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君の瞳の奥  作者: naz
1/1

♯1

初めての小説です。文法や誤字脱字、理解いただけないこともあると思いますが、広〜い心で読んでいただけたら嬉しいです。中傷などは止めて下さい。ご了承いただけた方のみどうぞ。

学校の女子トイレ。薄暗くなり、誰もいなくなった校舎には叫ぶ声なんて空気に溶けていく。

「やめてよ‥!!」

「何言ってんだよ?虐められて嬉しいくせになぁ?愛しの優護くんに話しかけてもらえるもんなぁ?」

水なんて使わない。物なんて使わない。己の拳ひとつだけ。

仁王立ちをして腕を組ながら気持ち悪い笑みを浮かべて、私を見下す。

「い‥‥った。」

「嘉穂、そろそろヤバイよ。」後ろから笑いながら見ていた女が時計を見て、嘉穂に言う。

「残念。今日はここまで。‥‥またね。」

次のお楽しみを待ち遠しいかのように薄気味悪い笑みを浮かべて嘉穂はトイレから出た。私は声が完全に消えるのを待って外に出ようとするけれど、全身が痛くて起き上がることすら出来ない。

「ったぁ‥‥。」

絶対に見えない場所に日に日に増えるアザ。服に隠れる箇所しか狙わない。同じ場所ばかり狙われてアザの色は増すばかり。他人になんて死んでも見せられない。1ヶ月前までは平凡な女だった。周りの子と何ら変わりない人間だった。


 空は暗くなっても、微動だにしない体。

「くたばってんなよ。」

誰もこないはずのドアから男の声。

「ここ女子トイレだけど?」

「お前よりマシだね。」

馬鹿にした笑みを浮かべてはうずくまった私を見下す。女子トイレに入る自分よりもトイレでくたばる私の方がありえないと言う。もちろんすぎる言い分に私はなにも言い返せない。でも、この男に笑われることほど恥ずかしいことはない。

「なにしに来たの。」

いかにも私がいることを知っていたかのように現れた。一部始終を見てた悪趣味な人間。この男場合は違う。悪趣味よりも質が悪い。人を馬鹿にして、笑って、楽しんでいる。何のために、何を考えているのか全くわからない。

「なんで来るの。いつもいつも。」

私が質問を投げかけても返事すらしない。ただ笑って私を見下すだけ。

「私を見て笑って楽しいの?全身アザだらけになって、うずくまった私を見るのが楽しい?」

睨みつけて言ってやる。悪趣味だな、と。それでも眉ひとつ動かさない。月の光に照らされるその顔は美しく輝いていた。やっと動いた薄く綺麗な唇から出た言葉。

「お前のその顔が好きなんだよ。」

私は心底悪趣味な男だと思った。


この男との出会いは最悪だった。1ヶ月前、同じくトイレで嘉穂からの暴力を受けたあと、教室に戻り、置き忘れていた本を鞄に入れていたところにこの男はやってきた。

「あ、國重さん?まだ残ってたんだ。生徒会?」

暗くて顔ははっきりとわからなかったけれど、声で誰なのかわかった。少し低めのハスキーで、だけど、よく響く綺麗な声だった。

この男の名前は廣瀬優護。学校全体でも有名で“格好良くて、誰にでも優しい”と評判だった。今年からクラスが一緒で一言も話したことのない、私とは全く違う次元に住む男だった。

私はさっき出来たキズが廣瀬の声に反応するからお腹を抱えてうずくまりたかった。しかし、私は学年でも名の知れた、よくいう秀才だ。自分でいうのも自意識過剰かもしれないけれど、テストではいつも上位3位には必ず入る。その上、生徒会副会長という学校の中心的存在でもあるために、ほとんどの生徒は私の顔を知っている。そんな私が放課後トイレで暴行を受けている(イジメられている)なんて知られたら、どんな風に噂が流れるかなんて目に見えている。絶対にこのことだけは隠し通さなければいけない。そうしないと自分の名誉に傷がつく。そして、生徒会副会長の裏の顔が全てさらけ出されるという恥ずかしさが今の私を作り出していた。

「國重さん?」

私を呼ぶ問いかけに、いつもどおりに“そうなの、生徒会で遅くなって。廣瀬くんはどうしたの?”そう返そうとしたけれど、話そうと息を吸うだけで傷に響いた。あまりの痛さに不覚にも腹を抱えてうずくまってしまった。廣瀬は駆け寄ってきて、

「大丈夫?!どこか痛いの?」

と必死で問いかけてきた。廣瀬が話す度に反応する内臓に立ち上がることも出来ず、結局、廣瀬に家まで抱えられながら送ってもらってしまった。家に着く頃には痛みも少し落ち着き、話せるようにはなった。玄関の前で離れ、お礼を言うために廣瀬の方へ向き直り、

「廣瀬くん、わざわざ送っていただいてありがとう。今度何か‥‥お礼させてね。」

いつものように微笑んだ。廣瀬はさっきとは別人だというような顔で唖然としていた。夏前の夜風は生ぬるくて、風になびく廣瀬の髪が頬にはりついていた。襟足が長く茶色い廣瀬の髪は月に照らされていつも以上に明るくて眩しかった。

少し微笑んだ顔は光の加減なのか、いつも目に入る笑顔とは違っていた。

「そんなのいいよ。じゃあ、お大事に。また、学校でね。」

そう言って帰って行く廣瀬の顔がやけに焼き付いていた。腹を抱えて倒れ込んだ理由を聞かなかった。別にある理由を廣瀬には見透かされているんじゃないかと不安にさせる。

口に出して言われたわけでも、それらしいことを言われたわけでもないのに、こんなふうに感じるのは人よりも色素の薄い廣瀬の茶色の綺麗な瞳の奥が千里眼のような輝きを持っているからなのかもしれない。



その夜、また両親の言い争いが家を包んでいた。

単身赴任中の父は赴任先で女を作り、おおかた本気になって、邪魔になった母をどうにかしようと頑張っているのだろうけれど、一方の母はそれを知りながらも私たちの行く末を安心して見送るためにはやはり父の存在が必要であると考えて、切るに切れない関係にむしゃくしゃしているんだろう。私としては離婚しても今の別居状態も父の不倫も何もわからないのなら、いっそのこと綺麗にしてしまえばいいと思うくらいだった。

二人が言い争うリビング前を通って外に出た。

秋の夜はもう冷たい。スウェットにロンTにパーカー。とてもじゃないけど、普段学校でいる私からは想像出来ない格好だ。

私は根が真面目なだけであって、好きで生徒会に入って副会長をしているわけでもないし、制服を校則通りに来ているわけでもない。

私がクラスで浮く存在なのは嫌われているわけではない。“近寄りがたい”と言われているからだ。生徒会なんて面倒くさいところに好んで入る奴なんていないだろう。私の場合は成績、容姿とならざるを得ない状況に追い込まれた上での結果だった。

学校から外に出れば本来の私に戻る。

普通のただの18歳に戻る。そして、家に帰れば親の機嫌をとって、何も起こらないようにしなくちゃいけない。そんな毎日だけでも疲れるのに今はそれに加えて嘉穂達のこともある。嘉穂は私を痛めつけるとき、毎回“廣瀬 優護”の名前が出てくる。きっと嘉穂は廣瀬に気があるんだろう。私が廣瀬と関わった日は必ずそうなる。

もし、今日のことが知られたら、何が待っているんだろう?私は廣瀬に気があるわけでも、頼んで送ってもらったわけでもない。でも、知られたら嘉穂に何と言われるのかと考えるだけで頭が痛くなる。

そんなことを考えながら、財布と鳴らない携帯を持って、冷たくなった重たい玄関を開ける。

街灯が少なく、薄暗い夜はこんな夜に歩くには最高だった。冷たい風は私にはメンソールをぬったようにスースーして、すごく気持ちよかった。空を見上げれば綺麗な丸い月が出ていた。


3分ほど歩いたら自動販売機があって、その門を右に曲がると少し大きな道に出る。歩いて10分くらいのところにファミリーマートがぽつんと建っている。

そこにはよく行くけれど、暇潰しか気分転換のときにしか行かないので、地元の友達に会ったり、高校の顔見知りの人に会ったりすることはなかった。それに行く時間は決まって夜中だったから、今日も誰とも会わないはずだった。声をかけられるまでは。

「國重?」

私が入るのと同時に出てきた男に名を呼ばれて顔をあげると、目の前には私と似たような格好をした廣瀬だった。

一番会いたくない人に限って、ばったり会ったりするものだというけれど、本当に会うなんて全くついていない。それに夕方は

「國重“さん”」と呼んでいたのに今は

「国重?」に変わっていた。一度話しただけで親しくなったと思い込んでいるんだろうか。そうだとしたら心底おめでたい人間だと拍手を贈りたくなる。

私はその声に反応せず中に入り、特に買うものがないコンビニでうろうろと歩き回った。5分ほど、ジュースを見たり、お菓子を見たり、雑誌を見たりしていたけれど、これといって欲しいものはなく、今日も暇潰しだけの散歩になってしまった。

何も買わずに店内を出る。ダルそうな店員がめんどくさそうな舌づかいで言う、

「ありがとうございました。」がやけに嫌みに聞こえた。

「あれ?何も買わなかったの?」

すっと目の前に出てきた廣瀬が私の手元に何もないのを見て、

「何しにきたの?」と笑っていた。

その顔はいつも学校で見る笑顔だった。さっき別れたときに見た少し違和感の残る笑顔ではなかった。

「あんたも何してんの。さっき出て行ったでしょ?ヒマなのね。」

私は立ち止まらずに家への道へ歩き出す。今もこれからも話すことなんてない。そう思っていたのに、

「‥‥國重って素はソレなんだ?てか、國重も人のこと言えないでしょ?」

背中から聞こえたけれど、私としてはこれ以上話したくなかった。こんな面倒くさい人間と関わりたくない。

「ねぇ、ヒマならうち来ない?」

私が歩きだしているにも関わらず、後ろから付いてきて、そのうえ

「家にこないか」とまで言ってくる。こういう勝手で無責任な発言を何も考えずに言ってしまう人間が大嫌いだ。

「ね、無視するの?うち来ない?」

私は無視をし続けた。

「‥‥美華。」

ふいに名前で呼ばれて立ち止まった。

「気安く呼ばないで!あんた頭おかしいんじゃないの?!」

振り返ってみた廣瀬の顔を見たら力が一気に抜け落ちた。私の負けだ。

廣瀬は私に何を言われようが何をされようが関係ない。ただ自分の思い通りに相手が動けばそれで満足なのだ。

振り返り見た廣瀬の顔は今日の帰りに不思議に思ったあの笑顔だった。人を馬鹿にした、そして、新しいオモチャを見つけ、それをどう壊そうかと考える子供のような目をしていた。

私はしくじってしまった。廣瀬の軽い挑発に反応した私の負けだった。

廣瀬は私の手をとり、

「俺んち、そこなんだよね。」と笑顔で歩きだした。私は諦め、その手に引かれるままになった。あの家に帰りたくもなかったこともあった。両親が言い争う声が響くあの家にいたくなかったのも心にあった。


コンビニから私の家と反対側に5分ほど歩いたところに廣瀬の住むマンションがあった。一人暮らしにしては広くて、必要最低限の家具しか置いていない、さっぱりした部屋だった。

「適当に座って。今飲み物入れるから。」

小さな白い冷蔵庫から2リットルのペットボトルに入ったお茶を取り出し、白と黒のマグカップに注いで目の前に置いてくれた。ペットボトルの中に入っているお茶は買ったものではなく、自分で作ったお茶のようだった。見た目によらず忠実(マメ)なんだな、と思った。

私の隣に座った廣瀬がポツリポツリと話し出した。両親が離婚していること、この部屋の家賃は父親が払っていること、お兄さんがいること。

私は廣瀬とは目を合わさずにただ黙っていた。勝手に話す廣瀬は何のために私に話しているのかわからなかった。その話を私は聞いてはいなかったけれど、なぜか耳に残った。

廣瀬が話しているあいだ、部屋を見回して少し考えた。

この広い家でひとりでいるとき、廣瀬は何を考えるんだろう?

別に同情するつもりはないけれど、ふと思ってしまった。

今、私が呼ばれた理由も一人でこの部屋にいるのが寂しかったのなら、私はここに来ちゃいけなかったんじゃないのか、と。

「で?お前は?」

急に話しかけられて肩が一瞬飛び上がる。顔を上げると廣瀬の綺麗な瞳に捕まって反らせなくなった。

廣瀬の手が伸びてきて、またびくつく。それでも目は反らせなくて、体は動かなかった。目が合っただけなのに、全身が廣瀬に捕らわれたみたいに動かない。

廣瀬が前髪、右頬、そして顎の輪郭をなぞって、私の顎を掴む。

「お前、噂以上な。」

廣瀬の目が一瞬真っ直ぐに私だけを見つめた。

普通の女の子なら少しくらい心拍数が上がるんだろうけれど、私の場合はそうじゃなく、廣瀬の瞳に吸い込まれて、意識を手放しそうになった。

私の全てを見透かされてしまいそうで怖かった。

それもほんの一瞬ですぐに反らされ、私の顎に置いていた手も離れ、自分の前に置いていたお茶を飲み始めた。

私はいろんな意味でざわついた心臓を落ち着かせ、何事もなかったかのように廣瀬と同じく目の前に置かれた白いカップを手にとり、口へ運んだ。

部屋は時計とたまに外を走る車やバイクの男以外何も聞こえなかった。お茶を飲み込むゴクリという音が響いた。

手に持っていたカップを置くと同時に廣瀬が口を開いた。

「お前、噂知ってる?」

廣瀬と目が合って、反射的にそらしてしまう。廣瀬の鼻で笑う声が聞こえるとまた話し出した。

「その噂なんだけど、東棟から誰もいないはずなのに声が聞こえるっていうんだよ。それも女の。」

冷や汗が出た。私がいつも連れて行かれるのは東棟の3階のトイレ。東棟は昔使われていた校舎で今では倉庫代わりに使われている。他には第二生徒会室(生徒会役員が勝手に決めたサボり部屋)があって、生徒会役員しか使わない教室があるだけだ。

この東棟には誰も気味悪がって近づこうとしない。蛍光灯が切れていても使わない棟だからといって、使うところだけは取り替えるが、その他はほとんど取り替えてはくれない。

女子トイレもそのひとつ。気味悪がって近づこうとしない棟のトイレの電気を付け替えることなんてしない。嘉穂達がここを選んだのはこれがあったからだった。

今、廣瀬が私に話した噂が広まっていたとしても、誰が聞いたのだろう?誰が流したのだろう?誰が……?そんな言葉ばかりが頭の中を駆けめぐった。

「ねぇ、俺の話聞いてんの?」

廣瀬の声で我に返ると全身にじんわりと汗をかいていることに気が付いた。

「聞いてるわよ。だから、どうしたの?」

廣瀬に気付かれないように懸命に平然を装った。でも、目は合わすことが出来なかった。

なぜか嫌な予感がしたから。廣瀬に出会ったこと、家にのこのことあがってしまったこと、噂のこと。

心臓が無重力の中にいるみたいにいろんな方向へ動き出し、胃はキリキリと痛み出す。全身が変な熱で覆われたみたいに汗が噴き出す。

「それ、嘉穂に聞いたんだよね?」

一瞬耳を疑った。廣瀬の口から嘉穂の名前が出てくるなんて。友達の名前を呼び捨てにするなんて、当たり前なのかもしれないけれど、私にとっては嫌な予感のひとつだった。

よく一緒にういるところは見かけたけれど、まさかそれ以上に親しい関係だとかそんな事実があるかもしれないなんて考えたくもない。

もう私の中でこの問題はいっぱいいっぱいなのだから。また、胃が疼きだす。

廣瀬は表情を全く変えないで、ただ私を眺めていた。気持ち悪い笑みを浮かべて。

廣瀬の一言に私の全身が反応するのを見ては楽しんでいるかのように。

「だから、どうしたっていうのよ?」

睨みかえしてはみるけれども、廣瀬の笑みは深くなるばかり。

「そんなに敏感になるなよ。ただの噂だろ?」

……そうだ。ふと我に返る。普段、追求されるようなことがない私はこんな些細な噂ごときで左右されてしまう。逆にそれほど自分にとってはキツイことなんだと思った。私は馬鹿じゃない。自分を持てばいい。

「なってないわよ。もう、帰るわ。」

机を支えにして立ち上がろうとしたとき、廣瀬の手が私の手を掴んだ。その目は変わらずに笑ったままだった。思わず手を引いた私は無意識に廣瀬を睨んだ。

「俺が嘉穂から守ってやるよ。」

思わず目を見開いた。

「バカじゃないの?ちゃんと頭で考えてからモノ言いなさいよ。」

バカな発言はもう聞きたくない。廣瀬とも関わりたくない。これで最後にする。

やっぱりここへ来るべきではなかった。こんなことになることくらい想定しておくべきだった。

バカは廣瀬じゃない。この私だった。

「全身アザだらけなのに?まだ続けるの?」

相手にしちゃいけない。認めちゃいけない。振り返らずに、真っ直ぐに玄関へ向かい、外に出るんだ。

「美華。」

ドアノブに手をかけると同時に名前を呼ばれ、一瞬手を止めた瞬間、体が半回転し、背中がドアに叩きつけられた。目を開くと目の前に廣瀬の顔があった。

「あんま好き勝手やってると痛い目見るよ?」

廣瀬のあの目に捕らわれて、また動けなくなった。

「お前、ほんと噂以上だな。」

廣瀬の顔が近づいてきて、唇に触れる。やっと我に返って、今の状況を把握する。

“気持ち悪い”という感情が飛び出て廣瀬の胸を強く押すも、廣瀬の手は私の首に回り、私の顔が自分と離れないように支えられ、離れたくても離れられない。

やっと離れると同時に廣瀬が微笑む。

「泣き顔も、予想通り。」

廣瀬の右の親指が私の目元をなぞる。そして、そのまま手を私の鎖骨あたりに持ってきて、そのまま顔を埋める。体がビクッと反応して、廣瀬の唇が触れて、また同じ感覚が甦る。

「……。」

抵抗する力も出なくて、ただ涙が溢れた。廣瀬が指でその箇所を拭いて、顔を上げた。

「お前のその顔、そそられる。」

ただのサディストかと思える発言に私の心は微動だにもしなかった。これは私にとっては一生の不覚だった。泣き顔を見られて、嘉穂達のこともバレて、もう私に残っているモノなど何もない。

「美しい華、散るときも美しいってな。」

ガチャとドアが開いて、そのまま外へ倒れそうになった私を支えた。

そのあとはどうやって帰ったのか覚えていない。次の日、鏡を見たときに鎖骨の下あたりに赤い小さなアザを見つけた。気が遠くなりそうだった。

これからもこのアザに支配され続けるのかと思うと、もうこの世から消え去りたいと思った。

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