『▒▒ERROR//きみの名前が読めない▒▒』
文字化けって、ただの機械のエラーだと思っていました。
でももし、
読めない文字の向こう側に「誰か」がいたら。
深夜の通知。
壊れた会話。
ノイズ混じりの世界。
「見えてはいけないもの」が見え始めた時、人はそれをバグと呼ぶのか、それとも真実と呼ぶのか。
これは、世界の終わりに気づいてしまった少年の、短い記録です。
「……ア?」
朝、スマホに届いた通知は完全に文字化けしていた。
【送信者:???】
『オ前ハ マダ “コッチ” ニ 来ルナ』
「なにこれ……怖……」
高校二年の白瀬ユウは、寝ぼけながら通知を閉じた。
だが、その日から世界がおかしくなる。
授業中。
黒板を見ると、先生の字が崩れていた。
『数Ⅰ 連立方程式』
のはずが、
『數▓Ⅰ 連▒方█式』
に見える。
「……目、疲れてんのかな」
しかし周囲は普通に授業を受けている。
昼休み、友人の佐藤が話しかけてきた。
「なぁユウ、昨日の配信見た?」
だが耳に入った音は、
「ナァユウ 昨日ノ█信 見タ?」
ノイズ混じりだった。
「え……?」
佐藤の顔が一瞬だけバグる。
口元が四角く崩れ、
目がピクセルみたいに欠けた。
そして。
「──お前、“読め始めた”んだな」
その瞬間、教室の全員がこちらを向いた。
ガガガガガッ
首が同時に動く。
ありえない角度で。
スマホが震える。
【送信者:???】
『見つかった』
教室の窓が真っ黒になった。
外がない。
空がない。
世界が「読み込み失敗」していた。
「なんなんだよこれ!!」
ユウは教室を飛び出した。
廊下も壊れている。
『立入禁止』の札は、
『立▓禁█』
生徒たちの会話は、
「アアア」
「ミツケタ」
「ヨメル」
「ヨメル」
ノイズの合唱。
逃げ込んだ旧校舎の端。
そこだけ正常だった。
一人の少女が座っている。
古いパソコンの前で。
「遅かったね」
「……誰だよ」
「私は、この世界の“文字修復係”」
少女は静かに言う。
「この世界はもう壊れてる。みんな気づいてないだけ」
「は……?」
「本当の世界は三年前に終了したの」
パソコン画面には大量のログ。
【SYSTEM FAILED】
【MEMORY CORRUPTED】
【人格データ保護中】
「君たちは、人間だった記録の残骸」
ユウは笑った。
笑うしかなかった。
「じゃあ俺は……」
「データ。でも珍しいね。普通は壊れた文字なんて認識できない」
少女は画面を見つめた。
「君、消える前なんだ」
その瞬間、ユウの腕が崩れた。
▒▒▒▒▒
ノイズになる指。
「う、そ……」
スマホが最後に光る。
【送信者:???】
『コッチヘ オイデ』
ユウは震えながら少女を見る。
「……消えたく、ない」
少女は少しだけ笑った。
そしてキーボードを打つ。
カタカタカタ……
画面に新しい文字が表示される。
【NAME RESTORED】
その瞬間。
世界のノイズが止まった。
「……え?」
ユウの腕が戻る。
空が青くなる。
窓の外に風が吹く。
少女は立ち上がった。
「これで君は読めなくなった」
「待てよ! お前は!?」
少女の姿が崩れていく。
「私は修復用の仮人格だから」
「名前は!?」
消える直前、
彼女は少し困ったように笑った。
「文字化けしてて、もう読めないよ」
──通信終了。
最後まで読んでくださりありがとうございました。
今回の物語は、「文字化け=恐怖」と「データになった世界」というイメージを合わせながら書きました。
普段なら気にも留めない「読めない文字」が、突然意味を持ち始めたら怖いな……という発想から生まれています。
特に、壊れていく世界の中で、それでも「名前」だけは残そうとするラストを書きたくて、この物語になりました。
みなさんのスマホにも、もしかしたら今夜、
読めない通知が届くかもしれません。
その時は――開かない方がいいかもしれません。




