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断りのキメラ   作者: 和銅修一
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王妃の手鏡

 この学校には個性的な奴が多い。

 特に一番気になっているのは王妃と呼ばれている篝火(かがりび) 弥富(やとみ)

 王妃と呼ばれているのはいつも手鏡を持ち歩いているからだ。しかも装飾が派手で高そうなものを。

 俺も何度か見たことがあるがそれを覗き込む彼女の目は何かを恐れているように思えた。

 しかしここの校則は本当にこれでいいのと聞きたくなるほど緩々だ。

 まあ、こちらとしては大学にいるみたいで楽しいからよしとしている。

 問題は篝火 弥富が妙に鏡を気にしているということだ。

 いや、鏡というより鏡の中を気にしているように見える。まるでそこから何か飛び出してくるのを待ち構えているようで俺は彼女のことが気になっている。




 話は突然変わるが俺は数学が嫌いだ。

 他の教科ならそれなりの点数が取れるんだが、何故か数学だけが全くいい点になった記憶がない。

 公式を覚えるのも面倒だし覚えたら覚えたで応用問題がある。

 いつもここでつまづいてしまい、挙げ句の果てには昔の人はどうしてこんな計算を編み出したのだろうという考えに行き着いてしまう。

 だからこそ俺は数学が嫌いだ。

「口じゃなくて手を動かして加々(かがら)くん」

 こうして嫌がる俺、加々良 (かける)を放課後の教室の椅子に座らせ目の前に鎮座しているのはクラスメイトであり委員長でもある鶴ヶ(つるがや) 芽衣(めい)

 成績優秀、真面目、三つ編みツインテール、分け隔てなく人と接する態度。

 一部の男子からは天使として崇められている。

 ちなみに三つ編みツインテールはカジュアルツインテールと呼ばれ三つ編みで編んでいるので普通のそれより短く、この髪型はしているのは学校内では彼女しかいない。

 そんな彼女とどうして放課後を共にしているかと言われると二週間後のテストが原因だ。

 いつもなら一週間前ぐらいに勉強を始めるがそれでは遅いと今日からみっちり勉強をすることになった。

 教科はもちろん苦手な数学。

 基礎は何となく理解していることを証明したところで問答無用に応用問題を突き出され頭を抱え込んでいた。

「あれ? もしかして口に出してた」

「うん、俺は数学が嫌いだってとこから」

「最初からかよ‼︎」

 机をがたりと揺らして驚くがそんなことを気にもしないで躓いている問題をシャーペンで指してくる。

「この公式を当てはめてやるだけだよ」

 ガン無視とはこの委員長、所々怖い。

「それでさちょっと聞きたいことあるんだけど」

 時々ある分かりやすい教えのおかけで手はスラスラと動かしながら顔を上げる。

「何? 分かることだったら教えるけど」

「篝火 弥富って奴いるだろ?そいつのことを知りたいんだよ。どんなやつだとか」

 篝火 弥富は有名人だが知っているのは噂だけで性格や趣味は一切知らないし、本人に聞こうにも軽くスルーされそうなので物知りの彼女に聞くことでガラスのハートを傷つかないようにした。

「へぇー、加々良くんってああいうのがタイプなんだ」

 ジト目で睨んでくる。

「何か勘違いしてないか? 俺は篝火 弥富がいっつも鏡見てるってことが気になってるんだよ」

 まず学校に鏡は持って来ていいのかどうかというのはさておき、一体何を見ているのか?

「ん〜、確かにあれは私も気になってるんだけど加々良くんは篝火さんことどれくらい知ってるの?」

「鏡持ってて、それなりに頭良くて、同じ学年ってことぐらいだな」

「それだけ⁉︎ あの……一応篝火さんはクラスメイトだよ」

「⁉︎…なんだって…」

 驚きの真実‼︎

 篝火 弥富はクラスメイトだった。

「いや、そんな目を丸くして驚くようなことじゃないですよ。もう二年生になって二ヶ月も経ったじゃないですか」

「た、確かにそうだな。もうそんな経ったか」

 一年生では先輩にビクビクして三年生になったら将来のことを真剣に考えていかなくてはいけない時期になる。

 そのどちらでもない気楽な高校二年生生活も二ヶ月が経った。

「でも大変だったよね犬猫戦争事件とか」

「ああ、あれは本当に大変だった」

 犬猫戦争事件。

 その名の通り、犬と猫が戦争を起こした事件だ。

 最初は喧嘩が多いぐらいの騒ぎだったが次第に悪い方へと肥大化していった。

 しかし、これは過ぎたこと。

 この事件で委員長とこうして話すような仲になったが思い出したくない。

「それより篝火の話の続きだ。他に何か知らないか?特にあの鏡を何処で手に入れたとか」

 閑話休題。

 過ぎ去った二ヶ月の間に起きた事件なんて思い出している場合ではない。

 今は篝火 弥富の情報が欲しい。

 この不安を拭い去ってくれるならその証拠を。

 この不安が現実になりそうならその具体的な理由を。

「ん〜、そうだったね。でも私、篝火さんとは去年同じクラスだったけどあの時は鏡なんて持ってなかったよ。最近、気になって篝火さんと同じ中学だった人に聞いたんだけどその時も鏡なんて持ってなかったらしいけど……って普通は学校に鏡なんて持ってこないだろうけどね」

 そこはここの校則が緩いというご愛嬌。

 問題は何故篝火さんが高校二年生になった途端に鏡を持って来るようになったかだ。

「でもまあ、本人に直接聞いた方が早いか」

 何かある前に行動しておきたい。

 俺はそんな衝動に駆られ、立ち上がりランナウェイしようしたが後ろから委員長の手が伸び制服の袖を掴んできて動けなくなってしまった。

「何処へ行くんですか? せめてこの問題が解けないかぎり返す気はありませんよ」

「いや…でも、ほらこうしてる間にも俺を求めている声が…」

「そんな中二病的な言い訳はいいですから座ってください。加々良くん次第で早く終われるんですし、どうせ暇でしょ」

 暇……。

 確かに部活はしていないがそこを突かれるのは痛い。グサっとくる。

「わ、分かりました」

 よくよく考えると今から追いかけても篝火さんに会えることが出来ないかもしれない。

 というか彼女が部活をやっているなんて聞いたことがないので真っ直ぐ家に帰ってしまっただろう。

「じゃあ、優しく教えるよ」




「今日はここまでにしよっか」

 終わった時には空は既にオレンジ色に染まっていた。

「はぁ……、俺も帰るか」

 家までは歩いて十分か十五分ほどだ。今から帰っても暗くなる前には帰れる。

 委員長はもう校門まで到達し、そのまま左に曲がるのを眺めていると彼女が現れた。

「貴方、委員長と仲良いの?」

 見覚えのない女子生徒。

 紫色の長いその髪は『凛』という文字がお似合いで彼女の眼差しは明らかに人を見下すような目をしている。

「誰だお前」

 正直、女友達というのは少ないのでほとんどの女子が同じように見えてしまうのだが目の前に立つ彼女だけは違った。

 委員長のように特徴があるからとかではなく、纏っている雰囲気が他の誰よりも異様な空気を醸し出している。

 まるで一人で何かと戦っているような、そんな感じなものを。

「あら同じクラスなのに酷いわね。ならこれで分かってくれるかしら」

「な‼︎」

 取り出されたのは持ちてと同じような形のものが周りについた鏡。

「じゃあ、さっきのは訂正して率直に聞くわね。何故私を嗅ぎ回ってるいるのかしら、加々良 翔くん」

 この学校には個性的な奴が多い。

 その中でも俺が一番苦手としているタイプに俺は捕まってしまった。

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