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順調に撃破

 階段を降りると、城の1階の大広間に出た。

 2階の廊下よりも、はるかに広い。

 そして、大広間に下り立った俺たちを、女の子の四人組が待ちかまえていた。

 この四人組、どこかで見たことがあるような。

 整った顔。

 アイドルみたいな衣装。

 ……アイドル?


「ああぁぁ! KO4だぁ!」


 驚いたようにことりんが叫ぶ。

 言われて気付いた。

 そうだ。

 今をときめくアイドル、かわいいお馬鹿な四人組。

 略して「KO4」だ。

 でも、何でこんなところに……?


「これ、本物?」


 俺はことりんに聞く。


「そっくりだけどぉ、違うんじゃなぁい?」

「ゲームだからデザインを似せてあるだけで、別ものじゃないかな?」

「顔の動きとか身体の動きとか、ロボットみたいに見えるな。筋肉も本物っぽくないし」

「じゃー、いいんじゃないですかー? やっちゃいましょー!」


 俺たちは武器を手に身構えた。

 相手はアイドルだから、多分あんまり強くないだろう。

 見た感じでは、ステータスの数値もあまり高くない。

 これなら俺のメスでも倒せるかもしれない。

 けれど、そうやって油断させるためにアイドルの格好をしているだけで、何か特殊な技を使ってくる可能性もある。

 迂闊に近づくのは危険かもしれない。


「うおりゃー!」


 どうしようか迷っている俺の目の前には、竹刀をかまえて突っ込んで行くことりんの姿があった。


「ちょっ! ことりんっ!?」

「あたしとキャラがかぶるのよっ!」

「ええぇぇっ!」


 声とともに、ことりんが竹刀を振る。

 竹刀の先から巨大な炎が湧き上がり、KO4に向かって放たれる。

 敵の一人は炎に巻かれ、一撃でその姿を消す。

 ……ことりん、こええ。


「かわいいのはあたし一人でいいんですよーっ!」


 今度は叫びながら結渚ちゃんがKO4に跳びかかる。

 そのマジカルステッキは女の敵には通じないんじゃ……などと心配する必要もなかった。

 結渚ちゃんはマジカルステッキで直接KO4の頭をぶん殴る。

 魔法少女・物理。

 結渚ちゃんに直接攻撃をくらった敵は、かなりのダメージをくらったようで、よろよろとその場に倒れ込む。

 やっぱり、結渚ちゃんの攻撃力だと、一撃で倒すのは難しいらしい。

 ……ということは、俺の攻撃力でも一撃では倒せないということか。

 結渚ちゃんの攻撃を受けた敵が立ち上がる前に、今度は俺が敵に向かって走る。

 敵が弱ってる今なら、俺の攻撃力でも倒せるかもしれない。

 俺はメスを握り、敵に向かって跳びかかると、メスを突き出す。

 だが。

 俺のメスは空を切る。

 横を見ると、俺より早く小町さんが槍を敵に突き刺していた。

 敵はモザイクのような残骸を残し、俺が攻撃するより早く消えていく。

 また、俺の出番が……。


「お馬鹿キャラ舐めんなぁっ!」


 掛け声とともにことりんの竹刀から炎が放たれ、KO4がまた一人、炎に焼かれて消えていく。

 最後の一人は麦穂が剣で一刀両断にする。


 ……また俺だけ……。


「ことりんちゃん、火出せたね」

「ことりんもぉ、熱い言葉の意味がぁ、ちょっと分かりましたぁ」

「結渚、その杖で攻撃できるのか?」

「けっこうダメージ与えれましたよー」


 みんな楽しそう。

 俺だけ、謎の疎外感。

 まぁ、今回も役に立ってないからしょうがないんだけど。

 だが、今度は落ち込んでいる暇はなかった。


「また来たぞ!」


 麦穂の声に振り向くと、俺たちの目の前に屈強な男の四人組が向かってきていた。

 四人とも、ブーメラン水着一丁という格好。

 ここの世界の男たちは、パンツ一丁じゃないとダメとかいう決まりでもあるのだろうか。

 だが、今回の男たちは、先ほどの小太りのおっさんとは全く違っていた。

 遠目でも分かる。

 筋肉がヤバイ。

 首が太い。

 腕が太い。

 胸板が厚い。

 お腹が割れてる。

 身体がてかってる。

 プロテインとか飲んでそう。

 殴られたら、すごく痛そう。

 ガチムチという言葉がまさにぴったり。


「ほーぉ。すごいなアレは」

「惚れ惚れするね」

「麦穂、小町さん、何見とれてるんですかっ!?」


 男四人組はスピードを上げて、俺たちとの距離を一気に詰めてくる。


「大丈夫ですっ! まかせてくださいっ!」


 俺たちの前に結渚ちゃんが進み、男四人組に向かってマジカルステッキを振る。


「えいっ!」


 マジカルステッキから光がほとばしり、光が男四人組を包み――

 あれ?


「えいっ! えいえいっ!」


 ……効かない。


「な、何でですかー!?」

「結渚ちゃん! 下がってっ! 危ないっ!」


 俺が声をかけたが遅かった。

 敵の男の一人が結渚ちゃんに駆け寄ると、そのまま結渚ちゃんを殴り飛ばした。


「っ!」


 声にならない悲鳴を上げて、結渚ちゃんが吹っ飛ぶ。


「結渚ちゃんっ!」


 結渚ちゃんの身体は宙を舞い、鈍い音をたてて床に崩れ落ちる。


「響平君っ! 結渚ちゃんの回復お願いっ! 麦穂ちゃんっ! ことりんちゃんっ!」


 小町さんは俺たちに指示を出すと、敵に向かって突っ込む。


「ええぇ! ことりんアレ無理ぃ!」


 悲鳴に近い叫び声をあげていることりんを無視し、俺は床に倒れ込んでいる結渚ちゃんに駆け寄った。


「結渚ちゃんっ!」

「ううっ……」

「すぐに回復するからっ!」


 結渚ちゃんのHPを見ると、102。

 結渚ちゃんの元々のHPが120だったから、あんまりダメージ受けてなくね?

 まだ回復しなくてもいいような。


「痛い……です……」


 苦しそうに結渚ちゃんがつぶやく。

 殴り飛ばされた痛みなのか、精神的ショックなのか。


「結渚ちゃん! あんまりダメージ受けてないからっ!」

「お兄ちゃんが回復してくれないなんて……。さっきあれだけ調教してあげたのに、まだあたしの手下になってないってことですか……」


 話し方は苦しそうだが、話の中身を聞くとけっこう余裕そうだ。


「立てる?」


 言いながら俺は結渚ちゃんの腕をつかみ、身体を起こす。


「まだ痛いですけど、HPは本当にあんまり減ってないですねー」


 不思議そうに結渚ちゃんがつぶやく。


「回復しなくても大丈夫だから、しばらく休んでな」


 俺は結渚ちゃんにそう告げると、敵の方を振り返った。

 HPに余裕のある結渚ちゃんを回復するよりも、敵を倒す方が先だ。

 敵一体を相手にしている麦穂。

 槍で敵二体と戦っている小町さん。

 敵一体と追いかけっこをして……というより、敵一体から逃げ回っていることりん。

 小町さんの敵を片方俺が引き受けようかと思ったけれど、こちらの戦力を考えると、まずは麦穂が戦っている敵を倒して、麦穂を自由にした方がいいかもしれない。


「お兄ちゃん、あたしも行きます」


 言いながら結渚ちゃんは立ち上がる。


「まだ痛いんじゃないの?」

「痛いですけど、あたしはこんなところで負けてられないんです」

「無理するところじゃないから」

「大丈夫です」


 何がこの子をそこまで駆り立てるんだろう。

 俺は疑問に思ったが、結渚ちゃんの気持ちを汲み取ることにした。


「結渚ちゃん、走れる?」

「もちろんです!」

「じゃ、麦穂と戦ってる敵をまず倒すから、あいつそのステッキでぶん殴って」

「分かりましたー!」


 俺と結渚ちゃんは一斉に、麦穂と戦っている一体に向かって走る。

 俺の走る速さに結渚ちゃんがついてこれるか心配だったが、素早さのステータスが同じだからか、俺と結渚ちゃんの走るスピードがあまり変わらない。

 何か、すごく情けない……。


「覚悟ーっ!」


 叫びながら、結渚ちゃんがマジカルステッキを振り上げる。

 結渚ちゃんがマジカルステッキで敵の頭をぶん殴るのと、俺がメスを構え、走る勢いにまかせて敵の背中に突き刺すのは、ほぼ同時だった。

 敵のHPのゲージが一気に減り、敵はモザイクのような残像を残して消える。


「麦穂! 小町さんの方!」

「分かった!」


 小町さんは、明らかに苦戦していた。

 小町さんは、相手に間合いを詰められないように距離を一定に保ちながら、槍のリーチを生かして攻撃を仕掛ける。

 しかし、槍が深く敵に刺さらないため、大きなダメージを与えられないようだった。


「はっ!」


 掛け声とともに、敵に駆け寄った麦穂が両手に構えた剣を一閃する。

 麦穂に攻撃を受けた敵のHPのゲージが一気に減る。

 あと少し。

 俺は手にメスを握りなおし、敵に向かって走る。

 だが。


「とりゃー!」


 俺より結渚ちゃんの方が速かった。

 結渚ちゃんはマジカルステッキで敵をぶん殴り、二体目を倒す。

 ……また、俺の手柄が……。

 小町さんは自分の相手が一体だけになったのを確認すると、一気に敵との間合いを詰め、スピードを生かして槍で深く敵を突き刺した。

 槍で貫かれた敵は、モザイクのような残像を残して、その姿を消す。

 あと一体。

 俺はことりんの方を振り返る。


「はっ!」


 俺が振り返ると同時に、麦穂が最後の一体を一刀両断にしていた。


「はあぁぁぁ。疲れたぁぁぁ」


 逃げ回るのに疲れたみたいで、ことりんはその場にへたり込む。

 さすがに小町さんも疲れたみたいで、槍にもたれかかっていた。

 元気なのは、麦穂くらい。

 ……あと、一応俺も。


「小町さん、今のうちに回復しませんか?」

「そうだね。響平君、お願いできる?」

「手術っ!」


 すごくかっこ悪い掛け声をあげながら、俺は小町さんに向かってメスを振った。

 小町さんのHPのゲージが上がっていく。


「響平君、これ多分、響平君のHPが1減るごとに、わたしのHPが10回復するみたい」

「思ったより回復しますね」


 俺は小町さんのHPを全回復させると、麦穂とことりんと結渚ちゃんのHPも回復させる。

 もちろん「手術!」とかいうかっこ悪い掛け声をかけながら。


「響平、お前のその掛け声何とかならんのか。気が抜ける」

「仕方ないだろ。俺だって恥ずかしいの我慢してやってるんだし」

「ことりんもぉ、熱い言葉ってぇ、けっこう恥ずかしいしぃ。氷使いにすばよかったなぁ」

「小町お姉さまー、氷使いって、どんな掛け声になるんですかー?」

「うーん……。クールな言葉になるのかな?」

「ことりんにぴったりぃ」

「お前の残念なおつむだと無理だろう」

「脳みそ筋肉の麦穂じゃもっと無理だと思うけどぉ」

「小町お姉さまー、クールな言葉ってどんなのですかー?」

「え……っと……。気持ち悪いから近寄らないでくれる? とか、鏡見てからしゃべってくれる? とか、こんな当たり前のこともできないの? とか……かな?」


 待て待て。

 いろいろおかしい。

 俺は小町さんにツッコミを入れる。


「小町さん、それってクールな言葉じゃなくて冷たい言葉じゃ……」

「いつもみんながお兄ちゃんに言ってるような言葉ですかー?」

「おい」


 俺たちは、大広間から外へと通じる扉へと向かう。

 扉は半分開いており、扉の向こうに広がる城の庭には敵が蠢いていた。

 俺たちは扉の陰からその様子をうかがった。


「小町さん、どうします? 俺たちそんなに戦力ないんで、囲まれたらキツイですよ」

「そうだよね。一組ずつおびき寄せれたら何とかなるかもしれないんだけど」


 敵と言っても、様々なタイプの敵がいる。

 中世風の甲冑に身を包み、剣を手に持ったもの。

 ドラゴンっぽいもの。

 四つ足でライオンのような顔を持ち、背中に羽の生えたもの。

 見た目で判断すると、今までのダチョウっぽい鳥やおっさん四人組、KO4、マッチョ四人組は、弱い部類の敵だったのかもしれない。


「何であいつらはこっちに来ないんだ?」


 麦穂が当然の疑問を口にする。


「一斉に向かってこられると俺たちに勝ち目がないから、バランスとってるんじゃない?」

「そういうものなのか?」

「ゲームって一応クリアできるように作られてるから」


 麦穂はゲームの親切設計にイマイチ納得していない様子だった。

 主人公の出発点の周りには弱い敵しかいないことにも文句を言い出すタイプかもしれない。


「ことりんちゃん、火出せる?」


 小町さんがことりんに声をかける。


「火ですかぁ?」

「うん。向こうがこっちに気付く前に遠距離攻撃で敵のHPを削れたら戦いが楽になるから」

「やってみまぁす」


 ことりんは竹刀を構え、


「ことりんとぉ、キャラがぁ、かぶるのよぉ」


 まったく気合いの入っていない声で叫びながら竹刀を振り下ろす。

 竹刀の先からは火の粉が飛び、すぐに消える。


「琴奈、お前、さっきのは何だったんだ?」

「目の前に本気になれる相手がいないとダメなんじゃないですかー?」

「うーん……。想像力だけで補うってのは難しいかな」

「だってぇ、ことりんってぇ、普段からそんなにムカつくこともないしぃ」


 俺の知ってることりんは麦穂と結渚ちゃんにムカついてばかりいる気がするんですが。

 どちらにしろ、ことりん、火使い向いてないな。


「小町さん、どうします? 俺たちだと遠距離攻撃無理っぽいですし、外に出て一組ずつ戦い仕掛けます?」

「そうだね。今回は様子見だし、近いところから一組ずつ順番に行こっか?」


 俺たちは改めて、扉の陰から外の様子をうかがった。

 一番近いところにいるのは、甲冑に身を包み剣と盾を手にもった騎士、両手に銃を持った機械でできているっぽい敵、羽の生えた狼、巨大なタコのパーティー。


「小町さん、あれけっこう強そうですけど」

「でも、あれを避けて別の敵を倒しに行くのも、ね?」

「あれでいいんじゃないか、近くにいるし」

「ことりんはぁ、あの敵だと火出せないかもぉ」

「大丈夫ですよー。あたしが全部豚さんにしますからー」


 豚にすると言われても。


「あれさ、結渚ちゃんの攻撃通じないんじゃない?」

「何でですかー、お兄ちゃんー!? あたしの魅力が通じないとでも言うんですかー!?」

「いや、だってあれさ、人間の心持ってなさそうだし」

「確かに響平君の言うとおり、厳しいかもね」

「むー……。あたしの魅力が通じないなんてー。お兄ちゃんを豚にしてストレス発散するしかないですー」

「やめて」


 火が出せそうにないことりん。

 攻撃が通じそうにない結渚ちゃん。

 攻撃力最弱の俺。

 不安を抱えながらも、俺たちは扉を出て一番近くにいる敵に戦いを挑むことにした。

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