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断りのキメラ   作者: 和銅修一
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謎の暴走

「いってぇ〜。喧嘩は苦手とか言ってなかった?それにしてはいいパンチ隠し持ってたなオイ!」

 吹き飛ばされた先は美術室。木の椅子や机が丁寧に並べられていたが、それらは窓から勢い良く入った生徒のせいでグチャグチャにされた。

「フシュルゥーーーー」

 次に美術室に入り込んできたのはここの生徒であったが何の前振りもなく銀色の怪物(見た目は騎士に近いが)になってしまったものだ。

「すまん。俺日本語しか出来ねーからそれで会話してくれないか?そうだな……まず、俺はお前を斬っていいのか?」

 先に動かしたのは質問をされた方。ただ一直線に突っ込んで来る。

 迫力や大きさは鵺にも負けていない。寧ろ、銀色があるせいで格好良ささえある。

「よっと!」

 だからといって当たってあげる訳にもいかない。何とか体を(ひね)って紙一重で避ける。

「フシュルゥーーーーー」

 またも妙な鳴き声を発する。

「なかなか好戦的だな。あの時を思い出すな」

 友達になるキッカケとなったあの口論を。

 あの時は豹変ぶりにビックリしたものだ。それが本当の彼だったかもしれない。これが本当の彼かもしれない。

 だが認めたくはない。友達がいきなり怪物になるなんて。

「フシュルゥーーーールーーーーー」

「だからそれやめろって」

 本当に、さっきの見た目がおどろおどろしい鵺よりも恐ろしい。猿や虎などの見知ったものはないからその分が大きさだろうが何より銀色の鎧の奥に見える眼光が妙に鋭いからでもあるだろう。

 最早、優とは呼べない。他の何かになってしまい、既に精神も乗っ取られている。

「ガウラーーーーーーー‼︎」

 なりふり構わず両拳を大振りで放ってくるが一定のリズムでこれも避けることは容易かった。

「やりにくいが斬るしか道はないようだな」

 覚悟を決めて二本の刀を握りしめた途端、怪物は忽然と姿を消した。この狭い美術室ではあの大きな体を隠すところなどないというのに。

 普通なら目を疑う光景だがそれを体験したことのある加々良はすぐに状況を飲み込んだ。

 見る方は初めてだが対処方なんていくらでもある。

「考えたなデカブツ! だが、ここが美術室ってこと忘れるなよ」

 近くにあったペンキの缶を指して回転をかけながら前方へと放り投げる。そうすることで穴から中身が飛び出し、美術室の中がペンキに染まる。

 顔や服にかかったがそれは問題ではない。

「見つけた!」

 ペンキの散らばり具合は予想通りのものとなった。横に回転させたから円状に広がり宙に付着した箇所が一つ。それは消えた場所とは全く違うところにある。

「何かは知らんが、俺の友人の為だ。斬らせてもらう!」

 いくら見えなくなったとはいえ、存在自体が消えたわけではない。触れることは可能だ。

 満遍なく散布させたペンキが当たらないわけがない。そして不自然な形でペンキが付着したところが奴の居場所となる。

 距離は三メートルほどあったが今の断刀にはスライムがついている。

 その伸縮性のある体で射程距離は無限となり銀色の怪物の体を真っ二つに引き裂いた。

 結果、いつもの姿の優と彼の門であるヘッドホンに分けられ、転がり落ちた。

「大丈夫か⁉︎」

 焦りで良く分からないまま斬ることになったが必ず助けられると確信があったわけではない。男の勘というか、流れとかで斬ってしまったわけで、怪我をしていたら何と謝罪していいやらと不安になってしまう。

「う、うん……ありがとう……」

 ただそれだけ言い残すと疲れきった優は眠るように気絶した。

 どうやら心配は無用だったらしい。

「さて、叔父さんに報告しに行くか」

 恐らく、優が怪物になる原因となった銀色のヘッドホンと眠った友人をあの山の中にある秘密基地へと運ぶ。




「ん〜、成る程、成る程。大体理解したよ」

 まるでそれが当たり前かのようにボロ小屋の主、ではなく虫でありソファに座り込んでいる葉狩に先ほど起きたことを全て伝えた。

 説明は難しかったが話を読み取る事が上手いのが数少ない叔父さんの長所なので何とかなった。篝火が相手だったら怒られているところだったがそれは今は関係ない。

「棒が壊れたら急に怪物になったとすると代わりの棒は必要ないね。まあ、でも翔くんが気にしなくていいよ。いずれはバレる事だったからね。それよりも問題はお相手さんがこんな乱暴な方法をとってきたことだよ」

「優を怪物に変えたことか? あれって結局どういう仕組みだったんだよ」

「簡単だよ。門にキメラが仕込まれていたんだ。その状態であの子に接触してさりげなく渡した。それで僕たちが尻尾を見せたらあの子の体を乗っ取って暴れたってこと。分かったかな?」

 こういう時の叔父さんは得意げを通り越して偉そうに振る舞う。自分より無知な奴が嫌いなのだろう。甥だというのにこの時は篝火と同じ目をされる。

「何と無くな。でも一体誰がそんなこと……」

 理由が分からない。何故スライムを触れるくらいでそんな反応をする?それに渡したとなると相手は人間しかないない。

 つまりは人間がキメラの味方をしている?何の為に?頭が限界だ。もうそろそろ考えてたら煙が出てしまう。

「細かいことは気にしなくていい。どうせいつかは知ることになるんだから。それとこの子の事は任せておいて翔くんはもう帰ったらどうだい? あまり遅いと僕が君のお姉さんに怒られることになるからね〜」

 気絶していつ起きるかもしれない優を待っていたら確実に夕日は沈んでいるだろう。そうしたらタイムアウトだ。俺の姉がここに来る。

 叔父さんはそれなりに信用できる人だが嫌われる事の方が多い。特に同い年やその上には。そして俺の姉には。そこら辺も勘当された理由に入っているかもしれない。

「分かった。じゃあ優の家の住所、メモに書いとくから起きたら無駄な話してないで全部教えてから返せよ」

「そんな心配しないで大丈夫。ほら、子供は帰った帰った〜〜」

 手の甲で邪魔だと言わんばかりに追い返された。

 この小屋は元は俺の秘密基地だったことを忘れているのだろうか?まあ、それはいい。取り敢えず家に帰ろう。

 俺は連戦の疲労感を肩に感じながら真っ直ぐ姉が待っているであろう我が家へと進んだ。




 家の玄関に到着するとメールの着信音が響いた。

 こんな時間に一体誰だと徐に携帯を開くと宛先篝火、明日覚えていなさい。という、これが俺との初めのメールとは思えない内容があった。

「うわー、あいつ絶対怒ってんじゃん」

 テスト対策よりも命を守る為に篝火の対策を立てないといけないらしい。取り敢えず『綺麗な土下座の仕方』と調べようとしたところで指が止まった。

 流石にここではマズイ。せめて自分の部屋でやりたい。

 なので俺はいつもより重たい玄関の扉を押すと聞き慣れた声が。

「お帰りなさい。それとも私?」

「色んなもん吹っ飛ばしたなオイ!」

 オレンジ色の前髪パッツンの巨乳美少女。

 彼女こそが我が姉である加々良 日田和(ひたわ)。親の帰りが不定期なこの家を任されている人物でもある。

「それで? ビーフorフィッシュ?」

「ここは飛行機ですか? あとビーフでお願いします」

 よく姉を見せた後で言われるのは「お前の姉さん天然だな」で、それに萌えるとか言い出す馬鹿もいるが現実の天然は疲れる。

 二人っきりだから悪意のないボケは弟である俺に集中砲火されるわけだ。後は分かってくれ。

「うん、今日はハンバーグだよ」

「なら何故フィッシュを出した?」

 話が噛み合わない事を気にしていたらやっていけない。篝火の罵倒に耐えられているのもこの日々のやりとりの賜物(たまもの)かとしれないが、別に嬉しくもなんともない。

「美味しい?」

 先に食べ終えているのに日田和はテーブルに座り、翔が自分のハンバーグを食べるのをニコニコして見つめる。

「ああ」

 姉弟だからといって趣味が一緒なわけではないし、歳も離れているので学校ネタは無理。

 そうなると会話はあまり続かない。

 だが彼女は天然である。

「それ私が作ったんだよ〜」

「言われなくても知ってる。俺が作ったやつじゃないからな」

 いつも交代制でやってて、今日が誰なのかくらいは覚えている。

「じゃあ、お風呂にする? 私も入るんだけど?」

「いや、いい。一人で入ってくれ」

 俺が入ってて後で入ってくるのなら何処かで見たパターンではあるが、姉が入っているのを知っていてお風呂に行く奴はシスコンかただの変態しかいない。

「え〜〜、最近のカッくん冷た〜〜い。昔はよく一緒に入ったのにな〜」

 因みにカッくんとは俺のことだ。昔っからの呼び方をそのままでいつまで経っても変えないので諦めている。

「高校生になった今それをやるのは犯罪に近いんだよ」

「へ〜、カッくんって物知りなんだね〜。そうだ、お風呂に入る前に聞きたいことがあるんだけど?」

「あ? なんだよ」

 食器を片付けるとピンク色のノートが手渡された。開くとそこには蛍光ペンなどで解りやすく解説されている数学の公式と例題があった。

「あ〜、そういえば委員長にノート見せてくれって頼んだな〜」

 勉強しても勉強しても点数が上がらないのでノートの取り方とかが悪いんじゃないのかとふと言った事はある。

 ただのこじつけのつもりが、このノートを見ると自分の考えが正しかったのかもしれないとさえ思ってしまう。

 それほど綺麗なノートで、俺のと比べると雲泥の差があるのは明らかだ。

「今日、カッくんが帰ってくる十分か二十分前くらいに女の子が訪ねてきたからビックリしたよ。でも、その委員長ちゃんにはカッくんを任せられないな〜。やっぱり私じゃないとね〜。そうだ! 今日はカッくんと一緒に寝よう。そうしよう」

 あれ? 何この流れ?

「は? 何でそうなんだよ!」

 一線を超えるつもりない!あ、そういう意味じゃないか。

「じゃあ、委員長ちゃんとの関係を教えて」

「関係って、ただ俺に勉強を教えてくれる友達だよ」

「もっと、細かく、具体的に。出会いだとか、委員長ちゃんの性格とか。出来ればカッくんの恥ずかしエピソードを加えて」

 それは流石に……ってさり気なく関係ものなかった⁉︎あったとしても無視するけど。

 しかし、出会いについてはあの世界の事とかが絡んでいるから話しにくい。

 心苦しいが嘘をつくことにした。

 その時俺は何故か、零点の答案用紙を隠す少年の気持ちが少しだけ理解できた気がする。

 零点なんてとったこと……ないけど。

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