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断りのキメラ   作者: 和銅修一
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凡人の策

「まだ胴体はないね」

「ああ、俺たちが喋ってる間にもお探しのタヌキはどうしても見つからなかったらしい」

 俺は眼鏡をかけて、優は仕方なく一旦世界に潜り込んで安全な三階廊下からそれを確認して門を閉じた。

「でもあれは何てキメラかな?」

 門を持っていただけで殆どキメラファームについての知識がなかったから叔父の受けよりだが、大まかなことは話しておいた。

(ぬえ)だよ。頭が猿で手足が虎、尻尾が蛇で空いた胴体がタヌキのものなるとそれしかいねー」

 これも叔父の受けよりの情報だ。

「まあ、平たく言うと妖怪だな」

「え⁉︎キメラじゃないの」

 驚くのも無理はない。こうなるとキメラがなんなのかも分からなくなるだろう。

「見た目はそれと同んなじって事だ。本当に妖怪って事じゃない」

 だから本当に鵺というわけではなく、鵺に見えるだけで本質はキメラと何ら変わらない。

「でもどうしよう? 普通に戦っても勝てる気がしないんだけど」

「あれはどうだ?俺たちを助けた姿を消すって能力。それで近づいて俺が止めを刺す」

 シンプルで篝火がいたのなら面白くないと指摘されるかもしれないが、今のところ1番有効的な手段ではある。

「そ、それが本当に申し訳ないんだけどあの能力、動いたら解除されちゃうんだ」

「なっ⁉︎ マジか〜〜……」

 一番有効的な手段が消えた。

「門を近くに開く……は駄目だよね。入った瞬間に攻撃されそう」

 そう。前にも後ろにも目があるから入った瞬間に首を()ねられる可能性大だ。勿論、他のキメラにも使えない。そんな柔な相手だったら最初から苦労などしていない。

「だったら作戦とか無理か?ふ〜、こういうの委員長だったらすぐにいい案出してくれそうだけど巻き込むわけにはいかねーからな」

 単純にあの世界に関わるといい事になんてない。それは我が身で立証済みだ。

「でも鵺は中庭から出そうにないよ」

 必死に胴体となるタヌキを探しているのだろう。中庭をウロウロしている。

「お前、俺の叔父さんみたいにキメラに変な名前つけるなよ」

「でもこの方が呼びやすいじゃん」

「まあ、そうだな。それよりもどう倒すかだ。中庭だとどうしても木が邪魔だな。でも中庭から出るのを待ってる間に胴体も揃う可能性もあるし……」

 う〜ん。何も浮かんでこない。

「こうなったら当たって砕けろだな」

 もう考えるめんどせ〜。あれだ、テスト終わったら寝たくなるあの現象と同じだ。

「だ、駄目だよ加々良くん。それ僕らやれちゃってるよ。せめて砕けさせないで〜」

「と言われても策がね〜」

 優には悪いが俺は頭がいい方ではない。寧ろ悪い方。下の上ぐらい。

 眼鏡をかけて中庭の構造を確かめてみるがこれといったものは何も……。

「あ、そうか。別にそんな難しく考えなくていいんだ」

「え? どしたの、もしかして」

「そのもしかしてだ! 準備しろ優。これから鵺退治に向かうぞ」

 二人の作戦タイムは終え、キメラファームへと突入し優にとって初のキメラが始まった。




 この学校の中庭は二つに分けられる。

 校門側のと渡り廊下の先にあるエリアの二つだ。大きさは二つ合わせてテニスコート四個分くらいに匹敵する。木の数は全てで二十本。

 足元はレンガのようなもので綺麗に整理されている。校長自慢の中庭だ。

 生徒にも人気でよく弁当を食べるのに使われている。そこを今牛耳っているのは不良とかではなく大きな顔をした、猿顏のキメラ。

 俺たちはそれは倒す為に中庭に立つ。

「いいか、怯えるんじゃないぞ。そのままにしてろ」

「う、うん」

 鵺と名付けさせらそれは知りもせずにノシノシと虎の手足でタヌキを探し続ける。ただにたすらに。

 キメラにとって全て揃っていないということは大きな問題だ。二つの生き物が合成したそれよりも力は格段に上だが本来の力が発揮出来なくなり、私生活にも支障をきたす。

 鼻が効かなかったのもそうだ。動物なら敏感なはずの嗅覚がだ。

 だが他はちゃんと機能している。ちゃんと普通の生き物のように歩けるし、目は見えているがそれは生き物としであってキメラとしてではない。

 そこが弱点で今回の作戦を思いつくキッカケとなった。

 胸を張れるほどのものではないがこれしか考えつかなったから仕方ない。

 兎に角にも俺たちは作戦通りに各々の武器を構える。

 加々良は棒の両側に断刀がついたものを突き出し、簗場はグローブを装着してそれで耳を塞ぐ形で待機している。

 そう待機。これで総攻撃を仕掛ける為ではない。

 チャンスは待っているばかりではやって来ないと言うが今は違う。まずここはキメラファーム。世界の理など関係ない。だからこそこの作戦は成り立つ。

「ヒョッァーーーーーーーッッ‼︎」

 一歩、鵺が踏み出すと鳥のトラツグミの声に似た気味の悪い叫び声を上げた。

 それもそのはず両目に断刀が突き刺さっているのだ。どんな怪物でも目を貫かれたら雄叫びの一つや二つはあげたくなる。

「やっぱり体がでけーと一歩もでかいんだな」

 作戦は成功。とても単純で面白くもない作戦が。

 これを思いついたのは鵺の行動が異様だったからに他ならない。まるで機械のように同じルートでタヌキを探していた。

 最初はただの偶然だと思ったのだがそれが何十回も繰り返されているのを見て確信した。

 胴体が無いから動物性がないんだと、ただ亡霊のようにただ何かを求めて彷徨う不完全な怪物になったんだと。

 だから、そのルートを頭に叩き込んで鵺からこちらに近づく場所で優が俺たちを助けてくれた時にみせてくれた能力で武器を構えた状態でただジッと待った。断刀がその猿顔が突き刺さるのを。そしてそれが今!

 すかさず突き刺さった武器を上にあげて頭部にもダメージを与える。

「ウギャウッ‼︎」

 キメラという怪物にも痛覚はある。肉が抉られもがれ苦しむ。

 だがやはり怪物。苦しんだのはものな数秒ですぐに強靭な前足を振り下ろしてきた。

「うっ‼︎」

 流石は虎の足といったところ。かなり強烈で、苦痛で自然と顔が歪んでいるのが分かる。

 ただし、それは咄嗟に後ろに飛んだお陰で衝撃は殆どなく、耐えられた。

「ぼ、棒が……」

 耐えられなかったのは二本の断刀の間にある、持ち手の部分が粉々に砕かれた。それはもう気持ちいいくらいに。

「こんなゴミくれてやるよ」

 棒と刀の接合部分であった琥珀色の何かは彼の声に反応したようにウネウネと動きだし三十センチほど伸びた。

 それを掴み、普通の二本の刀になった断刀で何の躊躇もなく斬りつけた。

 狙いは正確で猿の首と虎の手首足首。斬れたと同時にそれらは消滅し、赤い霧の胴体と蛇の尻尾だけが残った。

 最後の一斬りとばかりに刀をで大きく赤い空に向けて振り下ろしろそうとしたが体の半分を失った鵺の胴体の霧は自然と消滅し、縛るものがなくなった蛇もそれと同様にこの世界から消えた。

「消え……た。これって勝ったの?」

「ああ、その通りだ。俺たちは勝ったんだよ」

 これで新たなる事件も起こらない。

「でもそれってどうなってるの?」

 指を差す先には持ち手となっていた棒が壊れて、その代わりに琥珀色の何かが蠢いている。

 生き物のように蠢いていたそれは見間違いでなれば、まるでゴムのように伸びた。なのに今は鉄のように硬い(つか)となり、平然としているが誤魔化せはしない。

「これはスライムだよ。叔父さんが俺の為に探してきてくれたんだよ」

 初めて武器を受け取った時には棒と一緒に説明された。

「ス、スライムってあのスライム?」

「そうだ。RPGの雑魚キャラでお馴染みのあのスライムだ。叔父さん曰く琥珀色だから普通のよりも探すのは大変だったし、能力が違うって言ってたけどな」

 ただそれ以外は聞かされていない。何処で捕まえたかとか、一体どんな事が出来るとかは「後で分かるよ」と子供扱いされてしまった。

「でも、それってキメラ……なんじゃないの?」

 スライムなんて実際に存在する生物ではない。空想上のものだ。それは先ほど倒した鵺と何も変わらない。

「ん〜、でもこいつは俺に従ってくれるからそんなの気にしてないぜ」

 何も全てのキメラが嫌いというわけではない。こちら側の世界に影響を及ぼすもの、事件を引き起こすものしかものなどしか斬らない。

 それにこいつは叔父さんの保証付き。脳なんて複雑なものはないから裏切りなんてない。道具と同じだ。これまでそうやって使ってきたからあまり気にしたことはない。

「じゃあ、あの棒って何の意味があったの?」

 スライムを使うのに抵抗がないのなら最初から今みたいに普通の刀の形で使えばよかったのに頑なに、壊れるまで棒を取り外す素振りなんてしなかった。

 はっきり言って見ている側からしても使えにくそうで少し目障りでもあった。

 でもそれは棒も武器の一部だからで仕方ないと諦めていたが、いとも簡単に外れてしまった。

「これは叔父さんに付けとけって言われてたからだよ。まあ、壊れたから仕方ないけどな」

 一体どんな理由で……いやそれは問題じゃない。つまり葉狩は何かを隠そうとしているというのは確実。彼はそれだけが分かれば十分だった。

「でも、どうしたんだよ急に。お前、さっきから質問ばっかじゃねーか。いや別にいいんだけどよ。お前ちょっと変わった……」

 か?

 振り向いただけでその一文字が言えなかった。

 目の前の、一年からの知り合いの簗場 優が銀色の鎧に埋め尽くされていた。鱗と言ってもいい。

「フシュルゥゥーーーー」

 体全体が銀色だ。頭も腕も足も。目だけは見えるように穴があるが簗場 優本来の姿はそれだけとなっていた。

「オイオイ、人って一年で変わるもんか?」

 背も俺より低かったのに倍くらい大きくなっていやがる。

 唖然とするその顔に突如として現れた銀色の怪物は拳を叩き込んで、その体を軽々と吹き飛ばした。

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