おお、天下無双たる冒険者よ〜ソードマン編〜
こちら、以前小説家になろうにて投稿しました「冒険者達の狂騒曲」をリメイクし、後にカクヨムにて投稿しました「おお、天下無双たる冒険者たちよ」のオープニング部分をさらにリメイクし短編として再編した作品となります。
世界はあらゆる不思議を生み育てた。
その不思議の代表たる存在、ダンジョン。不思議という不思議に満ち溢れた謎の空間。沈むことなき太陽、延々と降り注ぐ月光、目も眩むような宝物、強大な魔物、悪辣なる罠が潜むその場所に……いや、そんな場所だからこそ、自ずと足を踏み入れる者たちがいた。
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とある大陸のとある大地。
とある大地のとある迷宮。
依然、誰の手にも掛かっていない無垢の空間。
そこに足跡が続いていた。まだ真新しいそれは、つい先ほど刻まれたものらしい。
これを辿り続けること暫く……やがて、迷宮を進む一つの影の発見に至る。
それこそが、この洞窟に足跡を刻んだ張本人だった。
丈夫な布地で作られた装束、両手には頑丈な皮手袋、両足には悪路を進むことを前提として作られたブーツ、上から羽織った被り付きの真紅の外套……身に纏うのはいずれもおおよそ普段使いとは縁のないものばかり。
それだけではない。片腕には盾、幾重にも鱗を重ねた盾。腰には片手剣、黒鞘に覆われた鋼鉄の剣。
何者なのか。何らかの攻撃から身を守ることを意識している盾。明らかに護身を目的とせず、何らかの打倒を目的とし、攻撃力を追い求めた片手剣。身に纏うのはいずれも戦闘を前提とした装備ばかり。
間違いなく、只者ではない。剣先を思わせる鋭い気配が、全身から常に迸っている。旅人なのは明白。だが、どう見ても只物とは縁遠いが故、その呼称を旅人に限定するのは、どこか言葉が足りなく思えてしまう。
何かそれ以上に似つかわしい言葉がある……そう思えてならなかった。
一先ずは、剣士と呼ぶ他ないだろう。旅人と比べれば、まだこちらの方がしっくり来るというものだ。
旅人、改め剣士は黙々と歩を進める。そのつま先は目の前に広がる暗闇を射抜かんばかりに、真っ直ぐ彼方へ注がれている。一体どこを目指しているのか。
恐れの欠片もなく、只管に迷宮を進み続けるその最中……ふと、その足が止まった。
深々と被ったフードを微かに上げる。同時に、身から迸る気配に研磨が掛かる。
いつ現れたのか。それとも、最初からそこにいたのだろうか。
周囲に邪悪な気配が満ちていた。
耳を澄ませば、聞こえてくる。
その目を凝らせば見えてくる。
なにもせずとも、流れてくる。
吐息が、視線が、存在感が。
薄暗きケダモノ……魔物の気配が。
周囲を見渡す。魔物は群れとなり、かの者を囲うようにその姿を見せた。
その様は豊富の一言に尽きる。羽蟲、蝙蝠、蛇、植物、大岩……あらゆる姿の魔物が蠢いていた。特定の系統に括ることなどできない。総じて持ち得る共通点は、視界を潰そうとも肌を刺す、その邪悪な気配くらいのものだ。
これに対し、剣士は自然と動き出した。腰に括りつけた剣、その柄に手を掛ける。
微かな鍔鳴りの音に遅れ……瞬間、大量の気配が地を蹴った。
怒号にも似た音の嵐の内側にて、鞘鳴りの音が静かに響く。
鋼鉄が闇を斬り捨てる。
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剣を手に、盾を手に、魔物蔓延る外界へ。
やがて件の入口に立ち、その歩を進める。
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剣を振るう度、いくつもの魔物が討ち倒されていく。
ハヤブサの如く斬りつけ、疾風の如く敵陣を駆け抜けていく。
瞬き一つ許さないその素早さは音速にも達し、あらゆる魔物に混乱と恐怖を刻み付けていく。一度それに惑わされれば、それを皮切りに次々と沈黙が落ちていく。地面、壁、宙……そのどこからも蠢くものはいなくなった。
尚も剣士は止まらない。剣を振り、血脂のすべてを残らず落とし、地を蹴り、ダンジョンの奥へと駆け出した。
剣を手に進む中、これまでになく邪悪な気配が漂い始めた。エリアに揺らぐ気配は訴えている……新たな魔物の出現を。
どこにも姿は見えない。影も形も何もない。それでもわかる。何かが、来る。
目の前に揺らぐ闇が膨れ上がった。ほどなく内側より幾つもの……いや、大量の黒影が濁流の如く飛び出した。魔物だ。それもおぞましいほどの数を揃えた魔物の群れがダンジョンの奥より現れた。数のみならず、個々の強さまで先の群れの比ではない。鋼鉄の巨人、大剣を背負いし甲冑、三つ首の魔獣、大弓を帯びた羽蟲、蠢く大樹……まさに粒揃い。恐るべき強さを宿した、名だたる魔物が揃い踏む。
歴戦の戦士であろうと驚き、竦み上がっても不思議ではない。そんな光景を目の前に……剣士は、迷いの欠片もなく飛び込んだ。魔物もまた躊躇なく、自らの全力を以て剣士を迎え撃つ。拳を振り上げ、大剣を掲げ、息に火炎を纏い、矢を引き絞り、鞭の如く枝葉を振るう。強大な力を持つ魔物の一斉攻撃……こんなものをまともに受けては、到底平気ではいられない。下手をすれば、生物としての原型すら残らないだろう。
それでも、剣士の足は止まらない。変わらず、一欠片の迷いもなく走り続ける。
鋼鉄の剣を構え直す。柄を砕かんばかりに握りしめる。溜め込んだ力に剣が震え、そして……気づけば、その身体は魔物の群れの背後にあった。
背後の魔物は動かない。拳を振り上げたまま、大剣を掲げたまま、息に火炎を纏ったまま、矢を引き絞ったまま、鞭の如く枝葉を振るったまま……攻撃に転じる素振りもなく、等しく硬直したままだ。
剣を払う。剣身から血が、破片が払い落とされ、曇りのない刃が晒される……それと同時だった。まるで示し合わせたかのように、背後の魔物が一斉に地面に転がった。
これまでにない数、恐るべき強さ……それがどうしたとばかりに剣士は魔物に攻撃のターンを譲ることなく、一瞬にして何もかもを斬り倒してしまった。魔物の肉体から面目まで、何もかもを。
まるで先の再演だ。ハヤブサの如き斬撃、疾風の如き素早さを武器に次々魔物の群れを斬り倒し、終われば剣の汚れを残らず落とす。それが終われば大地を蹴って、再びダンジョンの奥へと駆け出していく。差異を挙げるならば立ちはだかる魔物の数と強さがそれに値するだろうが、それが意味を成さなかった以上、あえて挙げるようなものでもなかった。
再演は幾度も繰り返された。奥へと進み、魔物と遭遇すれば即座に同じく斬り倒し、奥へと進む……演じるに留まらず、その速さは奥へと進む度、加速度的に増していく。ダンジョンという空間の構造上、奥へ進めば進むほど、階層を跨げば跨ぐほど、より強力な魔物や罠が姿を見せるようになる。著しく危険の高まる異常な環境……しかし、それがどうしたと言わんばかりに、魔物は勿論のことダンジョンが生み出した数多の罠まで、立ちはだかる脅威はいずれも平等に斬り倒されていった。
無双。この状況に相応しい言葉など、それ以外に有りはしないだろう。
そして、いつしかその足は、あの場所へと辿り着いていた。
ダンジョンの最深部……終点へと続くあの道へ。
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彼らは鍛え抜いた肉体、技、武器、そして止まることない飢餓に覆われた冒険心を連れ、あらゆるダンジョンへ立ち向かう。
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鞘口へ剣先を納めていく。鞘鳴りを経、鍔鳴りを奏で、剣は鞘へと納められた。その背後には、最深部に出現する膨大な魔物の群れが地面に伏せている。どの魔物もこれまでの比ではない危険を秘めたものばかりだが、末路は見ての通りだ。手も足も出ず、次々と斬り倒されていくのも同じだった。
周囲に魔物の気配はない。だが、まだ終わっていない。ここは最深部だが、終点ではないのだ。
剣士が黙念と進む中、やがてそれは目の前に現れた。
終点だ。
ダンジョンの中でも特に広々とした空間は、まるで何かのために、それ専用に作られたかのような、自然的ながらどこか人工的という相反する要素を湛えている。そしてその内側に濃密な闇が、そして魔物の気配が揺らいでいた。
ここが終点。時に番人、時に主、時にボス……そう呼ばれる魔物が佇む場所。それを討ち倒してこそ、初めてダンジョンは踏破されたと言える。逆を言えば、いくら階層の魔物を全滅させようと、これを討ち倒さない限りは踏破を認められない。
しかし、番人の役割を担う魔物の強さは破格中の破格。これまで剣士が斬り倒してきた魔物など、歯牙にもかけないことだろう。それはこの濃密かつ強大な気配が訴えている。命惜しくば踏み込むな、まるでそう語りかけるように。
そして剣士は……迷いなく、その内側へと足を踏み入れた。これまでと同じだ。足の動きといい、剣の柄に手を掛けるその仕草といい、これまでと何ら変わりない。
これに呼応するかのように、魔物もまた姿を現した。
闇の向こうに巨影が揺れる。
地響きが迫る。
これまでとは比較にならない強大な魔物がそこにいる。
それでも、剣士は何一つ変わらなかった。全身から迸る気配もまた、鈍りの欠片も抱いていない。
剣士が剣を抜き放つ。
無双の剣が牙を剥く。
鋼鉄が闇を斬り捨てる。
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人々は彼らをこう呼んだ。
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とある大陸のとある大地。
とある大地のとある迷宮。
一名を除き、依然誰の手にも掛かることのなかった無垢の空間。
そこに二種類の足跡が続いていた。一つは奥へと続き、もう一つは空間の入口へと続いている。
そのうちの後者を辿り続けること暫く……やがて、迷宮を引き返す一つの影の発見に至る。
それこそが、この洞窟に二種の足跡を刻んだ張本人だった。
丈夫な布地に装束、頑丈な皮手袋、悪路のためのブーツ、被り付きの真紅の外套、鱗を重ねた盾、鋼鉄の剣……それらを身に帯びた人影は、自らが刻んだ足跡を踏み潰して進んでいく。
もうこの空間には何もない。あらゆる魔物、夥しい罠、光り輝く宝箱……何もかもを喰らい尽くした。かつて終点と呼ばれた空間には、今や物言わぬ巨影が転がるばかり。
だが、飢餓が満たされることはない。
その瞳は既に次を求めていた。
次なるダンジョンを。
次なる不思議を。
次なる冒険を。
やがてその足は外界へと続く出口に達し、迷わず向こう側へ踏み出した。その身体が光の中へ消えていく。足、腕、剣、そのすべてが光の中に消え去った。
そして、再び歩みだす。
新たな冒険へ。
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世界はあらゆる不思議を生み育てた。
その不思議の代表たる存在、ダンジョン。不思議という不思議に満ち溢れた謎の空間。沈むことなき太陽、延々と降り注ぐ月光、目も眩むような宝物、強大な魔物、悪辣なる罠が潜むその場所に……いや、そんな場所だからこそ、自ずと足を踏み入れる者たちがいた。
剣を手に、盾を手に、魔物蔓延る外界へ。
やがて件の入口に立ち、その歩を進める。
彼らは鍛え抜いた肉体、技、武器、そして止まることない飢餓に覆われた冒険心を連れ、あらゆるダンジョンへ立ち向かう。
人々は彼らをこう呼んだ。
冒険者、と。




