Day-1 初めての人質
青い空。照りつける太陽。唸る銃声。
そう、ここは銀行。銀行強盗の真っ最中である。
「はぁ・・・なんで第一話冒頭から銀行強盗なんだよ・・・」
わずか三行目にしてため息をつく少年。
彼が「クルス・ヴェール・イストリア」
一応、この物語の主人公である。
「こっちに引越して来て四日目に銀行強盗・・・あぁ、ついてない」
彼はここ「アルテミス」に越してきてまだ日は浅い。
食糧確保のためにとりあえず銀行に預金をおろしにきたのが運の尽き。
「動くなぁ!手挙げろ〜!」
矛盾した決まり文句であっけなく人質になったのである。
基本的に面倒なことは嫌いなクルスは、強盗に逆らうことはしなかった。
「死にたくなければ大人しくしてろ〜!」
銀行強盗にマニュアルがあるかのように定番な台詞を並べる。心なしか棒読みだ。
「あんな短銃でどうしようっつぅんだよ」
クルスは特に怖くなかった。強盗の持つ銃を眺めている。
「オイコラ!てめぇ何見てやがる!」
「・・・げっ!展開早っ!」
銃口を向けゆっくりとクルスのほうへ歩いてくる。
「なんだ?お前も俺を馬鹿にするのか?この銃偽物だとでも思ってんのか?」
「違うのか?」
「・・・んぐっ・・・」
一瞬たじろいだ。この状態を言葉に表すならば。
「図星?」
「・・・えっ!あ、いやぁそのっ!」
男は後ずさりをする。クルスの言うとおりだったのだろうか。
「だったら・・・」
銃がないなら、と飛び掛ろうとするクルス。
「ちょっとストップ?」
「ミニストップ!あ・・・」
強盗にのせられてしまった自分が恥ずかしいクルス。動きが止まる。
動きが止まったことに、少し安心する男。
「銃は確かに作り物だ。ちなみに自作で制作予算は八万二千三百円だ!」
「自作!つか予算かよ!そして無駄に高額!」
さりげない自慢。そして無駄な自慢。
それに対する的確なツッコミ。反射神経は抜群である。
「半端な額である理由は俺の誕生日が八月二十三日だからだ」
「そんな理由で!?しかもピッタリ!?」
「いや、誤差三万円だ」
「いや、かなりでけぇ誤差だよ」
自慢げに自作銃を高々に掲げる男。反応がうれしかったのだろうか。
「さすがに八万も使わないだろ」
「いや、十一万二千三百円使った」
「誤差ってオーバーかよ!」
なんのために自作の銃を・・・というツッコミは、もはやどこかにおいていかれた。
「いや、案外材料費がかかってな」
「なんの原料使ってんだよ!」
「プラスチックだ。加工に苦労したよ」
「するだろうな!民間人には方法すらわからん位だからな!」
銀行強盗と人質は、ボケとツッコミの関係に変わっていた。
一応、人質はクルスだけではない。他にもわんさかいる。
「あの二人は何者なんだい?」
「共犯か!?子供か?あんな子供を利用するなんて!」
「お母〜さん。おなか減ったよぉ〜」
人質達の不安は募る。
そんな人たちを尻目に、二人の漫才は続いている。
「この数年間何度やり直したことか・・・」
「年!?単位が年!?ドンだけやり直してんの!んなことしてないで働けよ!」
「なこと働きながらできるか。リストラにあったから強盗を企て・・・」
涙目で訴える男。
といっても、覆面グラサンなので何の意味も無かった。
「ああ!もう!銃の話は終わりだ!自作なんだろ!?だったら心置きなくブッ飛ばす!」
「まて。確かに銃は俺が自分で作ったが、こんなのはどうだ?」
といって内ポケットから取り出したものは・・・
「どうだ!この輝き!この美しさ!どっからどー見てもナイフだ!」
「チッ」
舌打ちしてナイフをにらみつけるクルス。だが・・・
「ん?どっからどーみても?」
「そうだ。どっからどーみても・・・」
何かに気づいたクルス。何かを気づかれた男。
「手めぇそれも偽物かぁ!」
「な、なんでわかった〜〜〜!」
「わかるだろ!普通わかるだろ!!あんたの口ぶりは工作の宿題を自慢してる小学生と同じだろ!」
つまり、男は丸腰で強盗しに来たのだ。度胸はある。
だが、そんな男に対しての同情はクルスには無い。
数歩下り、助走をつける。
「さんざん遊びにつき合わせてもらったなぁ」
男との距離、約五メートル。
「これはオレからの・・・」
振り向き、男を正面に見据える。
「ん?」
「礼だ」
一気に加速し、慣性の法則を利用して・・・天誅を下す。
「ギャ〜ッ!」
「ハァ、ハァ、さんざ下らんギャグにつき合わされたオレって・・・」
いままでの銀行強盗とのやり取りを考えると、頭が痛くなる。
「さっさと買出しいきてぇなぁ」
そのとき。
「突入〜」
「何だ今の軽い指示は!」
といいつつ、わけがわからないクルス。
よくよく考えてみると、相手は銀行強盗だったのだ。
外には警察がうじゃうじゃいるはず。
そして、突入の機会を窺っていたのだ。
「犯人確保〜」
「そんな軽くていいのかよ!」
指示の軽さに口が出るが、事態は深刻。
「おいそこの少年!犯人は!」
一人の警官がクルスの元へ来た。
「君!犯人は!強盗犯はどこだ!」
「え〜っと・・・そこ」
「はい?」
クルスが指差す先には・・・伸びた男が。
「犯人発見!これより、戦闘に移る!」
「戦闘!?移るの!?あの状態で!?」
今一度言うと。その指の先には伸びた男が。
「少年!危ないぞ!下れ!」
「アンタボケんのもいいかげんにせぇや!」
いつのまにか伸びた男を数十近くの銃口が捕らえていた。
「犯人に告ぐ〜おとなしく投降しろ〜」
「今現在大人しいっスヨ犯人!!」
警官にもこんなに面白い人が居るとは驚きだ。
「ん?もしかして・・・」
やっと犯人が無意識無防備であることに気づいた警官。
なにやら細長いもので縛り、身柄拘束。
部下に何かを指示しているようだが・・・
「よ〜し、そいつひっぱってかえんぞ〜」
「ほ〜い」
返事すら軽い。こんな部隊でも銀行強盗の処理を任されるのか。
「事務処理終わったら焼肉行くかぁ」
「何言ってんだアンタら!そんな軽いことで警官務まるんかい!」
男を背負って警官たちが外へ出て行く。
「少年。もう安心だぞ。家まで送ってやるから、ついて来い」
「おい待て。オレは買出しに行きたいんだ。近場のスーパーに送ってくれ」
「そうなのか?なら歩いて三十秒だが。車に乗り降りする手間の方がかかるぞ」
「・・・じゃぁいい。俺は帰るぞ」
食材と満腹を求めスーパーへ向かうべく、クルスは踵を返す。
「ちょっとまて!」
「何だ?」
呼び止める警官に、露骨に嫌な顔で振り向く。
「君の名前を教えてくれ!」
「個人情報だからなぁ、どうしよう」
「警察相手に何を言うか、君は」
二人称が度々変わる警官に、クルスはうんざりしながら答える。
「クルス・ヴェール・イストリア。俺の名だ。覚えておけ」
「お、おう。じゃぁ達者でな、イストリア君」
「ん。じゃな」
空腹のあまりイラついてきているクルスは、買出し前に腹ごしらえを、とも思っていた。
その夜。
クルスが空腹を満たし、買出しも済ませ、帰路に着くクルス。
「ふぅ。ハードな一日だったな」
ハードな一日、で済ませてしまうのはクルスらしいのか。
「にしても・・・色々と展開の早い一日だったなぁ」
銀行へGO→強盗に遭う→漫才→お買い物
確かに展開は早い。だが、その展開の早さに適応してしまうのがこの物語の主人公。
「明日から学校か。面倒だな」
過酷な一日を過ごしてはいたが、列記とした中学生である。
この四日間は引越しの後片付けで騒がしかったが、本来は学校へ通う歳。のはずだが・・・
「人間を演じるのは好きじゃないんだが」
月明かりに不適に笑うクルス。その瞳には何が映っているのだろうか。
「明日から仕事だ。さぁ〜って、がんばるか。な」
傍らにいた猫に声をかける。
すると、待っていたかのようにクルスを見上げ、肩に乗って来る。
「お、よしよし。良い子だ。さて、帰ろうか」
一人と一匹の姿は、闇の中に消えて行った。
え〜っと、二話の後書きでの挨拶になってしまい、まずはごめんなさぃ。
それでは本題。本日(?)は死神のKISSを読んでいただき、ありがとうございます!
初投稿なので更新に苦労しましたが、最低限週一ペースで更新しようと思っています。
感想、アドバイス等あれば、よろしくお願いします。
それでは。また来週(?)