかな?」

 つまりは猫探しを手伝ってくれ、と。

 正直、道に迷って困っている姿を見ていたいがそれは真面目に話してくれる委員長に失礼だ。

「ああ、分かった。どうせ暇だし今日の放課後にでも探しに行くか?」

「うん。じゃあ今日の放課後」

 俺は今でもこの時、安易に頼み事を受けてしまったことを後悔している。この時、もし断っていたから……と。

 しかし、どちらにしろ変わっていなかったかもしれない。遅いか早いかの違いだったかもしれない。

 それでも後悔しているのは何故か? そんなもの自分でも分からない。人間の心理的にはこういった考えに陥ってしまうのだ。

 だから俺はこの時のことは仕方のないことだと諦めている。今後起こったあの事件に関しても。




 放課後。

 今日は何だか授業が終わるのが早かった気がする。

 クラスメイトの女子と放課後の約束をして舞い上がってしまったのだろうか? 自分のことながら恥ずかしい限りだ。

「じゃあ、早速行こっか」

 両手で鞄を持ち上げると急かすように、いつもと高い声を張り上げた。

「そうだな。時間もそんなにないしな」

 長くて一、二時間かそこらだろう。優等生をできるだけ早く帰してあげたい。

 早足で、後ろの委員長が付いてこられるスピードで家の前まで歩いた。

「まずは俺の家の周りから探そうぜ。この辺なら詳しし、俺とはぐれてもこれを目印にすればいいだけだしな」

 オレンジ色の屋根はこの地域では我が家くらいなものだ。それに一応、三階建て。自慢ではないが、他のよりはほんの少し高くてちょっと遠くても多分大丈夫。

「はぐれたりなんてしないよ。加々良くんは私のこと、迷子になりそうな人って思ってなの? ちょっと心外だな〜」

 頬を膨らませて怒るが全く怖くはない。

 普段の彼女からは想像できないだがギャップ萌えというのだろうか、そこがいい。

「い、いやそうじゃないけど念の為っやつだよ。そんな怒らないで早く行こう。家にはちょっと会わない方がいい人いるから」

 勿論、三つ年上の姉だ。今日は家にいるはずだから委員長を入れるつもりはない。

「そう……、少し気になるけど加々良くんには加々良くんの事情があるんだよね。だったら深くは聞かないから行こっ!」

「すまんな」

 本当にいい奴だ。

 急いでこの場を離れながらまるで先生みたいで厄介な人だと思っていたのを心の中で謝った。




「ここにはたまにだけど猫とかが喧嘩してるの見たことあるんだけど……」

 通りかかることの多い公園を紹介をするが、犬や猫だけではなく、生き物はおらず、ただベンチとほんの少しばかりの遊具だけがポツンとあるだけだった。

「いないみないだな。にしても猫がいそうな場所なんて検討がつかねーしな」

 自由気ままな彼らを探すのには骨が折れる。

「なら、路地裏とかどう? 猫ってああゆうところ好きでしょ」

「ん〜、まあそうだな」

 他に当てがあるわけではない。

 誰もいない公園を離れようとしたが何処からともなく聞こえる男の声が二人の足を止めた。

「賢いやり方じゃないね。ローラ作戦っていうのは大抵失敗して、体力を無駄に消費するんだよ。なら、確実な情報を得てそれから行動した方がいいんじゃないかな?」

 誰もいないと思われたが、ドーム状のものに穴がたくさん空いている遊具から三十代のおじさんが現れた。

 服装は顔つきより若い感じのものを着ているのだが内面から溢れ出る渋さがミスマッチしている。

「お、叔父さん⁉︎」

 二人のうち、彼を知る者は顔見知りであり、甥である加々良だけだった。

「やあ、久振りだね。何ヶ月、いや何年振りだろうね? 随分と大きくなっちゃって、彼女と一緒にデートなんて僕でもそんな事したことないよ。僕の知らない翔くんなんだね。喜んでいいのやら悲しんでいいのやら」

「ちょっと、何か勘違いしてるぞ叔父さん!俺と委員長はそんな仲じゃない。ただ迷子の猫を探すのを手伝ってやってるだけだ」

 それ以上何もする気はないし、深く関わる気などない。

「そう……猫をね〜。いやはや運命というかこの世の理を見ているようだよ。不幸の元に生まれてきたとしか思えないね」

 雲ひとつない空を見上げて呟いた。

「それはどういう意味だ」

「いつか分かることさ。それより君たちは猫を探してるんだろ?だったら僕が案内をしよう」

 他に当てもない。

 委員長にはあの中年の人が自分の叔父さんだということを説明して彼の背中を三歩後ろの距離を保ったままついて行った。




「ついた。でも、委員長ちゃんだっけ? 自分の犬……じゃない猫がここにいないことを祈るんだね。祈るだけならタダからね」

 山の中。何分か歩き続けると開けた場所に着き、その光景に目を疑った。

 犬、猫の無残な死骸が何体も転がっていたからだ。数にして二十匹程度だろうか?

 生き物の死体を見るのは初めてではないが、これだけの数になると吐き気が自然と込み上がってくる。

 しかし、鶴ヶ谷はそれに耐えながら自分の猫を探した。声を出すことなく、横たわったものを一匹、一匹確認して何も持たずに帰ってきた。

「どうやら死んでないみたいだね。まあ、別のところにもこんな所はあるけど多分そこにもいないだろうね、何の根拠もないけど」

 その根拠のない自信は見事に命中し、鶴ヶ谷が猫を抱きかかえて戻って来ることはなかった。

「これって一体どうなってるんですか?」

 死体の群れの最後を探し終わった鶴ヶ谷は

「何って戦争さ。犬の猫とね。自然の世界は僕達が思ってるより厳しいんだよ。こういった縄張り争いがあるだなんて」

 その戦争はどっちが勝ったのかはいずれ分かるがこの男のことはずっと何も分からないだろうと確信できた。




「さて、邪魔者がいなくなったらどころだから僕たちは僕たちの話をしようか」

 その邪魔者は最初、納得できず、更に質問重ねたが淡々と返し、全て聴き終わった鶴ヶ谷は足早に帰って行った。帰り道は覚えているというので付き添う必要もなく男二人だけが残ることになった。

「まだ何かあるのか」

「まだ、というより僕にとってはこっちが本命なんだけど、君にとっては最悪の始まりでもあるのかな? でもこれは仕方のないことなんだよ。だから先に謝っておこう。こんな事に巻き込んでゴメンね。でもこれが定めだと思って諦めてくれ」

 叔父さんが謝罪するところなんて初めて見た。それも顔がいつになく真剣だ。

「何を?さっきの犬とか猫の死体のことか? それなら警察とかに任せればいいだろ。ただの喧嘩だ。今回は度が過ぎただけだろうけど警察なら……」

 何とかしてくれるはず、俺はそんな期待をしていた。その時までは。

「無理だよ。あいつらには何も出来ない。出来るのは山のように積もった死体を処理するぐらいさ。根本は解決できない」

「こ、根本?」

「この……そうだね分かり易いように犬猫戦争事件と名付けそうか。妙だと思わないかい? この事件。なんでいきなりこんな事が起こったんだろうね?見たところ野良だけじゃなくて飼い犬、飼い猫もこの戦争に参加しているようだけど一体なんの為にこんな事にしたんだろうね? いや、これに意味なんてないんだけどね」

 回りくどい。

 いつもお喋りなのだが、何か重要なことを言う時には特に話が長い気がする。

「意味がないだと?」

「ないよ。彼らの意思で戦争を始めたわけじゃないからね。誰かと聞かれるとまあ、実際に見た方が早いかな」

 と、渡してきたのは黒縁の眼鏡。

「俺、目は悪くない方なんだけど」

 身体測定では悪いところはない。それだけが自慢できるところだ。

「承知の上で渡してるんだよ。騙されたと思ってかけてみなよ。面白いもんが見られるからさ」

 それが何を意味しているのか俺は何も知らないまま、何の警戒をなしにぎこちなく眼鏡をかけた。

 すると目に飛び込んできた風景は車の二、三倍ほどの体長の黒い四足歩行の生き物だった。

「な、なんだよこれ⁉︎」

 慌てて眼鏡を取り外し、大声を上げた。額からは冷や汗が流れ出している。

「キメラ。この事件の真犯人であり、あちらの世界の住民だよ」

 俺は後悔した。

 何故何の疑いもなしに眼鏡をかけてしまったのか?もしあの時、かけていなかったら普通の生活が送れたのではないか?

 しかし、それはどうしても避けられなかった運命なのだと諦める他ないのかもしれない。

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