旅立ち
シーンの都合上、短め。ご了承ください。
翌日、木賃宿を出た二人は門扉の前にいた。
二人の背中には、大きなリュックがどっしりとのしかかっていた。
ジハンは、それを軽々と背負うが、キーシャはリュックに今にも押しつぶされてしまいそうなほど心もとない。
今朝の早いうちに、市場を訪れ当面の食糧は調達しておいた。
商人の中には、声をかけることはなくてもジハンのことを見知った者も多い。
彼が突然、髪を整え無精ひげを剃り、ボロと変わらぬ衣装を、安いといえども見るに堪える服装に買えたのだから、彼らの驚きは想像に難くない。
しかも、彼の隣には見慣れぬ少女。
真っ黒な修道着に身を通したシスター然りとした格好。
一瞬、町の人びとはジハンがよからぬ所業に手を出したかと、頭を抱えたが、キーシャの楽しそうな表情を見るとその考えを打ち消すしかなかった。
二人はそんな町の人びとの視線にまったく気づかずに、門の前で決意を新たにしていた。
「町を出ると、山を越えるまで野宿暮らしだ。耐えられるか?」
試すような眼差しをたたえ、ジハンは問うた。
「ここまで来るのにも、数夜経験してきました」
ジハンの視線を勝気な瞳で見返して、さらにキーシャは「大丈夫です」と返した。
肝の据わった娘だ。
ジハンは感心した面持ちでキーシャを見直す。
体の線は細く、山越えをするにはあまりに頼りない。
しかし、なぜかそれほど大きな心配をできないでいるのは、彼女の意志の強さをジハンが知っているからであろうか。
そんなことを思いながらジハンは決意を新たにした。
彼女を守り通さなければならない。
大げさかもしれないが、じぶんがどこかの皇国のお姫様を守護する騎士になったつもりだった。
こんな粗末なヒロイズムは、彼の最も唾棄するものであったはずだが、不思議とそれが今は心地よい。
ジハンは久しぶりに守るべきものの強さを思い出していた。
今度こそは。
そう思い、両手を天に伸ばし大きな欠伸をする。そしてキーシャを見て言った。
「よし、行くか」
「はい!」
二人は、ゆっくりと門をくぐり平原へと歩み出していった。




