水着回は?
部屋のドアを抜けてたどり着いたのは、海だった。
雲ひとつない青空。
その空の青を反射するかのような、澄み切った海の青。
俺たちが立っているのは、白い砂浜。
「海ですー」
結渚ちゃんが嬉しそうな声をあげる。
「きれいですー。透き通ってますー」
結渚ちゃんの笑顔が弾ける。
海ごときで喜ぶとは、やっぱり子どもだ。
「日焼け止め持ってきてないのにぃ」
「ことりんちゃん、ゲームの中だから、ね?」
もしかして、泳ぐのだろうか。
みんな水着になるのだろうか。
水着に……。
水着……。
小町さんの水着……。
「こちらです」
シフォンさんにうながされて、俺たちは歩く。
しかし。
「シフォンさん、海から離れてますよ?」
「はい」
はいと言われても。
目の前に海があるのに、俺たちが歩く方向は海とは反対側だった。
砂浜を通り抜け、緑の中を歩き、なだらかな坂を少し登る。
そうして俺たちがたどり着いたのは、白い洋館だった。
洋館と言うより、ペンションといった方が近いかもしれない。
白くて、こぢんまりとしていて、きれいな建物。
今度はこの洋館を探検するとか、中に敵がいて戦うとか、そんな展開だろうか。
そうだとしたら海関係ないじゃん。
「どうぞ、こちらへ」
言いながらシフォンさんが玄関のドアを開ける。
玄関を入ってすぐ右にはペンションのフロントのようなものがあり、玄関を上がってすぐ目の前には上へと続く階段がある。
階段の左側は、廊下が奥へと続いていた。
俺たちは玄関で靴を脱ぎ、靴箱に入れると、スリッパに履き替えた。
「実は、この建物で殺人事件が起きました」
いきなり、突拍子もないことをシフォンさんが言い始めた。
「ここは離れ小島なので、警察が来るのが二日後のお昼になるそうです。そこで、たまたま隣の島に遊びに来ていた皆様が呼ばれました」
シフォンさんが言葉を言い終えると同時に、俺たちの服装が変わる。
茶色っぽい地味な長袖のコート。
この格好は、まさか。
「俺たちに犯人を見つけろってことですか?」
「はい」
水着回じゃないのかよ!
自分でも、一気にテンションが下がるのが分かる。
何で海に来てまで殺人事件に遭遇しなけりゃいけないんだろう。
俺たちの中に名探偵の孫とか、見た目は子どもで頭脳は大人の人とかがいるわけでもないというのに。
……まさか、結渚ちゃん……?
いや、ないない。
「あの、シフォンさん」
今度は、小町さんが口を開いた。
「わたしたちって探偵なんですか?」
「はい」
「殺されたのってぇ誰なんですかぁ?」
「間もなく参りますので、少々お待ちください」
その言葉が言い終わらないうちに、階段から足音が聞こえた。
Tシャツにジーンズという格好の、若い男だった。
髪を短く刈り上げた、スポーツマン風のさわやかな男。
一目見ても、ガタイがいいのが分かる。
いや、ガタイがいいなんてレベルじゃない。
筋肉がTシャツを破りそうだ。
俺は横目で麦穂と小町さんを見た。
「すごいな、これは」
「見とれるね」
二人のこんなような会話、前にも聞いた気がする。
「みなさんが探偵さんですね? お待ちしておりました。お噂はかねがねうかがっております」
俺たちはそんな有名な探偵の設定なんですか。
「立ち話もなんですので、どうぞこちらへ」
言いながら男は、俺たちを階段の左側の、奥へと続く廊下へとうながした。
「その前に、あなたは……?」
「ああ、申し遅れました」
小町さんの質問に、男は頭をかきながら答えた。
「私は前職で刑事をやっておりました、ヤスというものです。今回事件が起きてしまったので、以前の職業柄、現場を保存したり、関係者の証言を集めたりというようなことを行っておきました」
刑事のヤスって。
怪しいなんてレベルじゃない。
どんな事件か知らないけれど、いきなり事件が解決した気がする。
早速俺は、突っついてみることにした。
「……ぶっちゃけ、犯人ヤスさんじゃないんですか?」
「ななななな、何をおおおおっしゃるんですか? ななな何か証拠でもあるんですかっ!?」
俺の言葉に、分かりやすいくらいヤスさんは動揺する。
怪しいなんてレベルじゃない。
「響平君、ダメだよ、いきなりそんなこと言っちゃ」
「そうだぞ、響平。こんな筋肉質の人が人を殺すわけないだろう」
「でも、すごい動揺してるぞ?」
「こんな簡単に犯人見つかるわけないでしょぉ?」
「これはきっとひっかけですよー」
本当に俺が間違っているのだろうか。
ヤスって名前だけで犯人としか思えない。
もうちょっと突っついたらボロが出るんじゃないだろうか。
「まままま、まずはしょしょ食堂でゆゆゆっくりと事件のががが概要からお話いたいたしますのでで」
まだ動揺してるよ。
絶対犯人だよ、この人。