Day-2 転校予定日・・・
キーンコーンカーンコーン
ここは学校の保健室。そこには、前話で銀行強盗と漫才をした少年
「クルス・ヴェール・イストリア」がベッドの上に横たわっていた。
「んあ?」
奇声を発して起きたクルスは、目覚めの解放感の次にやってきた、全身の痛みに苦悶の表情を浮かべる。
「痛っ・・・てぇ〜」
痛みで動けないことを悟り、ベッドに倒れる。倒れたときの痛みで再び苦しむ。
「なんでこんな痛いんだっけ・・・」
クルスは思考をめぐらせる。それは今朝のことだった。
朝。クルスは交差点で信号を待っていた。
今日の彼は制服を着ている。今日から転校してきた学校に通うことになる。
「眠ぃ〜」
虚ろなな目で呟く。クルスは夜行性なので、朝は弱い。
そんなクルスを尻目に、信号は青にかわる。
一斉に信号を渡る人達。普通なら、何に注意する事もなく渡りきる・・・はずだった。
「そこの車、止まりなさ〜い!つーかさっさと止まりやがれぇ〜!」
国家権力をもった組織に属する人間にあるまじき台詞を発しながら、パトカーのサイレンが聞こえてきた。
止まれ、と言うくらいだから追っているのだろう。警察に追われているのだから、それらしき事をしたのだろう車がこちらにむかってくる。青信号を渡っている、善良な市民の群れに。
「キャーッ!」
「危ない!」
車の進行方向にいる少女が叫んだのとクルスが飛び込んだのは、ほぼ同時。
「えっ!?」
「だぁっ!」
少女を抱き抱え、跳躍。だが、今のクルスには人を抱えて飛ぶほどのことはできない。避けるのが精一杯だった。
当然真横に飛び込むわけで、クルスは少女をかばうようにして倒れこむ。
「いでっ」
「キャッ」
一部始終をみていたギャラリーがクルスたちのまわりに集まる。
「えっと・・・大丈夫?」
「は、はい」
「無事みたいだな。よかった」
クルスは少女に笑顔をみせ、とっさに投げたカバンを拾いに行こうとすると・・・
「あ、危ない!」
「ん?何・・・ガハァッ!・・・」
轢かれた。
確かにクルスはおわれている車を避けることができた。が・・・
追っている車、つまりパトカーを避けられなかったのだ。
「大丈夫ですか!?」
少女がクルスの元へ駆け寄る。
だが、本来なら即死であろう勢いで轢かれたので、すでに意識は無くなっていた・・・
「あぁ、オレはあのパトカーに轢かれて・・・で、ここどこだ?あのあとどうなったんだ?」
見覚えのないベッド。音のない空間。そして、特有の匂い・・・
「・・・保健室?」
「正解!」
「あひゃぁっ!」
いきなり視界に入った(しかも近距離)女性に驚き、声にならない声をあげる。
「気が付いた?」
「気が付いたから会話してると思う」
「あら、そうね。おもしろいことを言うわね、あなた」
そこには、20代前半だろうか、白衣を着た若い女性がたっていた。
「おはよう。いい夢見れた?」
「あぁ。三途の川を渡る夢をみた」
「あらあら。頭に異常があるみたいね」
おどけた表情で微笑む。その姿はまるで天使のよう・・・なのだが、痛みに苦しむクルスには天使にいやされる余裕はない。
「ここは?」
「さっき保健室って言ったじゃない」
「違う。どこの保健室だときいたんだが」
「アルテミスの中でも屈指の高レベル校、『神無月学園』よ」
「あぁ、そっか。よりによって転校先か・・・っておい、なぜオレは病院ではなくここにつれてこられたんだ?」
「それは運んだ本人にきいて頂戴」
カルテに何かを書き込みながら答える。
そのとき・・・
「失礼しまーす」
どこか聞き覚えのある声が、保健室に響く。
「先生、どうですか?怪我の方は」
「それは本人に聞いたほうが一番わかると思うわ」
といって、ベッドのカーテンを開く。
そして・・・
「あれ?あんたは・・・」
「ど、どうも〜」
運命の再会。
「あんたは確か・・・律儀にも青信号をわたっている最中不幸にも車に轢かれそうになった不憫な少女・・・」
「妙に説明長いですっ!初対面っぽくないです!」
顔を膨らませて抗議する。
「コホン!えっと・・・私、『ヴァルハラ・イグドラシル』っていいます。ヴァルって呼んでください」
「ああ、自己紹介ね。俺はクルス。『クルス・ヴェール・イストリア』だ。クーって呼んで」
互いに名乗りあい、クルスは手を差し出す。握手のつもり・・・なのだが、ヴァルの反応は。
「セクハラですか?」
どこからそんな単語が出るのかはわからない。
だが、クルスも負けてはいない。
「先生。不審者を武力行使を持って排除していいか?」
「そうねぇ〜。でも校外に不審者を逃がしてはいけませんね。生け捕りならよろしい♪」
先生のノリもかなりの物だ。
「了解しました」
なにやらすごいオーラを出して起き上がるクルス。戦闘態勢。
「ちょ、ちょっと待ってください!ななな何ですか不審者って!誰のことですか!」
「君」
「たった漢字一文字で表現しないでください!」
「ん?じゃぁ・・・律儀にも青信号を・・・」
「話し戻ってます!」
ベッドから這い上がるクルス。完全に戦闘モードへ移行。
「投降します・・・」
「犯人確保。身柄拘束。署に連行しますか?」
「いいえ。その場で処理なさい」
「イエッサー」
身柄を拘束されたヴァル。貼り付けたような苦笑いがはがれない。
「処理って・・・なんですか?」
「うふふ。教育よ。一流の芸人に負けないように、ボケの特訓よ」
「何を張り合ってるんですか!?しかも私がですか!」
「他に誰がいるの?」
・・・つまり無茶振り♪
「話を戻そうか。で、ヴァルだっけ?なんであんたはここにオレを運んだ?」「気が向いた・・・から?」
「疑問形かよ!」
「そんな感じです」
適当・・・
「ふつう病院送んない?」
「まぁいいじゃないですか〜。ここの治療は最高ですから!」
「なんですとぉ!」
下手したら法に触れるであろう単語を聞き逃さずに、自分の体を確かめるクルス。
それに対し、笑顔でさらりと大胆発言をしたヴァル。
感じられるは、殺気。
「目標確認。距離約一.五メートル。攻撃開始まで残り5.4.3・・・」
「ま、待ってください!私はやってませんよ!先生がやったんです!」
「知っててここに運んだくせに何を言うか。カウント再開。3・・・」
「申し訳ございませんでした」
0.2秒で土下座の体制に入るヴァル。すばやい。特撮ヒーローの変身より早い。
「オレは帰るぞ。なんか妙に疲れた」
「そうですか?じゃぁ家まで送りますよ」
土下座に移るときよりも早くクルスの傍らへ。
「あんたがか?なんで?」
「それはあれですよ。怪我をさせてしまったからでアルヨ」
「何故に片言!?」
「ははっ。何ででしょう?」
クルリと回るヴァル。何かうれしそうだ。
「では、行きましょうか」
「あぁ。そうだな」
そして校門。
「じゃあな」
「はい・・・じゃなくて!!待ってくださいよー」
スタスタと先に行こうとするクルス。
あとを追うヴァル。
「大体、オレはバス通いなんだ。遠いぞ」
「もうちょっと待ってください。迎えがきますから」
「迎え?」
何を言ってるのかわからない表情のクルス。
だが、そこに・・・
ブロロロロロ・・・
「あ、来たみたいですー」
「何が?」
「お迎え、です♪」
聞こえてきたブロロが近づいてくる。
「お嬢様〜\(*≧∀≦)/」
「何で脇役が台詞に顔文字使えんの!?」
顔文字使いの乗ったブロロが、校庭に降りる。
「お待たせしましたお嬢様。お迎えに参りました/(`∧´)」
「だからなんで顔文字使えんの!?つーか携帯読者に迷惑だろ!?」
「では、お乗りください」
といって、先にブロロに乗り込むヴァル。
「ちょい待ち!このブロロって、もしかして・・・自家用?」
「もちろんです!ささ、乗ってください。私の屋敷に招待します」
「はひ?」
更新遅れてごめんなさい!作者の結謳です。
更新が遅れたのはPCの不調・・・なのですが、忙しくて直せずにいたのもあります。すいません。
さて、話の展開のことですが、次回でちゃんと転校できます。そして、クルスの過去が明らかになります。
もしよろしければ、意見・感想・指摘等を送っていただけたらうれしいです。
それでは、また次回。