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四つ足の畜生

 俺たちの作戦は順調に進んだ。

 城の扉の陰に隠れて、来た敵を順番に倒す。

 まずは俺が鋼のピザを飛ばして先制攻撃をし、ダメージを与える。

 結渚ちゃんの出した未来の結渚ちゃんが何故かけっこう強かったので、敵を足止めする。

 その隙に、小町さんと麦穂が二人がかりで倒す。

 そんなこんなで、敵も残すところ、あと二組となった。

 昨日俺たちが負けた敵と、勇者・戦士・僧侶・魔法使いのパーティー。

 強敵と戦う前に、俺たちは態勢を整えることにした。


「モぉンブラぁン!」


 相変わらずふざけた掛け声をかけながら、ことりんがみんなを回復して回る。

 小町さん、麦穂、結渚ちゃんのHPが全回復していく。

 あとは俺だけになった。


「ことりんさ、何でそれで回復できるの?」

「モンブランを食べるとぉ心が満たされてぇ幸せな気持ちになるでしょぉ? だからみんな回復するのぉ」


 何言ってるかよく分かりません。


「そう言えば響平ってぇことりんに癒されたことないとか言ってなかったぁ?」

「……ん?」

「そういうこと言う子はぁ回復してあげませぇん」


 何だこの嫌がらせ。


「俺以外のみんなもことりんに癒されたことなくない?」

「あたしはことりんお姉さまに癒されまくりですよー」


 言いながら結渚ちゃんがことりんに抱きつく。


「結渚ちゃん、さっきことりんの姿した敵ボコボコにしてなかった?」

「嫌ですねー。あれは敵だから仕方なく倒しただけですよー」

「『外に出れない顔にしてやる』とか言ってなかった?」

「あたしが言ったのは、ことりんお姉さまの姿をパクった敵に対してですよー。ことりんお姉さまに向かってそんなこと言うわけないじゃないですかー」


 これが処世術というヤツか。

 結渚ちゃんの異様に高い防御力の秘密が分かった気がする。


「響平はぁことりんのことぉ癒し系だって認めるのぉ?」

「お馬鹿キャラと癒し系って両立するの?」

「両立するんじゃなくてぇ両立させるのぉ」

「は、はは……。そ、そうなんだ」


 乾いた笑いしかでねえ。


「響平にはぁことりんが学校に戻ってからぁみんなにことりんは癒し系ですって言って回ってもらうからぁ」

「え? 俺そこまでするの?」

「他に誰がやるのぉ?」

「麦穂……は、やりそうにないな」

「でしょぉ?」

「でも俺友だちいないんだけど。誰に言って回るの?」

「響平もぉ学校戻ったらキャラ変えるんでしょぉ? 友だち作るのくらい気が向いたら手伝ってあげるかもしれないからぁ」

「それ、手伝うとは言ってないよな?」

「気が向いたらぁ手伝ってあげるかもしれないかもしれないからぁ」

「さっきより遠くなってない?」

「でぇ、どうするのぉ? ことりんの癒し系プロジェクトに協力するのぉ?」

「ああ、もう、するから!」

「よしよし。素直でよろしぃ。モぉンブラぁン!」


 やっと俺のHPが回復した。

 HP回復してもらうだけで、何でこんなに手こずるんだろう。


「みんな、準備いい? ここからは作戦変えようと思うんだけど」


 俺のHPが回復するのを待って、小町さんが口を開く。


「小町お姉さま、どうするんですかー?」

「響平君と結渚ちゃんが鍵になると思う。まず、響平君」

「はい?」

「あの火を吐く狼だけど、一対一で勝てる?」


 そんなの考えるまでもない。


「無理ですね」

「おい、響平! もうちょっと根性出せ!」

「いや、無理だろ、アレは! 空飛ぶし! 火吐くし! 俺よりステータス高い小町さんでさえ負けたし!」

「うーん……。じゃ、結渚ちゃんと二人がかりなら?」

「二人でどうやって戦うんですか?」

「あの四体の敵だけど、狼の炎と機械の敵の銃がなければ、もうちょっとマシになると思うんだよね。だから響平君には二階に上がってもらって、二階のテラスから狼を攻撃して欲しいんだけど」

「ってことは、俺が狼を攻撃して、狼を二階におびき寄せて分散させるってことですか?」

「うん。だけど、そうすると狼と響平君が一対一になっちゃうから、結渚ちゃんの人形と一緒ならと思って」

「小町さんと麦穂は?」

「響平君が狼に攻撃を仕掛けるとエンカウント判定になって、あのパーティーがわたしたちに攻撃を仕掛けてくると思うから、わたしたちはここで迎え撃とうと思う」

「そうすると、一階で戦えるの小町さんと麦穂の二人なのに、敵三体攻めてきますよ?」

「うん。だから響平君一人で狼に勝てるんなら一番いいって思ったんだけど。結渚ちゃんの人形もこっちにいれば、機械の敵の銃防げると思うし」


 そういうことか。


「……俺、一人でやってみます」

「お兄ちゃん、大丈夫ですかー?」

「響平、無理しない方がいいんじゃないか?」

「できないことはぁ正直に言った方がいいと思うよぉ?」

「大丈夫だと思う。俺、遠距離攻撃だし」

「響平君、本当にお願いしていい?」

「大丈夫ですよ。ただ、一応ここの扉は閉めておいてもらっていいですか?」

「分かった。敵に壊されると思うけど時間稼ぎくらいにはなるかもしれないしね」

「お兄ちゃん、無事に帰ってきたらご褒美あげますよー」

「マジで? 何くれるの?」

「お姉さま三人から一人選んで好きにしていいですよー」

「マジでっ!?」


 俺は三人を順番に見た。

 麦穂。

 剣を右手で持ち、その切っ先を俺に向ける。


「それ以上こっちに近づいたら殺すぞ」


 ことりん。

 ほっぺを膨らましてぷいっとそっぽを向く。


「もぉ回復してあぁげないっ」


 小町さん。

 槍を両手で持ち、その切っ先を俺に向ける。


「ごめんね。響平君を社会的に消すのは悲しいから、ごめんね」


 全員に拒絶されてる気がするんですが。


「結渚ちゃん、ダメらしいんだけど」

「困りましたねー。じゃー、今度あたしが踏んであげますよー。お兄ちゃんがどうしてもって言うんなら生足で踏んであげてもいいですよー」

「……ご褒美いらないから……」


 どうせこんなことだろうと思ったし、まあいいや。

 気を取り直し、俺は階段へと向かう。


「あ、扉だけ閉めといて」

「うん、響平君、気をつけて」

「無理するなよ」

「回復してあげるからぁ死ぬ前に戻っておいでぇ」

「お兄ちゃーん、死ぬ前に金目のもの置いてってくださーい」


 後ろからの声を聞き流し、俺は階段を上って二階へ出た。

 二階は静かで、物音一つしない。

 これから起こることを考えると、嵐の前の静けさというヤツに思える。

 俺は階段の横をぐるっと回ると、開け放たれたままになっている窓からそのままテラスに出て、外の様子をうかがった。

 敵のパーティーはあと二つ。

 昨日俺たちが負けた、騎士、機械の敵、狼、タコのパーティーと、勇者・戦士・僧侶・魔法使いのパーティー。

 二組とも城の外をうろうろしている。

 こういうのって一定時間経つと一斉に向かってきたりするから、早めに倒さなきゃいけない。

 一人で狼に勝てる自信は、正直ない。

 けれど、チャンスはあると思う。

 ここから鋼のピザを飛ばしまくって、狼が俺のところに飛んで来るまでにひたすらHPを削る。

 少しでも多く狼のHPを削れれば、俺にも勝機があるはず。


「よしっ!」


 一人で気合いを入れると、俺は右手に鋼のピザを出した。

 緊張する。

 俺が攻撃をすると、戦闘が始まる。

 一階のみんなの準備はもう整っているだろうか。

 時間稼ぎにしかならないけれど、扉は閉めただろうか。

 俺は大きく深呼吸をすると、


「おりゃ!」


 掛け声とともに、鋼のピザを狼に向かって飛ばした。


 ぽすっ……。


 あ……。

 タコに当たった……。

 よく考えたら、二階から下にいる敵に鋼のピザをぶつけるなんてできるわけがなかった。

 自由自在に鋼のピザを扱えるスキルなんてないし、長い距離をコントロールすることだってできるわけないし。

 俺は二つ目の鋼のピザを出したが、これを狼に飛ばしても、当たらなくて無駄になるだけのような気がする。

 かといって、狼がこっちまで上がってくる前にHPを削らないと勝ち目がなくなる。

 どうしようか。

 俺が悩んでいる間に、四体の敵はこちらを見上げていた。

 機械の敵が銃口を俺に向け――


「うおっ!」


 俺は慌てて一歩下がり、その場に伏せる。


 パンッ!


 発砲音が聞こえたが、俺の身体にダメージはない。

 どうやら避けれたようだった。

 今の俺の攻撃でエンカウント判定になって、敵は間違いなく城の扉に突っ込んでいくだろう。

 下を覗き込みたいが、顔を出した途端、機械の敵に銃で撃たれそうで怖い。

 昨日もそれでやられてるし。

 でも、下の様子を見ないと、何がどうなってるのかがさっぱり分からない。

 もしかすると、狼が一階に行ってしまっているかもしれない。

 そうなると、敵を分散させるという作戦が失敗に終わる。

 這いつくばったままの姿勢で、勇気を出して、おそるおそる、ゆっくりと俺はテラスから下を覗き込むように、顔だけを出した。


 ぶちゅっ。


「……ん?」


 何かが顔に当たった。

 というより、唇に触れた。

 生暖かい。

 しかも、俺がテラスから顔を出して下を覗き込んだ瞬間、狼の顔のアップが目の前にあったような気がする。

 きっと見間違いだと思うけど。

 気のせいだと信じたいけど。

 淡い希望を抱きながら、ゆっくりと、俺は、重ねていた唇を離す。

 俺の目の前にいて、俺と唇を重ねていたのは。


「やっぱりお前かよっ!」


 狼だった。

 俺は慌てて這いつくばった姿勢のまま、後ずさる。

 違う。

 これはゲームだ。

 現実世界じゃない。

 今のはキスじゃない。

 俺のファーストキスじゃない。

 俺のファーストキスが狼だなんてありえない。

 俺のファーストキスが四つ足の畜生だなんて絶対にありえない。

 ないないないないないないないないない。

 違う違う違う違う違う違う違う違う違う。

 ファーストキスじゃないファーストキスじゃないファーストキスじゃない。

 キスじゃないキスじゃないキスじゃないキスじゃない。


 パパパパーン。パパパパーン。


 脳内でウェディングの曲が流れ出す。

 海沿いのチャペル。

 響き渡る鐘の音。

 タキシードを着ている俺と、ウェディングドレスを着ている狼。

 チャペルの中で、俺はウェディングドレスを着た狼の指に指輪をはめる。

 二人で並んでチャペルから出ると、狼がドレスを着た狼友だちに向かって、口にくわえたブーケを投げる。

 ドレスを着た狼友だちのみなさんはそのブーケを奪い合う。

 俺と狼は二人でハネムーンへと旅立つ。

 行き先はコヨーテ州とも呼ばれるアメリカのサウスダコタ州。

 そこでラシュモア山国立記念公園に行って、四人の大統領の顔のモニュメントを二人で見る。

 日本に帰ってきた俺と狼は二人で新しい生活を始める。

 仕事から帰ってきた俺を裸エプロンの狼が出迎える。


「このお肉はお前が狩りをして獲ってきたのかい? できれば生肉じゃなくて焼いてくれないかな。HAHAHAHAHA……」


 俺たちの新婚生活は順調で、子どもが二人生まれて、レインとスノウって名前をつけて……。


 ないないないないないないないないない。

 違う違う違う違う違う違う違う違う違う。

 俺が四足の畜生とそんな展開になるとかありえない。

 何でそんな気持ち悪いイメージが脳内に生まれてくるんだよっ!?

 大体この狼、メスかどうかも分かんないだろ!?

 殺してやる。

 この狼。

 絶対に殺してやる。

 人生を取り戻してやる。

 俺の悪夢を振り払ってやる。

 そんな俺の灰色の未来予想図に気付く様子もなく、狼はテラスに伏せたままの俺の上に2mほど舞い上がると、口を開いて息を吸い込む。


「やぱっ!」


 俺は鋼のピザをその場に放り出して、テラスに伏せた姿勢のまま右に転がった。


 ごおっ!


 俺がさっきまでいたところに、狼が炎を吐き出す。

 危ねえ。

 動くのが遅かったら絶対燃えてた。

 炎が止まり、狼が羽を羽ばたかせてさらに舞い上がる。

 俺は体勢を立て直し、慌てて鋼のピザを拾う。

 立ち上がって見上げると、俺の3mほど上にいる狼と目が合った。

 炎を吐かれる前に。

 狼と距離をとるために、俺は走って狼から離れる。

 走りながら、さっき拾った鋼のピザを右手の上にセットすると、


「うおりゃっ!」


 振り向きざまに、狼目がけて鋼のピザを飛ばす。

 鋼のピザが狼の顔面に当たるのを確認すると、俺は続けざまにもう一個鋼のピザを出し、狼目がけてまた飛ばす。

 距離があまり離れていないからか、二個目も狙ったとおり狼の顔面に当たった。

 だが。


「……あんまり効いてなくね……?」


 狼のHPのゲージは四分の一くらいしか減らなかった。

 二個で四分の一。

 狼を倒すには、あと六、七個くらい当てなければいけない。

 とにかく、鋼のピザをぶつけるしかない。

 俺は頭の中でイメージし、鋼のピザを出そうとするが、今度は狼の攻撃の方が早かった。

 狼の口から炎が吐き出される。

 かわそうとしたが、間に合わない。


「あ……つっ……!」


 俺の身体は立ったまま、狼から吐き出された炎に包まれる。


「あ……ぐ……うぅ……」


 全身が、熱い。

 燃えるように。


「あ……ああぁっぁ……っ!」


 身体が……痺れる……っ!

 身動きが、とれない……!

 俺の脳裏に、昨日、小町さんが炎で焼かれた光景が甦った。

 小町さんは、炎から逃れることなく、炎の中で焼き尽くされた。

 逃げなかったんじゃない。

 逃げられなかったんだ。

 身体が、痺れて。

 このままだと、俺も焼き尽くされるのは時間の問題だった。

 炎を防がないと……!

 でも……どうやって……!?


「あっ……ぐっ……!」


 熱い。

 身体を覆う炎の熱さのせいで、気持ちばかりが焦る。

 盾か何かあれば……!

 そうすれば、炎を防げるかもしれないのに……! 

 ……盾。

 盾……?

 丸い盾。

 鋼のピザ。

 できるのか……?

 …………いや。

 やるんだ。

 迷っている暇はない。

 俺は炎の中で身動きがとれない身体のまま、巨大な鋼のピザをイメージした。

 巨大なピザ。

 2mくらいの、巨大な鋼のピザ。

 巨大なピザを目の前に……!


 ぶ……ん……。


 俺の目の前の炎の中の空間が歪む。

 そこに現れたのは、俺のイメージ通りの巨大な鋼のピザ。

 その鋼のピザが盾となって、狼の炎を防ぐ。


「……くはっ……はっ……はっ……」


 炎から逃れた俺は、立つことすら困難で、片膝をつく。


「うおっ!」


 片膝をついている俺に、巨大な鋼のピザが倒れてきた。

 俺は慌ててその鋼のピザを両手で受け止める。

 何とか、炎からは逃れられた。

 だけど、喉の奥が焼けるように熱くて、呼吸をするだけで胸が痛くなる。

 肺の奥まで焼かれたような気がする。

 見えないから分からないけれど、帽子が燃えて、髪もちりぢりになっているのかもしれない。

 身体がまだ、痺れている。

 HPも半分くらい減っている。

 急がないと。

 長引けば長引くほど、こちらが不利だ。

 俺は盾に身体をもたれさせ、鋼のピザをイメージして手の上に出した。

 狼は炎を吐くのを止め、また舞い上がる。

 俺は盾の陰に隠れながら、盾から身体を半分ほど出して、鋼のピザを狼目がけて飛ばした。

 俺にできることは、盾に隠れながら、狼に攻撃を続けることだけだった。

 あまりかっこいい戦い方ではないけれど、他に方法がない。

 狼の炎を盾で防ぎ、鋼のピザを出して、狼に向かって飛ばす。

 何度も繰り返すうちに、少しずつ、狼のHPが削られていく。

 狼の方も、俺を攻めあぐねているようだった。

 あと、少し。

 あと少しで、狼を倒せる。

 俺は鋼のピザを出して、盾から顔を出して狼の様子をうかがった。

 これでとどめをさせるかもしれない。

 だが、俺が狼に狙いを定めたところで、狼が高く、高く舞い上がった。

 狼を見上げながら、あそこから炎を吐くのか? と思った次の瞬間。

 狼が俺目がけて突進してきた。

 マズイ。

 俺は慌てて手の上に出している鋼のピザを捨てると、盾として使っている鋼のピザを両腕で支える。


 ごーんっ!


 狼が盾に突撃し、激しい音が響く。

 俺は盾を支えきれず、そのまま盾と一緒に倒れた。


「いっ……てぇ……」


 俺の身体は盾の下。

 顔だけを盾から出すような格好で、俺は盾の下敷きになっていた。

 重い。

 身体を起こすために盾をどかそうとするが、盾が重い。

 盾の上を見ると、狼が盾の上に乗っかっていた。

 盾だけでも重いのに、狼にまで乗られると持ち上げられない。

 狼は盾の上に乗っかったまま俺の顔のそばまで歩いてくると、口を開く。

 避けられない……!


 ごおっ……!


 狼が俺の顔目がけて炎を吐いた。


「ああぁぁああっ……!」


 熱い。

 焼ける。

 痺れる。

 盾をどかそうにも、重くて持ち上げられない。

 俺の顔は狼の出す炎で焼かれていく。


「ぐあああぁぁぁ……あっ……ああぁああぁぁっ……」


 負ける。

 また、負けるのか。

 また、何もできずに、殺されるのか。

 一階では、みんなが戦っている。

 間違いなく苦戦している。

 俺がここで殺されたあと、狼が一階に行って敵に加わる。

 ただでさえ苦戦しているところに、炎を吐く狼が参戦する。

 勝ち目が、なくなる。

 また、みんな、殺されるのか。

 俺が、弱いから。

 俺が、こんなにも、弱いから。

 昨日、このゲームで負けたあとのみんなの顔を思い出す。

 また、みんなに、あんな顔をさせるのか。

 俺が、こんなにも、無力だから。


「おっ……おおおおぉぉっっああぁぁぁぁっっ……!」


 炎の中で、俺は叫んだ。

 俺は、ここで、死んでもいい。

 だけど、せめて、狼だけは、ここで止める。

 きっと、これが、今の、俺の、精一杯。


「うおおおおおおおぉぉぉっ!」


 俺は、盾の上に乗っかっている狼の頭の上に、盾と同じくらい巨大なピザが現れるのをイメージした。

 巨大な鋼のピザに挟まれて、潰れろ……!


 ごんっ!


 鈍い音が聞こえたかと思うと、炎が止む。

 狼は俺の目の前で、モザイクのような残骸を残し、消えた。


 ……勝った。


 そう思ったのも一瞬だった。


 ごーーーんーーーー。


 鈍い音が響き渡り、俺が盾として使っていた鋼のピザの上に、俺が狼にとどめをさすために出した巨大な鋼のピザが落ちて、重なる。


「ぅあっ……! ぐっ……」


 二枚の鋼のピザに潰された俺の全身に、激痛が走る。


「が……っ……はっ……!」


 俺の口から、血が吐き出される。

 消えろ。

 消えろ。

 消えろ。

 消えろ。

 何度も何度も念じ、ようやく俺を押し潰している二枚の鋼のピザが消えた。


「ぐ……はっ……はっ……はっ……」


 苦しい。

 痛い。

 手が震える。

 俺のHPのゲージは赤く染まっていた。

 俺は仰向けに寝転がったまま、震える手でジーンズのポケットを探り、透明なガラス球のような石を取り出して、上に掲げた。

 俺のHPが回復し、石が砕け散る。


「はっ……はぁ……はぁっ」


 行かないと。

 身体に力が入らない。

 HPは回復しているはずなのに。

 俺は両手を地面に着き、身体を起こして、何とか立ち上がる。

 足がふらふらする。

 でも、行かないと。

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