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8ミリメートル

作者: 彩音
掲載日:2012/11/19

この話はスキマスイッチの曲「Aアングル」「Bアングル」「8ミリメートル」の世界観を元に書きました。

曲を知っている方も、知らない方も楽しんで頂ければ幸いです。

8ミリメートル



「Aアングル」





「あれっ?これ、捨ててなかったんだ。」



あたしは、押入れの掃除をしていたら、中にとても懐かしい物を見つけた。



元カレの私物で、8ミリカメラのビデオテープだ。



8ミリ映画に惹かれ、買ったと言っていた8ミリカメラ。



付き合ってから、最初のデートの時に回していた時は、

恥ずかしくてつい、怒ってしまったけど、いつからか、会う度に毎回撮っていたっけ。



あたしも撮った奴見たいと言い出して、彼に無理言って、映写機買って貰って。

こっそり彼のカメラを拝借して撮った彼の寝顔コレクションとかよくこれで見ていたなぁ、

と懐かしい気持ちになる。



―――それから、確か、「未来の自分へ」というタイトルの結婚式用のメッセージも撮った。




あたしは、彼に貰った映写機をセットして、テープの一つを回してみる。




「未来の自分へ。」



そこには、いつになく、真剣な顔をした彼が映っていた。



「懐かしいなー。カズ、元気なのかなー。」





映像を見ながら、あいつのことを思い出す。





情けないし、優柔不断だし、弱虫だけど・・・優しい奴。






―――別れる時に、この世の終わりかってくらいメソメソ泣いていたけど、元気なのかなぁ?





・・・あいつのことだから、まだあたしのこと、引きずっていなきゃいいけど。




「こんばんはー。」



あ、いけない。彼が来た。



あたしは、慌てて、映写機を止めて、

映写機と、ビデオテープを押し入れに突っ込んで、彼を出迎えに行く。



「いらっしゃーい。散らかっているけど、どうぞ。」



彼は、会社の先輩で、とても頼もしくて、優しい人だ。




―――あたし達は、来年の六月に結婚することになっている。




「美和子、なにしていたの?」



「掃除。」



彼が、そっか、と笑って、あたしも笑う。




二人を包む空気が柔らかくなり、心が暖かくなる。



「夕飯、何がいい?」



「うーん、カレーかな。」




ありきたりだけど、幸せな毎日。





今の恋が、この幸せがあるのは、あの時のおかげ。




たぶん、あの恋がなければ、この恋に出会えなかったから。






―――カズ、ありがとう。あたしは今、幸せだよ。あなたも幸せになってね。







あたしは、あの頃の自分と、元カレに、心の中で、感謝の気持ちを呟いた。

---------------------------


「Bアングル」



転勤が決まった。


社会人をして三年目。まあ、転勤だの、異動だのが多い時期だ。



だから、僕は、今、引っ越しの為の荷作りをしている。



この部屋は、あの日から時間が止まっていて、捨てなければいけないものも多い。

むしろ、捨てるべきなものばっかりなのだが、

その一つ一つに、思い出が詰まっていて、なかなか荷作りが進まない。




それでも、なんとか、ほとんど部屋を片付けて、あとは、あの押入れだけとなった。





―――あの押入れには、僕の大切なものが入っている。




軽く深呼吸をして、押入れのドアを開ける。



ホコリが少し舞い、押入れの中には、8ミリ幅のフィルムカメラと、

古い缶ケースの中に整理されたビデオカメラがあった。




この8ミリカメラは、僕の大学時代の趣味だったものだ。



今は、パソコンが発達して、8ミリフィルムは衰退してしまったけれど、8ミリは8ミリの良さがある。

大学時代、8ミリ映画の良さに惹かれ、中古のカメラショップを回って、やっと買った8ミリカメラ。




あの頃は、とにかく8ミリカメラ撮ることが楽しくてしょうがなかった。





僕のお気に入りの被写体は、当時付き合っていた彼女。




最初のデートの日、買ったばっかりの8ミリカメラを回した時は、「何で撮ってんの!?」って怒られたりした。




だけど、いつの間にか、会う度に8ミリカメラを回して、彼女を追いかけていた。




このビデオテープには、彼女の笑顔や、拗ねた顔、照れた顔、不安げな顔・・・

3年と8ヶ月分の彼女の表情や仕草が詰まっている。




僕は、ビデオテープの入った缶ケースの中を探す。




―――確か、あのテープがここにあったはず。




「あった。」



僕が見つけたそのテープには、ラベルに彼女の丸い文字で「未来の自分へ」と書かれていた。



押入れの中から映写機と、スクリーンを出し、僕はそのテープを回した。





スクリーンに真剣な顔の彼女が映し出される。




「未来の自分へ。

今、あたしは、幸せですか?

たぶん、人生で一番幸せな時を過ごしていると思います。」




そのテープは、未来の結婚式の時に流そうと思って撮ったものだ。




「・・・カズは、情けないし、優柔不断だし、弱虫だし・・・ホント頼りない奴です。

でも、すごく人の痛みが分かる人で、優しい奴です。」



映像の中の彼女は、いつになく、真剣な顔で話している。



「どうか、これからもカズを宜しくお願いします。」




あの時は、彼女が隣にいることが幸せで、毎日が充実していた。





将来は、一緒になるのだと信じて、未来の二人へと届くはずのメッセージまで作って。





だけど、それは、届かなかった――――。





この日を境に、小さなすれ違いが多くなり・・・僕の恋は、終わりを告げることになる。





ー――このテープが使われるようなことは永久にない。





僕たちの人生は、あの日を境に別れてしまったのだから。





―――視界が歪み、涙が溢れてくる。




あの日から、もう三年が経とうとしている。



だけど、この胸の痛みは、まだ、残っている。





―――捨てたくない。




この彼女との思い出も、一緒に過ごしたこの部屋も、このビデオテープも。





―――まだ、終わらせたくない。




「終わり」だとは、分かっている。



あの日で僕たちの道ははっきりと別れてしまった。

いつまでも、この恋にしがみついているワケにはいかない。




もう、三年。こんなに時間が経ってしまっている。

この街からも、もうすぐ去らなければいけない。




―――だけど、まだ。





みっともなくても、情けなくてもいい、まだ、この僕たちだけの世界を、捨ててしまいたくない。







―――だけど、現実というのは、非情なものだ。




僕がどんなに、過去に戻りたくても、戻れないし、この街も、もう発たなければいけないし、

引っ越し先は、この部屋より狭いから、このビデオテープは、持っていけない。




―――僕は、ビデオテープの中の彼女を目に焼き付けるように、見る。




彼女の表情を、仕草を、思い出を、すべて、この胸に押し込んだ。





ささやかだったけど、とても幸せだった3年と8ヶ月。



止まっていた僕の時間が、感情が、濁流のように流れ込んできて。




二度と戻らない時間。





もう会えない彼女。





今まで堰き止めていたものが、溢れ出てきて。





「美和子・・・」






気づいたら、僕は、彼女の名前を呼び、声を上げて泣いた。






END

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