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戦闘終了

 コトン。


 そんな俺の幸せな気分は、不意に聞こえた物音でかき消された。

 物音のする方に視線を送ると、先ほどの敵に破壊された城の扉から、勇者・戦士・僧侶・魔法使いのパーティーが入ってきたところだった。


「あれで最後だね」


 小町さんがつぶやく。


「モぉンブラぁン!」


 ことりんが結渚ちゃんを回復する。

 麦穂は剣を、小町さんは槍を構え、俺はいつでも鋼の円形の武器が出せるように身構える。

 どの敵を最初に狙おうか。

 敵を順番に見定めるように眺めた俺は、あることに気がついた。


「小町さん、あいつらって本当に強いんですか?」

「ステータスは高かったけど」

「その割には、武器しょぼくないですか?」

「うーん……。本当だねえ……」


 戦士らしきマッチョな男の装備は、太い木の棒に分厚めの服。

 僧侶らしきスタイルのいい女の装備は、太い木の棒に薄い服。頭には十字架の模様の付いた帽子。

 魔法使いらしき眼鏡をかけた女の装備は、細い木の棒に薄い服。頭には黒のとんがり帽子。

 最後に残った勇者らしき男の装備は、しょぼそうな剣に分厚めの服。


「さっきの敵のが強そうでしたけど」

「もしかすると、初期装備なのかな?」

「初期装備?」

「うん。昔のゲームってね、勇者が王様に呼ばれてお城に行くと、いきなり魔王を倒してこいとか無茶振りされて始まるのとかあったんだけど、そのときに王様に棍棒とか渡されるの」

「……棍棒でどうやって魔王倒すんですか?」

「多分、勇者候補もいっぱいいると思うから、あんまりお金かけられないんじゃない?」

「勇者候補厳選して、いい武器渡してあげた方が魔王倒せそうですけど」

「お城も財政赤字かもしれないし、あんまりいい武器用意できなかったんじゃないかな?」

「財政赤字なのに魔王は倒しに行かなきゃいけないんですか? 財政再建が先じゃないんですか?」

「魔王のせいで経済が乱れて財政赤字になったのかもしれないしね」

「ああ。でもそれなら、お城で軍隊編成した方が強そうですけど」

「本当だよねえ。昔のゲームって、昼間から酒場でお酒飲んで酔っ払ってるヤツらから仲間選ばなきゃいけなかったりするし」

「え? そんなヤツらと命がけの戦いに挑むんですか?」

「まぁ、でも、今のわたしたちも、たまたま会ったメンバーで戦ってるしね」

「言われてみればそうですよね。何か、一気に敵に親近感が芽生えました」


 小町さんも昼間からビール飲んで酔っ払ってましたよね、俺たちも一緒ですね、なんて口が裂けても言えない。

 俺は改めて敵を見た。

 あいつらも苦労してここまで来たんだなあと思うと、感慨深いものがあった。


「あ! みんな、気をつけて!」


 思い出したように小町さんが声をあげる。


「あの魔法使いだけど、ステータスのところに、特技は大爆発って書いてあったから!」


 特技って。

 就職活動の面接じゃないんだから。


「お兄ちゃん、大爆発って何のことですかー?」

「多分、魔法だと思うけど」

「魔法なんですかー?」

「魔法使いの特技だし。敵全員に大ダメージ与えるとかじゃない?」

「その魔法ってぇ、あのパーティーにとってどんなメリットがあるのぉ?」

「やっぱり敵が襲って来ても守れるってことだと思う」

「響平、あいつら攻めてくる側だろ? あいつらを襲ってくるようなヤツはいるのか? 大体周りの人間に危害を加えたら犯罪だろう?」

「でも、魔法で大爆発を起こせたら警察にだって勝てるだろ?」

「響平君、勝つとかそういう問題じゃないんじゃないかな?」

「でも、敵全員に100以上ダメージ与えるかもしれないですし」

「お兄ちゃん、100って何ですかー?」

「あぁ、100ヒットポイント。HPとも書くやつで、俺たちのステータスにも表示されてるやつ」

「ことりんはぁそこまで聞いてませぇん」

「あれあれ? ことりん、聞かなくていいの? 使っちゃうよ? 大爆発魔法」

「響平、使ってみろよ」

「運がよかったな。今日はMPが足りないみたいだ」

「響平君、わたしたちが今やってるゲームってMPないから、ね?」

「その前にお兄ちゃん、ピザ屋じゃないですかー」


 そういえばそうだった。

 いつから俺は自分が魔法を使えるみたいな錯覚をしてたんだろう。


「おい、響平。お前はどれ狙うんだ?」

「回復されると厄介だから、僧侶だな」

「響平君、ここから先に僧侶だけ倒せる?」

「何発かぶつければ倒せるかもしれないんで、とりあえずやってみます」


 言いながら俺は、厚みのある鋼のピザを出した。

 まずは、これを僧侶に。

 俺は僧侶をじっくりと見た。

 ……でかい。

 僧侶の着ている薄い服は、胸のあたりがはちきれそうになっている。

 小町さんと、どっちが大きいんだろう。

 あれだけ大きいと、目の前の敵が生身の人間のように思えてくる。

 ……生身の……人間……?

 まさか。

 確かに、アイドル四人組のKO4とか、おっさん四人組とか、マッチョな男四人組とかとは戦った。

 けど、あれは一目で分かるゲームキャラクターだった。

 それが、今回は。


「小町さん、俺たちがちゃんとした人間と戦うのって、初めてですよね?」

「……そうかも……ね」


 躊躇いがちに、小町さんが答える。

 小町さんは、俺の意図することに気付いたようだった。

 それでも俺は、聞かずにはいられなかった。


「あれもゲームのキャラクターで、生身の人間じゃないってことでいいんですよね?」

「……わたしはそう思ってる」

「……俺たちがこうしてゲームに参加してるのに、ですか?」


 まさかとは思うが、敵が俺たちと同じようにゲーム世界にやってきた人間だったとしたら。

 もしそうだとすると、俺たちは、人間同士で殺し合いをすることになる。

 相手は人間じゃないと信じていいんだろうか。

 そのあたりの話は、シフォンさんから全く聞いていない。

 不安が脳裏をよぎる。

 本当に戦っていいんだろうか。


「おい、響平。あいつらが人間だったら戦えないとか言い出すんじゃないだろうな」

「でも、人間だったら……」

「響平、これゲームだよぉ?」

「お兄ちゃん、現実とゲームの区別がつかないタイプですかー? ゲーム脳ってやつですかー?」


 そう。

 これはゲームだ。

 ゲーム内で殺し合ったとしても、現実世界では傷一つ負わない。

 頭では分かっている。

 分かっているけれど。

 あの勇者も、戦士も、僧侶も、魔法使いも、現実世界では俺たちと同じように学校に行って毎日の生活を送っているのかもしれない。

 そう思うと、心がついてこない。

 俺が迷っている間に、敵の魔法使いが前に出た。

 魔法使いは左手に細い木の棒を持ったまま、空いている右手を上に掲げる。

 空中が歪んだように見えて――


「っ!?」


 俺は思わず息を飲んだ。

 マズイ。


「みんなっ! 俺の後ろに隠れろっ!」


 叫びながら、俺は手に持っていた鋼のピザを捨て、目の前に巨大な鋼のピザを出す。

 みんなを隠せるくらいの、大きな鋼のピザを。


 ドーーーーーーーンーーーーーーー!


 すさまじい光と激しい音が一階の広間を襲った。

 俺は両手で巨大な鋼のピザを支えたが、無駄だった。

 俺の身体は、盾に使った巨大な鋼のピザごと吹っ飛ばされた。


 ドンッ!


「い……っつ……」


 俺は床に身体を打ちつけ、その場に倒れ込む。

 油断した。

 俺が迷わなければ。

 俺はうずくまったまま、周りの状況を確認した。

 後ろには、吹っ飛ばされて倒れた、小町さん、麦穂、ことりん、結渚ちゃんの姿があった。


「みんな! 大丈夫っ!?」


 俺はみんなに声をかける。


「……何とかな……」


 剣を杖代わりにして、麦穂が立ち上がる。


「……死ぬかと思いましたよー」


 結渚ちゃんは元気に立ち上がる。

 盾の後ろに隠れただけではなく、さらに麦穂の後ろにも隠れていたようだ。

 結渚ちゃん……おそろしい子!


「あのクソ眼鏡……」


 血走った目で、ことりんが立ち上がる。


「響平君も、大丈夫?」


 俺に声をかけながら、小町さんが立ち上がる。

 何とか直撃は避けられたらしく、全員、無事のようだった。

 早く態勢を立て直さないと、次の攻撃がくるかもしれない。

 攻撃するより先に、盾を出しておいた方がよいだろうか。

 それとも、魔法使いに攻撃を仕掛けた方がよいだろうか。

 俺は立ち上がると、敵の様子をうかがった。


「えへへぇ。響平ぃ?」

「ひいっ!」


 思わず俺の口から悲鳴が漏れた。

 俺が敵の様子を探っているのなどお構いなしに、血走った目のまま、何故か笑いながらことりんが俺に近づいてきたからだ。

 嫌な予感しかしない。


「ピザ一個出してぇ」


 何かもうひたすら怖いので、俺は素直に従い、鋼のピザを出してことりんに手渡した。

 ことりんは俺からピザを受け取ると、


「あたしの顔に傷がついたらどうすんのよっ!」


 叫びながら魔法使いに向かってぶん投げた。

 ……ハズだった。


「あれぇ? 何でぇ?」


 ことりんの投げた鋼のピザは、ことりんの手を離れてすぐに、モザイクのような残骸を残して、消えた。


「えへへぇ。響平ぃ? 何したのぉ?」

「なな、な、何にもしてないです」

「じゃぁ何で消えたのぉ?」

「いや、俺に聞かれましても……」

「お兄ちゃん、正直に言った方がいいですよー」

「響平、お前以外にピザをいじれるヤツはいないだろう」

「ちょ……! 本当に! 何もしてないからっ!」


 突然空中でピザが消えるとか、こっちが聞きたい。


「響平君、自分でも一回やってみたらいんじゃないかな?」


 小町さんに言われて、俺は鋼のピザを作り、敵に向かって飛ばした。


 ドカッ!


 鈍い音が聞こえる。

 俺の投げたピザは敵の戦士に直撃していた。


「やっぱり問題ないと思うんだけど」


 俺の答えに、ことりんは納得していないようだった。


「じゃぁ、もう一個出してぇ」


 俺はことりんに言われるまま、もう一個鋼のピザを出して手渡した。


「死ねっ! クソ眼鏡っ!」


 叫びながらことりんは鋼のピザを敵の魔法使い目がけて投げつけるが、やはり鋼のピザは空中で消えた。


「えへへぇ。響平ぃ? おかしいよねぇ?」

「ひいっ! ごご、ごめんなさい! でも俺本当に知らないんですっ!」


 血走った目のまま笑いながら迫るのやめて。

 怖い。


「響平、私にも一個出してくれ」


 麦穂に言われ、俺は鋼のピザを出し、麦穂に手渡した。

 麦穂も鋼のピザを敵目がけて投げるが、ピザは麦穂の手を放れると、やはりすぐに消えてしまった。


「これ、お前以外の人間が投げると消えるんじゃないか?」

「え? そうなの?」

「あー、確かに響平君が出したピザをみんなで投げれたらピザ屋のジョブの意味なくなっちゃうからね」

「さっきはぁ、ことりんがピザで敵をぶん殴っても消えなかったのにぃ」

「殴るのはいいんじゃないですかー? 投げたらダメなだけでー」

「えぇぇ!? ことりんはぁ、ピザをぶん投げたい気分なんだけどぉ」

「ことりんちゃん一応回復役だから、ね?」

「でもぉ、ことりんの顔に傷がつきそうになったしぃ、あのクソ眼鏡ボコボコにしたいんですけどぉ」

「気が合いますねー、ことりんお姉さまー。あたしもですよー」


 ことりんと結渚ちゃんは視線を交わすとうなずき合い、二人そろって俺へと向き直ると、二人そろって無言で俺に手を差し出す。

 言いたいことは分かるので、俺は無言で鋼のピザを二つ作り、それぞれ二人に手渡した。

 俺からピザを受け取ると、ことりんと結渚ちゃんは敵へと走る。


「今度こそ死ねっ! クソ眼鏡っ!」

「ことりんお姉さまはいいですけど、あたしの顔に傷がついたらどうするんですかー!」


 俺と小町さんと麦穂は、その様子を呆然と見ていたが、


「麦穂ちゃん、わたしたちも」

「了解です」

「響平君は早いうちに僧侶をお願い」

「分かりました」


 小町さんにうながされ、俺たちも敵に攻撃を仕掛けることにした。

 さっきまで相手が人間かもしれないと思って悩んでいたけど、正直、すごくどうでもよくなった。

 ゲームだし。

 ここで負けたらやり直しになるし。

 あの敵が俺たちと同じように現実世界では学校に行ったりしてるとしても、俺とは違って楽しい毎日を過ごしてるのかもしれないし。

 もしもそうだとしたら、ここで死んでもらわないと、むしろ不平等だ。

 俺は僧侶へと近づきながら鋼のピザを出し、僧侶目がけて飛ばした。

 けれど、やはり敵のステータスは高かった。

 ピザが当たらない。

 避けられる。

 さっき戦士には当たったけれど、僧侶の素早さのステータスは戦士とは比べ物にならないようだった。

 素早い。

 ちょこまかと動き回りやがって。

 間合いを十分にとっているので僧侶から棍棒で殴られることはなかったが、こっちの攻撃も当たらないとなると長期戦になってしまう。

 俺の場合、鋼のピザを出すたびにHPが減っていくので、長引けば不利だ。

 俺は広間の中で使えるものがないか見回した。

 天井を落としたり、柱を倒したりして攻撃できないか考えるために。


「響平はぁいつまでちんたらやってるのよぉ!」

「お兄ちゃん、きっとあの僧侶さんに誘惑されてますよー!」


 そんな俺の戦術的思考は、二人の声に中断させられた。

 ことりんと結渚ちゃんは鋼のピザを持ったまま、僧侶へと向かって行く。

 そんなに近づいたら――


 ゴンッ!

 ガシッ!

 ボカッ!


 心配するだけ無駄だった。

 二人の攻撃は容赦がない。

 ことりんと結渚ちゃんは僧侶を文字どおりボコボコにしていた。

 気付けばすでに、魔法使いの姿はない。

 麦穂は棍棒を持った戦士の攻撃をかわし、剣で斬りかかる。

 小町さんはしょぼい剣を持った勇者の攻撃をかわし、槍で突く。

 ステータスだけ高くても、武器がしょぼいとこうなるんだなあというのがよく分かる。

 結局、俺が何もしないうちに、戦いは終わった。

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