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断りのキメラ   作者: 和銅修一
13/26

突然の強襲

 テスト当日。

 優は回復し、キメラを倒したので妙な事件は起きていない。まさに目の前のたんこぶが消えた気分。

 ベストコンディション、だと思った。篝火の鋭い気を感じるまでは。

 テストの時は番号順で座る。つまりは後ろの席が篝火となる。

 しかし、それでテストがどうこうなるわけではない。こちらが無視を徹底してしまえさばいいだけの話。

 無視、無視、無視。

 すぐに引き下がると思われたが、最終日まで続いた。

 そして最終日は待ちに待った? 数学。これはみっちり教えてもらったのでいい点を取らないといけない。

 プレッシャーが半端ではない。更に後ろには測定器を軽く壊してしまいそうなほどの気を放つ篝火。

 やるしかない。俺は覚悟を決めてシャーペンを走らせた。一通り終わっても寝ない。何かミスしていないか確認。

 教えられたテストのやり方のお陰で答案用紙の空欄は全て埋まった。

 自信はある。全て埋まったからではなく、感覚的に。

 そしてテストは終わった。テストの唯一の良さは早く帰れることだ。それは最終日である今日も変わることはない。

「さ〜て、帰ったら何しようかな?」

 俺は知らない。今日の午後に本当の修羅場というのを目撃することになるなんて。




「ふぅ、だいぶ慣れてきたわね」

 一人でキメラファームに来ている篝火は自分の武器で空けた壁の穴の数々を見て呟いた。

 誰にも教えてもらってはいないし、武器の説明書などないが何故か手に取るように分かる。

 不本意ではあるが、あのオンボロ小屋の主に武器の使い方を教えてくれないかと訪ねた時に「その必要はないよ」と断られた理由が今となっては頷ける。

「今日はここまでにしようかしら」

 テスト終わりで早帰りだったのでいつもよりも練習出来たがここに長時間いるのは正直、疲れる。

 これがこの世界のせいなのか練習のせいなのかは今だに不明なのだがやめるわけにはいかない。

 しかし、すぐに戻るわけにもいかない。

 もし今ここで戻って誰かに見られたりしたら大変だからだ。それこそ事件になりかねない。

 だからいつもあの小屋の近くや路地裏、人けのない所から戻るようにしている。

 今日は人けのない場所を探すより小屋の方が近い。それにあのニートに聞きたいことがあったのでそちらに足を向けた。

 チュンッ‼︎

 すると足の先から拳ひとつ分くらいの距離のコンクリートに風穴が空いた。

 練習で篝火で空けたそれよりも穴は小さいけれど十分恐怖を感じ取れるものではある。

「私を狙って撃ってきたわね」

 冷静沈着。敵意があるのが分かった途端に攻撃してきた方向であろうところを予想して壁に寄りかかる。

「全く、ここは私を飽きさせないわね」

 寄りかかる前に穴の中を一応確認してみたのだが、そこには鉄砲の弾らしきものが埋まっていた。

 その形状からしてハンドガンではないのは確かだ。それにハンドガンならそう遠くない位置にいるはずなのに影も見当たらない。

「一発目は(わざ)と外したとしか思えない位置ね。だとしたら敵の武器は精密な射撃を可能とするスナイパーライフルといったところかしら」

 なのだが、この世界にスナイパーライフルなどという物が転がっているとは考えにくい。それにあの知能の弾くそうなキメラ達にあれが扱えるとも考えにくい。となると……

「敵は人間……ということね」

 この世界にいるとなれば恐らく同じように門を持っているはず。

 幸か不幸か、それがたまたま同じ射撃型の武器だったということ。

「にしてもこれじゃあ、帰るに帰れなくなってしまったわね」

 助けを求める?

 いや、その為には一旦元の世界に戻らなくてはいけない。それでは本末転倒。

 嫌な理由はもう一つ。この場合助けになってくれるのはあの男しかいないことだ。

「あんな唐変木なんかに頼りたくはないわね。ここは一人でどうにかするしかなさそうね」

 我ながら変わったと笑ってしまう。

 いつもなら自分一人で、と何の迷いもなく突っ込んできたのに今では誰かに助けを求めることを覚えた。

 それが良いのか悪いのかは誰にも分からないが、味を占めたとは思われたくない。

 何よりあの男に負けたくない。

「こうなったら、強行突破ね。森まで行けば私のものだわ」

 これは戦いと呼ぶには相応しくない。何故なら成立していないからだ。戦う理由がない、利益がない。

 だったら戦う必要はない。こういった時は逃げるのが利口な考えだ。臆病だと言われても、みっともない格好になっても逃げるのが正しいのだ。

 しかし、敵はそうはさせてはくれなかった。

 驚くほどの精密射撃で走っても最初の弾のように足を止められてしまう。それどころか誘導されている気がする。

「マズイわね。これじゃあ逃げる事も出来ないじゃない」

 どの方向に走っても結果は同じだった。

 相手もこちらに合わせて移動しているらしい。どうせ何処かの屋上で今もスコープを覗いているのだろうが射撃が得意なのは何もそいつだけではない。

「そろそろ溜まったかしら」

 敵の居場所は大体は分かっている。計算によるもので確証はないが逃げ続けて罠にはまるよりかはマシだ。

 六つの漂う銃から一つを選びそれを目の前にある二階建ての家の上の方を狙って赤い光線を発射する。

 光線のエネルギーはこの世界の大気中にあるもので補給するのには多少時間がかかるが威力はそこそこなもので、家なんかは軽々と貫通できる。

 家を貫通した光線は真っ直ぐ進み、とあるビルの屋上ら辺に当たり、建物の破片を散らばした。

「やったかしら?」

 そのビルが見える位置へと移動するといきなり三発の弾丸が飛んできた。

 反射的に浮いた銃を盾とするが耐久性がないので煙を上げて浮力をなくしてしまい、コンクリートの地面に触れると同時に溶けるように消えていった。完全に破壊されるのを防ぐ為だろう。

 こうして残るは三つ。今放った銃がその中にあるので実質的には二つ。

 勝機が薄くなってきた。やはり逃げたいところだが今からでは遅い。あの三発は苦し紛れにしては狙いが良すぎる。

 計算された反撃とみていいだろう。

 が、お陰様で居場所は検討がついた。

 あのビルの屋上ら辺に直撃してから少しの間があって反撃してきたとなると、やはり狙いは間違っていなかった。

 ただ、完璧に避けられ、その後にビルから飛んで、落ちる最中にあの攻撃をしたとしか考えられない。

 そう至ったわけはタイミングと弾丸が飛んでくる角度にある。

 消える前に一応確認したのだが一つ一つの穴の形が微妙に違った。それに、普通に反撃したのなら弾はすぐに来たはずだ。それなのに何故か間があった。

 ここまで距離を詰めたので敵は本格的に移動をしたがるだろう。しかし、階段を一段一段降りていてはビルから出たところで鉢合わせになってしまう。

 ならどうするか? 答えは簡単だ。そのタイムロスを無くせばいい。飛び降りるという方法を使って。

 勿論、下にはマットなんかを敷いて。

「敵と中々やるわね。こうなったら意地でも顔を見てみたいわ」

 敵ながら称賛に値するというやつ。それと感謝がしたい。

 色々と溜め込んでいたものがこの戦いでスッキリした。まるで背中に羽が生えたような、そんな気分。

 だからといって敵をみすみす見逃すわけにはいかない。

 屋上のところが壊れているビルの裏側に回ってみたがマットらしき物はなかった。何か他の方法で降りたのだろう。

「手を上げて」

 気がついた時には銃口が後頭部に突きつけられていた。予想が外れて普通のハンドガンの。

 どうやって飛び降りたか、足跡がないかを徹底的に調べていたから背後の敵に気づけなかった。

 そうだ。何でこんな事を忘れていた。

 犯人は現場に帰ってくる。

 逃げてはいなかったのだ。ただ目が違うところに向けられる時を待っていた。待っていたと言うより仕掛けていた。

 流石にこれから逆転するのは難しい。

「武器をしまって」

 従うしかない。宙に漂っている棒状の銃を消す。こうでもしないと何をしでかすか分かったものではない。

「しまったわ。それで私に何の用かしら?言っておくけど私の時間は高いわよ」

「国の予算ぐらいあるんだよな」

 それは一度聞いたボケだ。覚えている。

「あ、翔。どうしたの?」

「どうしたのよじゃねーよ。なんでお前がここにいて篝火に銃口向けてんだよ」

「これは正当なる防衛。翔を付け回してたから、ちょっと話を聞こうと思って」

「お前はたまに行動が読めんな。取り敢えず銃しまえよ」

「うん、翔の頼みだったら。あれ? 眼鏡。目が悪くなったの?」

「これが俺の門だよ。てか、門の事知ってるのか?」

「翔……、眼鏡姿も似合ってる」

「話聞いてねーなお前」

 仲のいい会話。

 だが、篝火にとってはちんぷんかんぷん。流れが全く読めないでいる。

「ちょっ、ちょっと待ちなさい。貴方達は知り合いなの?」

「ああ、昔からのな。だからもうこっち向いて大丈夫だぞ」

 銃は加々良の言いつけ通りにしまわれている。そっと自分の後ろをとった人物の顔を拝む。

 男みたいに短い黄緑色の髪、鍛えられた体は引き締まっていてくびれが自然と出来ている。ストッキングは彼女の足の美しさを強調している。

 それに胸……、いや、これはあいこだ。

「どうも、自己紹介が遅れました。私は水野瀬(みずのせ) (れい)。翔の許嫁(いいなずけ)でもあります」

 素の顔でそんな大胆な事を言ってのけた彼女は容赦無く引き金を引ける女だと篝火は知っている。

 だからこそ強い。

 計り知れないほどに。それでも篝火も負けてはいない。

 水野瀬 玲。彼女は知らないであろう。篝火の銃の全部の数を、あの時に消したのは一つだけ。残った一つを袖に隠していることを。

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