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玉座を守れ

 部屋のドアを抜けて飛ばされたのは、玉座の前だった。

 その玉座には、誰も座っていない。

 俺は周囲をぐるっと見回した。

 だだっ広い室内に大きな扉があり、その扉から玉座まで、豪華な絨毯が敷かれていている。

 俺たちは今、その絨毯の上の、玉座の前に立っていた。

 どうやら中世風のお城の中の、王の間にでもいるようだった。


「皆様には、玉座を守っていただきます」


 事務的な口調でシフォンさんが話す。


「このお城に、四人一組のパーティーが10組攻めてまいります。10組のパーティーをすべて倒し、玉座を守りきったらゲームクリアとなります。玉座を制圧されたり全滅したりした場合は皆様の負けになります」


 おおっ!

 やっとそれっぽいゲームがきた!

 今まで落ちゲーとか野球とかやらされてきたのに、今回はすごくマトモだ。


「ゲームを始める前に、皆様にはジョブを選んでいただきます。選んだジョブはゲーム中は変更できませんので、ご了承ください」

「おい、響平」

「ん?」

「ジョブって何だ?」

「ゲーム中の職業のことで、戦士とか魔法使いとかそういうの」


 と言ったところで、俺ははたと気付いた。

 さっきの野球ゲームでは、プレイヤーじゃなくてボールとバットをやらされた。

 もしかしたら変なジョブばっかりかもしれない。

 確認しておかねば。


「シフォンさん、ジョブってどんなのが選べるんですか?」

「こちらでございます」


 シフォンさんが右手を上げると、手の上にスクリーンが現れ、ジョブの一覧が表示される。

 表示されているのは「剣使い、槍使い、弓使い、肉体派、火使い、氷使い、癒し系、魔法少女、人形使い、料理人、ピザ屋、芸人」。


 案の定、途中から何かがおかしい。


「どれにすればいいんですかー?」

「お好きなものを選んでいただけます」

「じゃー、あたしは魔法少女がいいですー」

「ことりんもぉ、この中なら魔法少女がいいなぁ」

「魔法少女を名乗れるのは14歳までですよー。おばさんは無理ですー」

「結渚はぁ、芸人なんかいいんじゃないのぉ? 一発芸でもやってればぁ?」

「ことりんおばさんは、料理人がいいんじゃないですかー? 毒料理作って敵に食べさせたり、鍋爆発させてダメージ与えたりするのが向いてますよー」

「結渚はお子様だから人形使いにでもなって、人形遊びでもしてるのがいいんじゃないか?」

「お、おこっ……。む、麦穂おばさんは見るからに肉体派ですねー」

「えへへぇ」

「はははは」

「えへへへー」


 まーた、始まったよ、こいつらは。

 仕方なく俺はゲーム攻略に向けて話を進める。


「あのさ、五人で戦うわけだから、もうちょっとバランス考えないと」

「物理攻撃とか魔法攻撃とか、近距離攻撃、遠距離攻撃、回復役とか、いろいろ組み合わせないと。ね?」

「あれ? 小町さん詳しいですね」

「え? あぁ、えっと……、わたしもちょっとはこういうゲームやったことあるから、ね?」


 俺はジョブ一覧を見て分類した。

 物理攻撃で近距離攻撃が剣使いと槍使いと肉体派。

 物理攻撃の遠距離攻撃が弓使い。

 魔法攻撃は火使いと氷使いと魔法少女だろう。

 癒し系は回復役だろうか。

 人形使いと料理人とピザ屋と芸人はよく分からないから選ばない方が無難だろう。

 ロクなことになりそうにないし。


「小町さん、バランス考えたら近距離の物理攻撃が2人、遠距離攻撃が2人、回復役が1人ってくらいですかね?」

「MPって回復できるのかな? 回復できないなら回復役増やした方がいいかも」

「あぁ、どうなんでしょうね?」


 回復できるのは回復役だけでアイテムとかないんだろうか。

 敵の強さが分からないが、回復役のMPが切れて回復できなくなったら負けそうだ。

 その前に、ジョブごとの初期値はどうなってるんだろう。

 レベルアップとかあるんだろうか。

 システムをちゃんと把握しておかないと苦戦するかもしれない。

 始まる前に聞いておかないと。


「シフォンさん、ジョブの初期値って表示できますか?」

「初期値ですか?」

「HPとか、MPとか、攻撃力とか、そういうのです」

「そういったものはございません」

「「え!?」」


 俺と小町さんの声がハモる。


「皆様の元の世界の状態に合わせて、ステータスが決まります」


 ジョブの意味があんまりなくね?


「……ちなみに、俺たちのステータスはどんな感じですか?」


 嫌な予感がするが、仕方がないから聞いてみた。


「こちらになります」


 俺たちの身体の上にゲージと数字が表示される。


 響平      HP 100  攻撃力  50  防御力  50  素早さ  50

 麦穂      HP 300  攻撃力 200  防御力 150  素早さ 150

 ことりん    HP 150  攻撃力 100  防御力 100  素早さ  80

 結渚ちゃん  HP 120  攻撃力  50  防御力 120  素早さ  50

 小町さん    HP 200  攻撃力 150  防御力 120  素早さ  80


 ちょっと待て。


「俺、これ弱すぎじゃないですかっ!?」

「皆様の元の世界の状態に合わせておりますので」

「いや、でも、俺がことりんとか結渚ちゃんとかより数値低いっておかしくないですかっ!?」

「皆様の元の世界の状態に合わせておりますので」

「…………」


 おかしい。

 絶対におかしい。

 ぽん。

 落ち込む俺の肩に誰かが手をかける。

 振り向くと、麦穂だった。

 麦穂は伏し目がちに俺を見ると、静かに首を振って口を開いた。


「人間何か一つは取り得があるからな」

「おいっ! 慰めるなっ!」

「響平ってぇ、どんな人生送ってたらこうなるのぉ?」

「お兄ちゃん、役に立ちそうにないですねー」

「響平君、どんな人にも生まれてきた意味はきっとあるから! ね?」

「やめて」


 何だこれ、マジで。

 落ち込む俺を無視して小町さんがシフォンさんに質問する。


「シフォンさん、MPはどうなるんですか?」

「MPはございません」

「え? ないんですか?」

「今回はシステムの都合上、HPと合体しております」

「魔法使うとHPが減るってことですか?」

「はい、そうです」

「HPは回復役以外に回復させる方法はあるんですか?」

「回復アイテムを一人一つご用意しております。こちらです」


 シフォンさんが左手を掲げると、手の上にガラス球が現れる。


「この石を高く掲げると、使った人のHPが回復いたします。また、このアイテムは人に向けて掲げると、掲げられた人のHPを回復させることもできます。こういったアイテムは、敵から奪って補充することもできます」


 ガラス球かと思ったのに、石なのか、それは。

 シフォンさんの答えを聞いて、小町さんは少し考え込んでいるようだった。

 その小町さんにことりんが問いかける。


「でぇ、どうするんですかぁ? 一人使えないのいますしぃ」

「四人で戦うとなると、ジョブの割り振りが大変じゃないか?」

「困りましたねー。役に立たない人がいるとー」

「もうやめて」


 ゲームが始まる前からすでに俺は涙目だった。

 異世界に来て「ヒャッハー! 俺Tueeeeeーー!!」と言いながら敵を倒しまくるはずだったのに、どうしてこうなる。


「麦穂ちゃんとわたしがHPと防御力が高いから、麦穂ちゃんとわたしが近距離攻撃にまわって、ことりんちゃんと結渚ちゃんが遠距離攻撃か魔法攻撃にしようと思うんだけど、それでいいかな?」

「私はそれでいいです」

「ことりんはぁ、魔法攻撃だったら魔法少女がいいなぁ」

「ことりんおばさん、さっきから言ってるように魔法少女が許されるのは14歳までですよー」

「あ……あの……」


 俺はおずおずと手を挙げる。


「お、俺は……」

「響平君は……えー……と……」

「……」

「……」

「……」

「誰か何か言えよおぉぉ!」

「何かって言われてもな」

「響平はぁ、ステータスが低すぎて使い道がねぇ……」

「いや! でも! 攻撃力低くても回復役とか!」

「お兄ちゃんはこんなこと言ってますけど、小町お姉さまどーなんですかー?」

「えーっと……、多分このゲームだと、攻撃力と魔法力が同じ扱いになってると思うから、回復役をやらせてもあんまり回復しそうにないし、その前にHPが低いからすぐに魔法使えなくなっちゃうと思うし、え……っと……」

「響平、ピザ屋でもやれ」

「何でだよ!?」

「どーせならぁ、芸人のがいいんじゃなぁぃ?」

「もうちょっとあるだろ! 普通のが!」

「攻撃力低い、防御力低い、動きは遅い、HPが低くてすぐ死ぬ、こんなのどこで使うんですかー?」


 うう……。

 言い返せない。


「だ、大丈夫だから、響平君。どんな人にもきっと天職ってあるから。ね?」


 小町さんが慰めてくれる。

 この人はきっと、闇落ちさえしなければ優しい。


「だから、ピザ屋さんとかどうかな? ね?」

「……お願いします、もうちょっとマトモなのに……。精一杯働きますので……」


 こうして、麦穂が剣使い、小町さんが槍使い、ことりんが火使い、結渚ちゃんが魔法少女、俺は必死に頼み込んだおかげで癒し系になった。

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