夜明けの魔女は何を願うか
本来魔女は世界に平和をもたらす役割を持つ。
だが国王によって魔女狩りが突如政策に加えられて、約x年が経過した。
初めは否定していた市民も、逆らえば消されていき、教育やメディアの中で浸透していった。魔女は発見次第、国に報告の義務が課せられた。魔女を処刑するために"魔女対策機関"が誕生。
主人公は森の奥でひっそりと暮らしていた。
魔女である主人公を18まで育て上げたのは主人公を見捨てなかった肉親の祖父母。祖父母は毎晩子守唄と共に魔女の物語を聞かせてくれた。
『魔女は大事な人を幸せにすることができるんだよ。自分の心を強く信じれば、きっと魔法は味方になってくれる。魔女は怖くないんだよ。』
そんな祖父母の教えに従うように主人公は真っ直ぐ育っていった。
森の中でたくさんの生き物に囲まれた。
時には草原を花で埋め尽くした。
また時には夜空に星の川を流した。
また時には大空に虹色の橋を架けた。
そんな生活は18の頃、息絶えた。
国に主人公の存在が気付かれてしまった。
主人公がいつものように森に出かけた帰り道。森の生き物たちが異様に騒がしい。木の影に息を潜めて、怯えているような。
嫌な予感がして家に飛び込むと、そこには血塗れの祖父母が魔女対策機関員によって殺されていた。魔女に肩入れしていた反逆者として。生気の失った眼をした祖父母と目が合った途端魔女は強く感情を露わにした。
炎が燃え盛る。不思議と森には引火しなかった。
燃えていくのは祖父母と暮らした小さな家だけ。
激しく揺れる炎はまるで魔女の怒りを表しているようで、はたまた深い悲しみも感じることができただろう。
まるで火葬のようにも見えた光景は国の中心部からも観測できたらしい。すっかり国の方針に飲み込まれた市民は"魔女狩りだ"と声を大きくあげた。
魔女はあっけなく機関員に取り押さえられ大勢の市民に睨まれながら処刑台の道を歩かされていた。
眼に光は宿っていない。ボロボロにやつれた魔女は何を考えているのだろう。激怒か。悲哀か。国への気持ち悪さか。はたまたなにも考えていないのか。確かに魔女は全てを抱えてそこを歩いていた。
平穏を壊された怒りも、祖父母を失った悲しみも、魔女という者に対する仕打ちを命令する王も、それに従順に従う機関も市民も全て。
もう魔女の中の光は見えない。全ての色が混ざった魔女の心は黒く濁っている。塗り潰されてしまった魔女の心は光を見失っていた。
『魔女は大事な人を幸せにすることができるんだよ。自分の心を強く信じれば、きっと魔法は味方になってくれる。』
魔女は怖くない。そんな言葉が処刑される直前に、魔女の頭に想起された。
怖くないのに。魔法は美しいのに。どうしてこんな仕打ちに大人しく従っているのだろう。魔女の眼に光が宿った。
真っ黒な心に光が灯った。光が見つかった。
魔女は抱えた全てを露わにした。
怒りに任せた炎も、悲しみを乗せた雨も。
あの楽しかった平和に想いを馳せた花びらも。
誰かを幸せにしたかった願いを星に託して、
魔女は世界を黒く染め上げた。
世界に夜が訪れた。
さっきまでの太陽は何処にも見当たらない。
永遠の夜明けがこの国に訪れた。
澄んだ輝きを放つ数多の星は逆に異様だった。
国から一歩足を踏め出せば夜明けは終わった。
だが国の敷地は夜明けしかなかった。
市民は呟いた。夜明けだ。夜明けの魔女だ。
魔女の怒りだ。
この国の終焉を望み、ついに動き出したのだ。
夜明けの魔女は姿を消した。
国全員が星の流れる夜空に目が眩んで
夜明けの魔女を見失った。
魔女の願いが叶わない限り、夜明けは終わることがない。国全員がそう悟った。
国王は魔女に祈るようになった。
助けを求めるようになった。
魔女対策機関も解散した。
その代わり魔女保護機関が設立した。
魔女狩りは消えた。約x年で創り上げられた魔女の仕打ちは幕を閉じた。
魔女に対して国は優しくなった。それなのに夜明けは終わらない。夜明けの魔女はまだ許していない。国の民は口を揃えてこう言った。
__________夜明けの魔女は何が望みか。




