最終決戦
「よくぞここまでたどり着いた。誉めてつかわす」
どっかで聞いたようなセリフをお年寄りが話し出す。
誉めてつかわすなんて言葉、リアルで言うヤツ初めて見た。
まぁ、リアルじゃなくてゲームだけど。
「わしはこの世界を統べる魔王じゃ」
一人称が「わし」で、語尾が「じゃ」って。
リアルて言うヤツ初めて見た。
しかも自分のこと魔王とか言ってるし。
まぁ、リアルじゃなくてゲームだけど。
「貴様らは、わしの部下にしてやろう」
そうきたか。
「夜の世界でももらえるんですか?」
先回りして俺は尋ねる。
「やらん。わしのものはわしのものじゃ。貴様らはただのわしの部下じゃ」
くれないのかよ。
ただの部下かよ。
どんだけセコイんだよ。
「部下になるとどうなるんだ?」
麦穂が尋ねる。
「わしの手足となって働いてもらう。もっとも、貴様らはここまでたどり着いたから、褒美に幹部として取り立ててやる」
幹部って言われても、魔王の下っ端であることには変わりがない。
誰が好き好んで。
「幹部ってぇ何するんですかぁ?」
今度はことりんが尋ねた。
幹部の仕事内容なんて、割とどうでもいいと思うんだけど。
「わしの命令に従って、部下を率いて戦ってもらう」
それって、ただの中ボスじゃ……。
「戦うって、誰とですか?」
小町さんが尋ねる。
「手始めに、貴様らのいた世界を滅ぼしてもらう」
出たよ。
世界を滅ぼす魔王。
何であいつらは世界を滅ぼそうとするんだろう。
何か楽しいんだろうか。
どこかで流行ってるんだろうか。
「どうして滅ぼすんですかー?」
今度は結渚ちゃんが聞く。
どうせマトモな答えが返ってくるわけないのに。
「この世には、わしのいる世界や貴様らのいる世界以外にも、無数の世界がある。そのすべてを統べるのがわしの将来の夢じゃ」
「ちょっと待った!」
思わず俺はツッコミを入れる。
「将来の夢って、おじいさんいくつですか?」
「おじいさんじゃと!? わしは魔王じゃ! 年寄り扱いしおって! 年齢の問題ではない! 青春は自分に情熱があるかぎり続くんじゃ!」
何言ってんの、この人。
しかもツッコミどころはそれだけじゃない。
俺はさらにツッコミを入れる。
「世界を統べるんなら、世界を滅ぼしちゃダメなんじゃないですか? 滅ぼした世界を支配しても仕方なくないですか?」
「中には滅ぼさなくてよい世界もある。しかし、貴様らの世界はダメじゃ。私利私欲のために環境を破壊しておる。貴様らの世界は一度滅ばねばならん」
これまたどこかで聞いたようなセリフ。
環境が破壊されれば人間も滅びるんだから、ほっといてくれればいいのに。
「選べ。わしの部下となって共に世界を統べるか、ここでわしに殺されるかを」
お?
思ったより早く話が終わった。
わしの若いころはどうのこうのとかいう話を聞かされなくてよかった。
「選ぶまでもないだろう。私は明日は部活だ。長話には付き合ってられん」
言いながら麦穂が剣を構える。
世界よりも部活の方が大事らしい。
「ケーキ食べれなくなると困るしぃ」
すごく個人的な事情を口にしながらことりんが包丁を構える。
そういえば、結渚ちゃんが落とした包丁ずっと持ってたな。
「別に世界を守りたいわけじゃないけど、部下として戦わされるのは、ね?」
そう言うと小町さんは槍を構える。
そこは嘘でも世界を守るためって言いましょうよ。
「魔王さんがあたしの部下になるんだったら考えますけどー」
言いながら結渚ちゃんが包丁を構える。
魔王の上に立つ気なのか、この子は。
上昇志向ハンパないな。
みんなのセリフがラスボス前とは思えないくらい微妙なので、俺が少しはいいことを言わないといけないかもしれない。
自分の世界のよさとか、守りたい人がいるんだ、とか。
……。
…………。
やべえ。
世界のよさも守りたい人も思いつかない。
「そうか。貴様らの考えはよく分かった。ならば仕方がない」
あ。
俺のセリフカットされた。
何でもいいからしゃべればよかった。
そんな俺の後悔に気付く様子もなく、魔王は右手を高く掲げる。
魔王の指先から光が放たれ――
「うおっ?」
俺たちの周りに、大量の敵が現れた。
前に戦った甲冑の騎士とか、羽のある狼とか、鉄砲を撃ってきた機械の敵とか、しょぼい装備で戦わされてた勇者の一行とか、最初の落ちゲーでおそろしい目にあったおっさんたちとか、ヤスさんとか。
仲間呼びやがったのか。
魔王のくせに、何て器の小さい。
「貴様らは、ここで死ね」
ゆっくりと、魔王が右手を下ろす。
それが、戦闘開始の合図だった。
「どうするんだ? 敵が多すぎるぞ?」
「魔王だけ倒せばいいんじゃなぁい?」
「とりあえず包丁投げますかー?」
「でも、向こうは一応、魔王の設定だから、ね? 迂闊に攻撃すると何やってくるか分かんないから」
確かに、周りの敵の相手をしていたらキリがないけれど、魔王に特攻するのも危険だった。
さっきの敵は精神攻撃を仕掛けてきたし、魔王だったらもっと強力な特殊攻撃を仕掛けてきてもおかしくない。
こっちも二手に分かれるか、全員で周りの敵と戦うか、全員で魔王を狙うか。
そんなの考えるまでもない。
ゲームのクリア方法なんて決まってる。
俺はみんなに提案した。
「とりあえずさ、周りの敵は置いといて、魔王だけ狙わない? 相手の手の内が分からないとキツイし。死んだらやり直せばいいし」
「それもそうだな」
「痛いのヤだけどぉこれで最後ならぁ」
「何回でもやり直せるしね」
「どうせゲームですしー」
俺たちは、空気を読んで待っててくれている親切な周りの敵を無視し、魔王だけと戦うことにした。
全員で魔王へと向き直ると、改めて身構える。
「くっくっく……。貴様らはこれがゲームだとでも思っておるのか?」
何言ってんだ、このおじいちゃん。
さっきはセリフをカットされたので、ここぞとばかりに俺は魔王に返事をする。
「ゲームじゃなかったら何なんだよ?」
「これは現実じゃ。貴様らがいたのとは別の世界で、現実に起こっていることじゃ」
「ちょっと無理があるんじゃなぁい?」
「こんな現実があるはずないだろう」
「どう見てもゲームだしね」
「あたしの手から包丁が出てきたら怖いですよー」
「……貴様ら、さっきのわしの話を聞いておらんかったのか?」
おじいちゃんの将来の夢なら聞きましたが。
「わしは、わしの部下として働く者を集めるために、このゲームを企画したんじゃ。そして、貴様らはそのゲームをクリアした。パズルやスポーツ、バトル、精神攻撃をクリアした貴様らの能力。さらにはあの程度の殺人事件を解決するのに無駄に時間のかかる頭の悪さ。貴様らはわしの部下として働くにはうってつけの人材じゃ」
おいおい。
さっきそんな話聞いてないぞ。
ボケてんのか、この人。
「ゲームはすでに終わっておる。貴様らに残されておるのは、わしの部下となって働き、手始めに貴様らのいた世界を滅ぼすか、今ここで死ぬかのどちらかじゃ」
だんだんめんどくさくなってきた。
そういう設定聞いても何かが変わるわけでもないし。
ここはシフォンさんに設定の確認をしておこう。
「シフォンさーん、これ死んでもやり直せるんですよね?」
「やり直せませんよ」
…………。
…………あれ?
「死んだらゲームはここで終わりってことですか?」
「ゲームはもう終わっております」
…………。
…………ん?
「これゲームじゃないんですか?」
「ゲームはクリアしたと申し上げましたが」
言ってた。
確かに言ってた。
と、いうことは。
「あの、ここで死ぬとどうなるんですか?」
「死にますよ」
「現実世界でもですか?」
「現実世界と言いますか、ここも現実世界ですので、皆様のいた世界でも、と言った方が分かりやすいかもしれませんが」
「え? ……え? 本当に死ぬんですか?」
「死にますよ」
「…………」
俺たち全員が絶句する。
シフォンさんの言葉は本当だろうか。
今までシフォンさんは、嘘だけはついてこなかった。
となると、今回も本当なんだろうか。
そんな馬鹿な。
俺は改めてシフォンさんに聞いた
「本当にゲームじゃないんですか?」
「違います。ステータスのゲージも出ていないはずですが」
確かに。
そんなものの存在も忘れていた。
「じゃ、どこまでがゲームだったんですか? どこからがゲームじゃなかったんですか?」
「皆様が初めにいたログハウスはこの世界の現実です。このお城の裏庭に作ってありました。ログハウスを出たらゲームへと繋がる設定になっておりました。今回だけはログハウスを出ると、お城の正面にワープする設定になっておりました」
マジか。
何て中途半端な。
「でも俺、鋼のピザ出せますよ?」
「それは、わしが貴様らに与えた能力じゃ。何の武器もなければ勝負にならんであろう」
「え? おじいちゃん、そんなことできるんですか?」
「だからおじいちゃんではないと言っておるだろう! いいか、わしの能力は、イメージをそれなりに現実にする力じゃ! だから、貴様らの能力を見極めるためにゲームを作り、貴様らに挑戦させたのじゃ!」
「能力を見極めるって……。何でそんなことを……?」
「貴様、わしの話を聞いておらんかったのか!? さっきも言ったであろう! わしの手足となって働く人材を集め、すべての並行世界を統べるためじゃと!」
「それって、そういう設定じゃなかったんですか?」
「設定じゃと!? ゲームではないと言っておるだろう! まったく、最近の若いモンときたら人の話は聞かず、自分さえよければそれでよいという身勝手な考えばかりしおって。わしの若い頃は滅私奉公が当たり前だったというのに、仕事とプライベートの両立だとかQOLだとかぬかしてばかりで、ロクに働こうともせん。会社に入っても下積みを嫌がり、文句ばかり言ってすぐに辞めおる」
いつの間にか説教に変わった魔王の話に小町さんが反論する。
「けどそれは、終身雇用も年功序列も崩れたからじゃないんですか? 昔と違って会社が一生面倒みてくれるわけでもないですし、わたしたちの世代だとリストラも倒産も当たり前なわけですから、下積みしてて何のキャリアも積めていないのに会社から放り出させるリスクを考えると、下積みしてる時間の余裕なんてないですけど。拘束時間ばかり長くてスキルアップもできない、経験も積めない、給料も安い、そんな環境で要求ばかりされても困ります」
「何じゃと!? ならばリストラされないような人材になったり会社が倒産しないように頑張ったりするのが当たり前じゃろう! 雇ってやった恩すら忘れおって!」
「リストラや倒産をしないと経営が成り立たないようなら、経営者が自分の能力のなさを反省すべきではないんですか?」
「社会に出たこともないようなガキが偉そうなことばかり言いおって! 貴様らが思っておるほど世の中は甘くないんじゃ!」
何の話してるんですか、この人たち。
「あの小町さん、それよりもどうするんですか?」
「どうするって?」
「これゲームじゃないらしいですし、本当に死んじゃうかもしれないんですけど、戦うんですか?」
「響平君は、あのおじいちゃんの下で働きたいの?」
「そりゃ嫌ですけど、命にはかえられないですよ」
「お兄ちゃん、ヘタレですー」
「ヘタレ言うな。無理だろ、これは」
「でも世界が滅ぶのに私たちだけ生き残るのもな。部活できなくなっても困るし」
「ことりんはぁケーキ食べられなくなると困るしぃ」
「わたしも世界を守りたいとか特にないけど、あのおじいちゃんの下で働くくらいなら、ね」
「え? マジで? 戦うんですか?」
「あたしは世界が滅んでも別にかまいませんし、あのおじいちゃんに従うふりして寝首をかいた方が楽だと思いますよー。そうなったらあたしが魔王ですー」
結渚ちゃんの発想は何かがおかしい。
麦穂とことりんと小町さんは戦う気らしいけれど、正直俺は戦いたくない。
死にたくないし。
みんなを説得するためにも、俺は魔王さんに質問することにした。
「あの、魔王さん」
「何じゃ?」
「魔王さんのいる世界ってのは、どんなところなんですか?」
「貴様のおる、この場所じゃ」
「この場所ってのは分かるんですけれど、どのくらいの広さで何があるかとか、他にどんな人がいるかとか、そういうの知りたいんですけど」
「この世界はこの城と庭がすべてじゃ」
狭っ!
「しかも、わしの他には誰もおらん」
マジでっ!?
「何で他に誰もいないんですかっ!?」
「前はもっと広くて、他に部下もおったんじゃ。じゃが、部下が反乱を起こしてこの世界から領土を奪い、独立して別の世界を作ったんじゃ。じゃから、わしは決めたんじゃ。わしに歯向かう世界を滅ぼし、すべての並行世界を束ねてやると」
「まぁ、おじいちゃんのあの性格じゃ、ね」
小町さんがつぶやく。
「貴様らも、わしに歯向かうのなら覚悟はできておるんじゃろうな? わしと戦うのであれば、一歩前に進み出よ!」
ザッ。
魔王さんの言葉を受けて、俺の左から一斉に足音が響いた。
そうだ。
俺は何を迷っているんだろう。
俺はもともと、キャラを変えたいとか、人生をやり直したいとか、「ヒャッハー! 俺Tueeeeeーー!!」って言いながらハーレムを作りたいとか、そんな幻想を抱いてこの世界に来たんだ。
確かに、この世界に来てからあんまり思ったようにはいかなかった。
というより、ぶっちゃけここに来てからロクな目にあってない。
本当に何しに来たんだろうと思わざるをえない。
正直、来なけりゃよかったという気持ちも否定できなかったりもする。
けど。
それでも。
魔王さんの部下になって世界を滅ぼす側に回ったら、何のためにキャラを変えたいと思ったのかも分からなくなるし、魔王さんの部下として働く人生も嫌だ。
だから。
俺もみんなと一緒に戦おう。
世界を守るためだなんて、考えなくていい。
自分のために。
そうだよな。
みんな。
俺は決意をこめて、みんなの顔を見るために左を向いた。




