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戦闘開始

 玉座のある部屋の外は、だだっ広い廊下になっていた。

 扉を出て廊下を真っ直ぐ進むと大きな階段があり、その階段を横からぐるっと回った階段の向こう側には、大きな窓がある。

 窓の向こうはテラスになっているようで、窓から外に出られそうだった。

 俺たちは階段の横を通り、ひとまず窓へと向かう。


「うーん……。こうやって見ると、ちょっと数が多すぎるかな……」


 窓から外を見ながら、小町さんがつぶやく。


「えぇぇ!? あれ全部倒すのぉ?」

「これはけっこう手こずるぞ」


 どんな敵がいるのか、子豚の姿の俺からは見えない。


「結渚ちゃん、豚さん元に戻してくれる? 回復役がいないとやっぱり無理そうだから」

「しょうがないですねー。えいっ!」


 言いながら結渚ちゃんは、俺に向かってマジカルステッキを振る。

 ステッキの先から光がほとばしり、俺の身体を包み、俺の身体が人間の姿へと戻っていく。

 元に戻ってしまえばこっちのものだ。

 この子には教育が必要だ。


「結ー渚ーちゃーんー?」


 俺は拳を握り、結渚ちゃんに迫る。


「お兄ちゃん、また豚にされたいですかー? あたしに踏まれたいですかー?」

「…………。冗談です。ごめんなさい」


 教育は諦めた。

 魔法少女、強い。

 気を取り直して、俺も窓から外を眺めた。

 鎧を着て剣を手に持った敵、モンスターみたいな外見の敵、魔法使いっぽい外見の敵など、いろいろな種類の敵がたくさんいる。

 これ全部倒すのか。


「あ、そういえば」


 思い出したように俺は口を開いた。


「今回、ヤバイかも」

「何がだ、響平?」

「さっき結渚ちゃんに踏まれてたときさ、けっこう痛かったんだよ」

「? そんなの当たり前じゃないのか?」

「いや、今までのゲームってさ、ボールになってバットで殴られても痛くなかっただろ? でもさ、今回けっこう痛かったんだよ」


 小町さんが困ったような表情を浮かべる。


「ある程度の痛みは覚悟しておいた方がいいってことかな?」

「えぇぇ!? ことりん無理ぃ」


 早速ことりんが音を上げる。


「何だ、お前。根性ないな」

「脳みそ筋肉のぉ、麦穂と一緒にしないでぇ」

「残念なおつむのお前には言われたくないがな」


 こんな時でもこの二人は対立するのを忘れないらしい。

 けれど、今はそれどころじゃなかった。

 慌てて俺は止めに入る。


「ストップ! もめてる場合じゃないから!」

「何だ、響平邪魔するな」

「ことりんもぉ、そろそろ決着つけなきゃかなぁって思ってたのぉ」

「そうじゃなくて! そこ!」


 俺は言いながら窓の外を指差した。

 そこには、巨大な鳥が四羽並んでいた。

 鳥の身長は1mくらいだろうか。

 ダチョウが空を飛べたらあんな感じかもしれない。


「いつの間にっ?」


 慌てた口調で麦穂がつぶやく。

 お前らがもめてるときだ、なんてツッコミを入れている暇もない。


「やだぁ、あれぇ。キモぉい」


 そりゃそうだ。

 俺だって正直、キモいと思う。


「みんな、戦う用意いい?」


 小町さんに言われ、みんな緊張した面持ちで戦闘態勢をとる。

 小町さんは槍をかまえ、麦穂は剣をかまえ、ことりんは竹刀をかまえ、結渚ちゃんはマジカルステッキをかまえ、俺はメスをかまえた。

 ……この小さなメスで、どうやってあのでかい鳥と戦うんだろう……。


「窓、開けるよっ!?」


 言いながら小町さんが窓を足で蹴って開けた。

 小町さんを先頭に、俺たちは一斉に窓からテラスに向けて飛び出す。

 巨大な鳥も、四羽一斉にこちらに向かって突進してきた。

 相手のスピードを利用して、小町さんが槍を鳥の胸に突き刺す。

 一瞬、モザイクみたいな鳥の残骸が残った後、鳥はその姿を消した。

 続いて麦穂が、剣を両手で持ち、勢いよく鳥に向かって振り下ろす。

 こちらも一瞬、モザイクみたいな鳥の残骸が残った後、きれいさっぱり鳥の姿が消えた。

 二人とも一撃でモンスターを倒せるらしい。

 攻撃力がハンパない。


「いやぁ! こないでぇ! こっちこないでぇ!」


 悲鳴を上げながらことりんが竹刀を振り回すが、竹刀から火が出ることはなく、ことりんがどんどんテラスの隅に追い詰められていく。


「えいっ! えいっ! 何でこの鳥は豚にならないんですかーっ!?」


 結渚ちゃんもマジカルステッキを振り回すが、鳥には結渚ちゃんの魅力がまったく通じないようで、結渚ちゃんもテラスの隅に追い詰められていく。

 これはどっちか助けに行かねば。

 俺はひとまず近い方にいる結渚ちゃんを助けに向かう。

 メスを手でしっかりと握り、鳥に向かって走り、鳥のお腹にメスを突き刺そうとしたその時。

 鳥の姿が一瞬モザイクみたいになって、消えた。


「遅いぞ、響平」


 俺より先に麦穂が鳥を一刀両断したようだった。


「おま……。俺の見せ場を……」

「麦穂お姉さまー。ありがとうございますー。愛してますー」


 言いながら結渚ちゃんは麦穂に抱きつく。

 かっこいいところを見せておけば、この子も俺になめた態度はとらないだろうと思ったのに。

 まぁいい。

 ならば、ことりんを助けに行くまで。

 そう思いことりんの方を振り向くが、そこには既に鳥の姿はなく、小町さんに慰められていることりんの姿があるだけだった。


 ……何か寂しい……。


「ことりんちゃん、火って出せない?」


 ことりんを慰めながら小町さんが問いかける。


「竹刀振ってみたんだけどぉ、出ないんですよぉ」

「シフォンさんは熱い言葉を叫びながら竹刀振るって言ってたけど、難しいかな?」

「熱い言葉ってぇ、どんなのですかぁ?」

「うーん……。麦穂ちゃん、熱い言葉って何か分かる?」

「『根性で何とかしろっ!』とか『ゲロ吐くまで走れっ!』とか?」

「ことりん、そんなの無理ぃ」

「試しに一回、ね?」


 小町さんに言われて、ことりんがしぶしぶ竹刀を振る。


「根性でぇ、なんとかぁしろぉ」


 ボッ。


 竹刀の先からマッチの火よりも小さな火が飛ぶ。

 火というより、火の粉。

 竹刀から放たれた火の粉は一瞬で消える。


「…………。ダメージ与えるのは難しいかな」

「気合が足りんのだ、お前は」

「麦穂みたいなぁ、脳みそ筋肉と一緒にしないでぇ」


 ことりんはがっくり肩を落とす。

 ことりんの攻撃は諦めた方がよさそうだった。

 敵のパーティーを一組倒した俺たちは、テラスから城内へと戻った。

 俺たちはそのまま階段へと向かう。

 階段を降りようとすると、下から足音が聞こえた。


「敵だな」


 麦穂がつぶやくのを聞いて、再び緊張が走る。

 しかし、階段から姿を現した敵を見て、その緊張が悲鳴に変わった。


「来るな! こっち来るな!」

「イヤですー!」

「うぅ……ひっく……ひっく……」

「♪ふん~ふーん~ふん~」


 みんなのトラウマを一瞬で呼び起こしたもの、それは。

 最初の落ちゲーのおっさん四人組だった。

 おっさんたちは相変わらず小太りの裸を誇示し、パンツ一丁という姿で、俺たちに向かって一歩ずつ階段を上ってきていた。


「ちょ! みんな、落ち着けって! 復讐するチャンスだから!」


 そんな俺の言葉は、誰の耳にも届かない。


「あっち行けっ!」

「キモいですー!」

「……ひっく……」

「♪ふん~ふーん~ふん~」


 みんな戦える状態じゃなさそうだった。

 俺一人で戦うか?

 でも、俺の手にあるのはメスだけだ。

 これでおっさん四人と戦うとか、無理ゲーだろ。


「結渚ちゃん! 結渚ちゃんっ!」


 俺は結渚ちゃんの肩を揺すりながら呼びかけた。


「あのおっさんたち豚にしろ! そうすれば勝てるから!」

「ぶ、豚さんですかー?」

「そう! 豚にすれば普通に戦えるから!」


 俺の言葉を聞き、結渚ちゃんがマジカルステッキを構える。

 しかし。


「イヤですー! あのおじさんたち見たくないですー!」


 泣きそうな声で結渚ちゃんはおっさんたちから目を逸らす。


「俺が目隠ししてるから!」


 言いながら俺は結渚ちゃんの後ろに回り、両手で結渚ちゃんの両目を隠す。


「真っ直ぐ杖振ればいいから! 振って!」

「キモいですー! 豚になってくださーい!」


 叫びながら、結渚ちゃんはマジカルステッキを振り回す。

 杖の先からいくつもの光がほとばしり、おっさんたちを襲う。

 光に包まれたおっさんたちは、次々と豚になっていく。


「ぶひっ!?」


 …………。

 俺まで豚になってる……。


「豚になってくださーい! どっか行ってくださーい!」


 なおも結渚ちゃんはマジカルステッキを振りながら暴れる。


「ぶひーっ!」


 そんな結渚ちゃんに蹴っ飛ばされ、俺は豚になった四匹のおっさんたちの群れに突っ込んだ。

 ……痛い。


「結渚っ! よくやった!」


 おっさんたちが豚になったのを見て、麦穂が剣を構える。


「ちょっと待って! 増えてる!」


 正気に戻った小町さんが、俺を含む豚の群れを見て叫んだ。


「本当だぁ。五匹いるぅ」

「何でだ?」

「大変ですー。お兄ちゃんがいなくなってますー」

「…………」

「…………」

「…………」

「……ぶひっ……」


 四人は階段を一段ずつ下りて、俺を含む豚の群れに近づいてきた。


「ぶひっ! ぶひっ!」


 俺はみんなに自分の存在をアピールするが、豚語のせいでやはり意思疎通ができない。


「全部殺すか?」

「どれか響平か分かんないしねぇ」


 やめて。


「響平君? いたら返事して? ね?」

「ぶひっ!」


 俺は小町さんの言葉に返事を返す。

 だが。


「ぶひぶひっ!」

「ぶひーっ!」

「ぶひひひっ!」

「ぶっひー!」


 豚になったおっさんたちも豚語で叫び出したので、どれが俺なのかがみんなに伝わらない。


「全部ぶひぶひ言ってるぞ」

「見た目だけはぁ、豚のぬいぐるみみたいでかわいいのにぃ」

「うーん。困ったね……」

「大丈夫ですっ!」


 みんなの困惑をよそに、結渚ちゃんが元気よく声を上げ、階段を下りて俺たち豚五匹に近づくと、俺たちの前に足を差し出した。


「お兄ちゃん、あたしの足を舐めてくださいっ! 本物のお兄ちゃんならあたしの手下だから喜んで舐めるはずですっ!」


 おいっ!


「ぶひーっ!」

「ぶひひひっ!」


 しかし、何故かおっさんの豚二匹が、結渚ちゃんの足にすり寄って行く。


「大変ですっ! お兄ちゃんが増えましたっ!」


 そんなわけねーだろぉっ!


「それってぇ、二匹とも違うんじゃないのぉ?」


 言いながら、今度はことりんが俺たち豚に近づいて足を差し出す。


「響平、本物だったらことりんの足舐めるでしょぉ?」


 お前もかよっ!

 何で張り合ってるんだよっ!


「ぶひぶひっ!」

「ぶっひー!」


 しかし、何故か残る二匹のおっさんの豚が、ことりんの足にすり寄って行く。


「二匹来ちゃったぁ。どっちだろぉ?」

「あたしの方に来た豚さんに決まってるじゃないですかー」

「ことりんの方に来たのに決まってるでしょぉ?」


 どっちでもねーよ!

 そんな俺のツッコミは、


「ぶひぶひっ! ぶひっ!」


 やはり豚語にしかならない。


「うーん……」


 今度は小町さんが、俺たち豚を一匹ずつ見定めていく。


「うん、これだっ!」


 小町さんは俺を指差しながら言った。

 すげー、小町さん。


「小町お姉さま、どうして分かるんですかー?」

「ステータスのゲージと数値出てるから。この数字、響平君のだよ」

「確かに、この豚だけやたら弱いような」


 豚の上に表示されている数字を見比べながら麦穂が言う。

 弱い言うな。

 ってゆーか小町さん、もっと早く気付いてください。


「えぇ!? 響平、ことりんのところ来なかったってことぉ?」

「そっち行くわけないじゃないですかー」

「結渚の方にも行ってないでしょぉ?」

「むー……。罰として、お兄ちゃんは元に戻してあげません」

「ぶひっ!?」

「戻さなくていいよぉ。ことりんのペットにするからぁ」

「ぶひひっ!?」

「何なんですかー? ことりんお姉さまはお兄ちゃんのことが好きなんですかー?」

「そんなわけないでしょぉ? 豚のぬいぐるみがかわいいから欲しいだけだしぃ。人間に戻るんだったら結渚にあげるからぁ」

「ぶ、ぶひっ!?」

「むー。何か悔しいからお兄ちゃん、元に戻してあげますー」


 言いながら結渚ちゃんが足で俺のお腹を踏む。

 ぐりぐり。

 だから、痛いってば。


「今回だけですよー。えぃっ!」


 結渚ちゃんがマジカルステッキを振り、結渚ちゃんの足にお腹を踏まれたまま俺は、人間の姿に戻った。

 ぐりぐり。

 まだ結渚ちゃんは俺のお腹を足で踏み続けていた。

 この子には教育が必要だ。


「結ー渚ーちゃーんー?」


 俺は結渚ちゃんに踏まれたまま、拳を握り締める。


「お兄ちゃん、そんなに豚になりたいですかー?」

「結渚ぁ、いいよぉ、豚にしちゃってぇ」

「……やめてください……。足どけてください……」


 教育は諦めた。

 魔法少女、強い。

 結渚ちゃんに足をどけてもらい、俺は起き上がる。

 起き上がると、ちょうど麦穂と小町さんが四匹の豚を倒したところだった。


「何とか二組目、倒せたね?」

「他のもこのくらいの強さだったら何とかなるんだが」


 俺は自分のHPを確認した。

 俺のHPは75まで減っていた。

 敵にやられる前に、結渚ちゃんにやられそうだ。

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