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エロ漫画的な展開になったけれど、それどころじゃなかった

「じゃ、おやすみ、響平君」

「おやすみなさい」


 俺と小町さんはペンションの二階にたどり着くと、それぞれ自分の部屋へと戻った。

 自分も負けてられないって思った、という小町さんの言葉が頭の中でまだ響いてる。

 小町さんと知り合って二日しか経ってないけど、最初の頃に比べて、小町さんは変わった気がする。

 初めの頃はおろおろしたり、変な鼻歌を口ずさみながら映画の世界にトリップしたりしてたけど、最近はそんなこともなくなった。

 自分が一番年上だからか、みんなをまとめようとしているように見える。

 本当の小町さんのキャラがどっちなのかは分からないけれど、どっちにしろ小町さんは、前に一歩進むことにしたんだと思う。

 俺はどうなんだろう。

 前に進めてるのかな。

 どっちが前なのか分かってるのかな。


 部屋に入ると、当たり前だが中は真っ暗だった。

 何となく今なら寝付けそうな気がしたので、俺は電気もつけずに部屋の中を進み、ベッドにたどり着くと、その場で服を脱ぎ捨てて布団に潜りこんだ。

 布団の中で息を吸い込むと、甘い香りがする。

 甘い香り。

 ……え?

 何で?

 耳を澄ますと、かすかに寝息が聞こえる。

 それも、すぐ近くで。

 誰か、いる!?

 このペンションは殺人事件の起きたペンションだ。

 犯人はいまだ捕まっていない。

 そして、俺の布団の中に、誰かが、いる。


「おわああああぁぁぁぁっ!」


 悲鳴をあげながら、慌てて布団から飛び出ると、俺は枕元のライトをつける。


「きゃああぁぁぁぁっ!」


 俺の布団の中に潜っていた人間も、俺の悲鳴に驚いたのか、悲鳴をあげながら上半身を起こす。

 明かりで照らされた、人影。

 それは。


「……ことりん?」

「え? 響平? え? 何でぇ?」


 寝ぼけ眼をこすりながら、ことりんが頭にはてなマークを浮かべた表情でこっちを見やる。


「何でことりんが寝てんのっ!?」

「何でってぇ夜だしぃ……」

「いや、自分の部屋で寝ろよ」

「ここ、ことりんの部屋だけどぉ」

「え?」


 嘘っ!?

 俺が間違えたのか!?


 バタン!

 バタバタバタ……。


 廊下でドアの閉まる音がいくつかして、足音がそれに続く。

 パンツ一丁でことりんの部屋にいる、俺。

 こんなところを見られたら。

 部屋を間違えるとかいうフラグを最悪のかたちで回収してしまった。

 どこかに隠れないと、ヤバイ。


「あとで三倍返しだよぉ?」


 言いながら、ことりんが自分の入っている布団をめくる。


「恩に着ますっ!」


 俺は飛び込むようにことりんの身体を覆う布団の中に潜り込んだ。


 バタンッ!


「おいっ! 琴奈っ! 無事かっ!?」

「ことりんちゃんっ!?」

「ことりんお姉さまー、死んでますかー?」


 ドアが開いてみんなの声が聞こえるのと、俺が布団の中に隠れたのは、ほぼ同時だった。


「ごめぇん、寝ぼけてたみたぁい」


 ことりんが誤魔化してくれている。

 その声を聞きながら、俺は布団の中で息を潜める。

 俺が顔を埋めている場所は、ほどよく弾力があってほどよく柔らかい。

 ことりんの身体のどこかだろうか。


「紛らわしいんだよ、琴奈は」

「変な夢見てたんだからぁしょぉがないでしょぉ?」

「ことりんちゃん、何か男の叫び声みたいなのも聞こえたけど」

「そ、そうですかぁ?」

「てっきりお兄ちゃんが夜這いにでも来たかと思ったんですけど、お兄ちゃんならあたしのとこに来るはずですもんねー」

「響平はぁ麦穂のとこに忍び込んでぇ死体になって発見される運命でしょぉ?」

「まぁでも、何事もないんなら、ね?」

「まったく人騒がせな」

「今から二度寝ですー」


 声とともに足音が遠ざかる。

 そのまま布団の中で息を潜めていると、ドアの閉まる音が聞こえ、あたりは静寂に満ちていく。


 ……助かった……。


「響平はぁいつまでことりんの太腿に顔埋めてるのぉ?」

「……へっ!?」


 俺は慌てて布団から飛び出た。

 何か柔らかいと思ったら、よりによって太腿とは。


「いや、あの! ごめんなさいっ!」

「ゲームの中だからまだ許すけどぉ現実の世界だったらぶん殴ってるからぁ」

「本当にっ! ごめんなさいっ!」


 俺は両手を顔の前で合わせ、ひたすら謝った。


「もぉ。部屋間違えるんならぁ麦穂のところにすればいいのにぃ」


 ことりんが布団から出て、ベッドから降りながら文句を言う。

 さっきまで暗くて見えていなかったが、暗闇に目が慣れたうえに枕元の明かりもついている今ならはっきりと見える。

 ことりん、上半身裸。

 下も下着しかつけてない。


「ちょ! ことりんっ! 服っ!」

「……え?」


 ことりんはゆっくりと視線を自分の身体に落とす。

 そして。


「きゃあああぁぁぁぁぁ!」


 悲鳴をあげながら、布団を引っ張り、自分の身体を隠すことりん。


「待っ……! 今そんな大声出したら!」


 バタン!

 バタバタバタ……。


 先ほどと同じように、廊下でドアの閉まる音がいくつかして、それに続く足音。

 ヤバイ。

 迷っている暇はなかった。


「ことりんっ! ごめんっ!」

「えぇっ!?」


 俺はことりんから布団を引っぺがし、布団に包まるとベッドに倒れ込む。

 布団の中で俺は身体を回転させて仰向けになると、布団の隙間からことりんの様子をうかがった。


「ちょっ……」


 呆然とベッドの横で立ち尽くしたまま俺を見下ろすことりん。

 そのまま何とかしてください。

 マジで。


 バタンッ!


 ドアの開く音がする。

 マズイと思ったのか、ことりんは慌てて布団をめくると、俺の存在を無視するかのように布団に入って身体を覆い、ベッドの上に正座の姿勢で座った。

 だが。


「ふぐっ……」


 ことりんが座っているのは、俺の顔の上だった。

 俺の顔はことりんの両足で挟まれて固定され、俺の顔の上にはことりんのお尻。

 鼻と口が塞がれ、呼吸ができない。


「おいっ! 琴奈っ! 今度は何だっ!?」

「ことりんちゃんっ!?」

「ことりんお姉さまー、今度こそ死にましたかー?」

「あぁ、ええっとぉ……。そう! 影! 影がぁ、ごめぇん、影が動いたのがゴキブリに見えてぇ」

「そういえばここってゴキブリ出るんですかー?」

「あー、どうだろうね?」

「何だ結渚、ゴキブリが怖いのか?」

「ゴキブリが好きな人なんて普通はいないですよー」


 ……息が苦しい。

 ゴキブリトークはいいから早く部屋から出てってくれ。


「おい、琴奈、どの影がゴキブリに見えたんだ?」


 何でそんなのに食いついてるんだよっ!?


「麦穂お姉さまも本当は怖いんじゃないですかー?」

「ば……馬鹿言うな! 怖いわけないだろう!」

「怪しいですー」

「ことりんが見間違えただけだからぁ本物は出ないんじゃなぁい?」

「食べ物があるところはゴキブリ出るって言うけど、このゲームどうなんだろうね? もしもそこまで再現してるなら、食堂に食料いっぱいあるから……」

「ちょっ……小町お姉さまー!? 寝る前に何てこと言うんですかー!?」

「おい、結渚、ゴキブリってどうやって水分とってるか知ってるか? 人間はな、寝てるときは口が半開きになるそうだ。そして、口の中には大量の水分がある」

「な、なな、何言い出すんですかー!?」


 無理。

 苦しい。

 死ぬ。

 俺は呼吸をするために顔をずらそうとする。

 だが。


「んぐっ……」


 俺の顔をことりんがお尻で押さえ込む。

 死ぬ。

 マジで死ぬ。


「……今、何か変な声聞こえなかったか?」

「わたしも聞こえた。何かうめき声みたいな……」

「幽霊ですかー? 死んだ社長の霊ですかー?」

「こ、ことりんはぁ何も聞こえなかったけどぉ」


 お願い。

 早く出てって。

 このままだと春子さんより先に俺が死体で発見される。


「おい、琴奈。お前、座高が高くなってないか?」

「そ、そんなわけないでしょぉ?」

「いや、間違いない。私が骨格と筋肉の構造を見間違えるわけがない」

「えぇとぉ……そのぉ……そう! 枕! 今、枕の上に座ってるからぁ」

「ことりんお姉さまー、枕ならベッドの上にあるじゃないですかー」

「…………えぇとぉ…………」

「何か怪しいですー」

「布団めくってやるか」


 ひいっ!

 やめてっ!

 ただでさえ息ができなくて死にそうなのに、こんなとこ見られたら社会的にも死ぬからっ!


「……えぇとぉ……実はぁ……ちょっとは筋トレしてみよぉかなぁって思ってぇ、今正座の格好で少しだけ腰浮かせてるからぁ」

「……琴奈、お前、頭でも打ったか?」

「何か悪いものでも食べたんじゃないですかー?」

「ことりんちゃん、わたしたちでよかったら話くらい聞くから、ね?」

「ちょっとさっき食べ過ぎたって思っただけだしぃ美しさを保つ陰の努力見られるのも恥ずかしいからぁ」

「お前の口から努力という言葉が出るとはな」

「これ、ことりんお姉さまの偽者じゃないですかー?」

「まぁでも、何事もないなら戻ろっか?」

「まったく人騒がせな」

「今から三度寝ですー」


 足音がして、ドアの閉まる音が続く。

 廊下から響く足音が遠くなるとともに、俺の意識も遠くなる。

 空気……。

 俺はことりんのお尻の下から顔を出そうとする。

 だが。


「っ……!」


 何故か、さっきより強くことりんがお尻で俺の顔を押さえつける。

 もういいだろっ!

 死ぬからっ!

 マジでっ!

 どいてっ!

 くださいっ!

 お願いっ!

 しますっ!


「……ぷはぁっ……はっ……はっ……」


 やっとことりんが俺の上からどいた。

 俺は必死で空気を貪る。


「……死ぬか……と……思った……」


 このゲームで俺たちが死ぬ設定があるのかどうかは知らないけれど、あのまま息ができなかったら絶対死んでた。


「あたし怒ってるんだけど」


 声のする方に視線を送ると、布団に包まったことりんが俺の足元の方に座っていた。


「何自分だけ隠れてんの?」


 俺を睨みつけて、ことりんが言う。

 ことりんの話し方が素に戻ってる。

 一人称が変わってる。

 これはマズイ。


「……ごめんなさい」

「何? 謝れば許されるとでも思ってるの? ムカついたから本当に殺してやろうかと思ったんだけど」

「……ごめんなさい」

「何であたしが筋トレとか言わなきゃいけないの?」

「……本当にごめんなさい」


 俺の言葉に耳を傾ける気はないようで、ことりんはほっぺをぷうっと膨らませるとそっぽを向く。


「……反省してます」


 ことりんからのリアクションはない。

 俺はベッドの上で両手をつくと、頭を下げた。


「本当にごめんなさい」


 ベッドの上での土下座。

 それでも、ことりんからのリアクションはない。

 本気で怒ってるかもしれない。


「俺が悪かったです」

「…………」

「モンブランおごりますから」

「…………」


 嘘っ!?

 モンブランで買収できない…………だと!?

 そんな馬鹿な。

 本気でマズイぞ、これは。


「ことりん……さん、本当に申し訳ありませんでした」

「…………」

「許してください」

「…………」


 ヤバイ。

 どうしよう。


「本当に俺が悪かったですっ! 何でもしますからっ! 許してくださいっ!」

「…………」


 ことりんが許してくれそうな、お詫びの品。

 ことりんの好きなもの。

 欲しがってるもの。

 ……アレしかない。


「モンブランでも何でも、ことりんの好きなケーキおごりますからっ! 『ケーキ天国』のケーキ買ってきますからっ! 一年一回の限定モンブラン前の夜から並びますからっ!」

「……ことりんがぁ物で釣られるとでもぉ思ってるのぉ?」


 話し方と一人称が戻った。

 『ケーキ天国』すごい。

 限定モンブランすごい。

 もう少し頑張れば許してもらえる気がする。

 ケーキだけじゃダメだ。

 ケーキ以外で何か、俺にできそうなことは。

 …………。

 ……アレか。

 土下座しながら俺は言葉を続ける。


「ことりん……さん、パティシエになるためにケーキ作りの練習してるそうですけど、俺でよければいつでも試食しますんで」

「響平がぁ?」

「俺、実はケーキ結構詳しいし、前に人の意見も聞いてみたいってことりんも言ってたし。役に立てるかもしれないなーって……」

「響平がケーキ詳しいとかぁ信じられないんだけどぉ」

「本当だって! 母親が甘い物好きでよくケーキ買ってくるから!」

「響平ってぇ味分かるのぉ?」

「俺けっこう味分かる方だから! いろんなお店のケーキ食べたことあるから! 『ケーキ天国』のケーキも食べたことあるからっ!」

「本当にぃ?」

「本当に! ことりんの将来に協力するから! 試しに一回試食させてもらえれば役に立つってことが分かるから!」

「響平が役に立つとか思えないんだけどぉ」

「一回だけっ! 一回だけでいいからチャンスをくださいっ!」


 土下座しているままなのでことりんの表情までは分からないが、声の調子や雰囲気から、あと少しで許してもらえそうなところまできていることは分かった。


 バタン。


 最後の一押し。


「おい、琴奈、やっぱり鍵は――」

「一回だけでいいからっ! お願いしますっ!」


 …………。

 ……………………ん?

 何か今、すごく恐ろしいことが起こった気がする。

 おそるおそる、俺は顔を上げる。


「おま、お、お、おま……」


 ベッドの上で布団に包まったまま、戸惑った表情を浮かべることりん。

 その向こうには、右の拳をぷるぷると震わせている麦穂の姿が見える。

 そっくりさんか何かだと信じたい。


「おま、お、お前は何を……」


 いろいろとマズイぞ、これは。

 落ち着け、落ち着け、俺。

 俺は冷静に今の状況を分析することにした。

 ベッドの上で布団に包まっていることりん。

 パンツ一丁でベッドの上でことりんに土下座している俺。

 さっき俺は何て言ったんだろう。

 ……あぁ、そうだ。

 一回だけでいいからお願いしますだ。

 ……………………。

 分析するまでもない気がしてきた。

 何とか言い訳を考えないと。

 俺は必死に頭を回転させる。

 けれど、ことりんは俺と麦穂の顔を交互に見比べると、麦穂の方に向き直り、声を出した。


「麦穂ぉ、響平がぁいきなりぃ」


 うわっ!

 ことりん、保身に走りやがった。

 ことりんの言葉を受けて、右の拳を握り締めながら、麦穂が俺に近づく。


「待ってっ! 話をっ! 話を聞いてっ! くださいっ!」

「……何か言い残すことは?」

「部屋をっ! 部屋を間違えただけだからっ!」

「お前は部屋を間違えたら裸になって女に土下座してお願いするのか」

「違っ! これには深いわけがっ!」

「言い訳ならたっぷり聞いてやろう。……地獄の底でな」


 その言葉が終わるやいなや、麦穂の右の拳が俺の顔に近づき、俺は左の頬に強い衝撃を感じ、そして。

 気がつけば俺の身体は宙を舞っていた。



「つまり響平君は、部屋を間違えて、眠かったから電気もつけずにそのまま服を脱いでベッドに入ったらことりんちゃんがいた、と?」

「そうです」


 小町さんの視線が冷たい。


「で、服を脱いだまま間違えてベッドに入ってしまったので土下座して謝っていたところに私が入ってきた、と?」

「そうです」


 麦穂の視線も冷たい。

 麦穂に殴られた左の頬が痛い。

 そっくりさんでも何でもなかった。

 どう見ても本人です。

 本当にありがとうございました。


「お兄ちゃんがそういう人だって、あたしは知ってましたよー」

「違うから、本当に」


 結渚ちゃんの視線は冷たくないが、言葉はヒドイ。

 麦穂に殴られて宙を舞ったあと、騒ぎを聞きつけた小町さんと結渚ちゃんがやってきて、俺は床に正座を命じられていた。

 今日の昼間もこんなようなことがあった気がする。

 気のせいだと信じたい。


「でも響平君、わたしと別れてからけっこう時間経ってる気がするけど、その間はどうしてたの?」

「それは…………少し建物の中を探検してみようと思って、うろうろと……」

「お前は琴奈に何をお願いしてたんだ?」

「ことりんに許してもらうかわりに、ことりんの作るケーキの試食係を……」

「お願いしてまでやるようなことなのか、それは」

「他に俺ができそうなこともないし……」

「ことりんちゃん、どうする? ことりんちゃんが見逃すって言うんなら、わたしたちもこれ以上深入りしないけど」

「ことりんはぁ何か後で使えるかもしれないからぁひとまず貸しにしておきまぁす」

「ことりんお姉さまー、お兄ちゃんの使い道なんてあんまりないですよー」

「おい」

「お兄ちゃんもあたしの部屋と間違えればよかったんですよー。そうすれば一億円で手を打ってあげたんですけどー」

「結渚ちゃん、ダメだよ? 自分をあんまり安売りしちゃ、ね?」


 一億円で安売り!?

 定価いくらなの!?


「まぁでも、ことりんちゃんが貸しにするって言うんなら、ね?」

「まったく人騒がせな」

「今から四度寝ですー」


 何度か聞いたような言葉を残し、みんな部屋から出て行く。

 俺も正座から立ち上がると、脱ぎ散らかしてあった服を拾って身にまとう。


「ことりん、俺を売ったな?」


 思わず俺の口から恨み言が漏れる。


「誰が悪いと思ってるのぉ?」

「……まぁ俺だけど」

「ことりんのせいにするのぉ?」

「……ごめんなさい」

「よぉし」


 結局文句も言えず、俺は自分の部屋へと戻った。

 部屋に戻ると電気をつけて、間違いなく自分の部屋であることを確認してから、服を脱いで電気を消し、ベッドに入った。

 ヒドイ目にあった。

 何かもう、いろいろ疲れた。

 せっかくエロ漫画的な展開になったけれど、それどころじゃなかった。

 エロ漫画の主人公は毎週アレを乗り越えてるのか。

 俺にはどう頑張っても無理だ。

 本当に死ぬかと思ったし。

 考えようによっては幸せな死に方だったかもしれないけれど、どうせならもうちょっとかっこいい死に方をしたい。

 犯人と戦って死ぬとかならまだしも、部屋を間違えて窒息死とか最悪すぎる。

 窒息死。

 窒息。

 ……ん……?

 ふと思いついたその言葉が妙に引っかかる。

 犯人は、どうして凶器に鉄アレイをつかったんだろう。

 もしも社長さんが寝ているところを襲うのだとすれば、頭を殴るよりも首を絞めた方が確実な気がする。

 何か鉄アレイでなければいけない理由でもあったんだろうか。

 俺は頭の中で、いろいろな可能性を考えてみる。

 だが。


「……分からん」


 人を殺したことなんてないし。

 推理小説読まないし。

 そんなこと、分かるわけがなかった。

 まぁいいや。

 明日誰かに聞こう。

 俺は考えるのを止め、眠りへと落ちていった。

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