表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
⚔️伝説の剣。福引きしたら、ドラゴンスレイヤーだったらしい……。  作者: 黒武者


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/48

第41話:知の迷宮と、予兆のささやき(メルディナ編)

1. 澱んだ記憶の扉


 「……まずは文献から調べるとするかな。なら、あそこしかないわね」


 ストーリアは、喧騒に包まれたカフェを後にし、一人呟いた。


 街の特賞『サムライソード』が当選され、次なる特賞が予想だにしない禍々しい名――『ドラゴンキラー』へと書き換えられたあの瞬間。


 彼女の背筋を走った凍りつくような悪寒。


 それは、案内人としてこの街の「理」に触れてきた彼女の、本能的な警告だった。


 向かった先は、街の北側にひっそりと佇む巨大な石造りの建築物。


 メルディナ中央書物庫。


 重厚な扉を押し開けた瞬間、数百年の時を閉じ込めたようなカビと古びた紙の匂いが鼻腔を刺激する。


 「これだけ広いとなると、流石に厳しいわね」


 天を突くような書棚の群れを見上げ、ストーリアは溜息をついた。


 この街の「在庫」と「交換」の歴史が積み上げられたこの迷宮で、実体も知れぬ一本の剣を探し出すのは、砂漠で一粒の宝石を探すに等しい。


 彼女は迷わず奥へと進み、机に山積みの古い巻物と格闘している一人の女性に声をかけた。


 「ねぇ、リールーさん。ちょっといいかしら!」


2. 書庫の番人と、伝説の断片


 「まぁ、ストーリアさん。ご機嫌麗しゅうございます♪」


 顔を上げたのは、癖っ毛のある翠の髪を揺らし、知的な眼鏡を輝かせた女性――リールーだった。


 彼女はこの巨大な書庫の管理を一手に引き受け、館長から絶大な信頼を置かれている「知の守護者」だ。


 一見すれば読書好きの穏やかなお姉さんという印象だが、その頭脳には街の歴史がインデックスされている。


 「知ってるかもしれないけど、さっきギルド酒場の福引の特賞が『ドラゴンキラー』になったのよね」


 ストーリアの少し興奮気味な報告に、リールーは眼鏡のブリッジを指で押し上げ、僅かに表情を曇らせた。


 「そうでしたか……。その剣のことは、私も詳しくは存じません」


 「ただ、一度神話の巻物を読んだ際、ある勇者が剣を用いてドラゴンを討伐しに行った――という記述を目にした記憶があります」


 「それが、ドラゴンキラーだっていうの?」


 「書物にはそこまでの名前は記されておりませんでした。ですが、口伝……伝記の類としては、確かにその名を聞いています」


 リールーの言葉に、ストーリアは昨夜の出来事を重ね合わせた。


 「同じだわ。あのサムライソードを引き当てた彼女も、昔祖母からドラゴンキラーの伝説を聞いたって言ってた……」


 「ストーリアさん。この書庫に眠る膨大な書物の中に、何かその秘密が隠されているかもしれませんね」


 二人は顔を見合わせ、再び部屋を見渡した。


 しかし、あまりにも膨大な資料を前に、正解への距離は絶望的に遠く感じられた。


3. 「遊び」と「絶対」の境界線


 「でも、特賞になったということは、誰かがその所在を知っているはずよね?」


 ストーリアの問いに、リールーは眼鏡の奥で不思議な光を宿した。


 「そうとも言えます。私もこの街の福引の理は、少し面白いと言いますか……何か『遊び』を感じるんです」


 「遊び?」


 「ええ。グレースランドでは、絶対的な理として福引が存在していると言います」


 「あちらの理は、一度定まれば決して動かない」


 「それに比べて我が国のシステムは、交換を前提とした流動的なもの」


 「……でも、不確定だからこそ、そこに外部からの『介入』が入り込む余地があるんです」


 その言葉を聞き、ストーリアは昨日見送ったばかりの「彼ら」の姿を思い出した。


 「そうみたいね。昨日知り合った彼らが、まさしくそうだったわ」


 「なんだか、『ドラゴンスレイヤー』を引き当てたって言ってたけど……」


 「え、え、本当? ちょっと、その話、詳しく聞かせてください!」


 リールーが突然、前のめりになってストーリアに顔を近づけた。


 眼鏡がズレるのも構わないほどの、異様な食いつきだった。


 「その方達は? 今どこに!?」


 「あ、あ、あ、もう帰っちゃったわよ! ははは」


 そう言い返すストーリアに、リールーは目に見えて肩を落とした。


 「えー! 残念……です……」


 「だってさ、こっちで特賞が出ちゃったし、私、気が気じゃなくなっちゃって」


 「町を案内できなくなって、そこでお別れしちゃったのよ」


 「そうなんですか……。グレースランドだと、すぐに行くわけにもいかないですし」


 名残惜しそうに呟くリールー。


 その姿は、知識欲に突き動かされる純粋な学徒のようでもあった。


4. 予兆の囁き


 「そうだ! 今度行ってみよう!」


 「そうね。私は冒険者として行くことになるかもしれないわ」


 「その時は必ず教えてね!」


 二人は短い約束を交わし、ストーリアは


 「じゃあ私は別の角度から調べてくるわ!」


 と言い残して書庫を後にした。


 手を振って見送ったリールーだったが、友人の姿が見えなくなると、その表情から笑みが消えた。


 しんと静まり返った書庫に、自分の鼓動だけが重く響く。


 (『ドラゴンスレイヤー』と『ドラゴンキラー』……)


 (正体も分からぬ二つの不吉な名前が、今この瞬間に世界に出揃った……)


 リールーは、説明のつかない生理的な「気持ちの悪さ」を覚えた。


 何か、世界そのものが不気味な形に歪み始めているのではないか。


 「それにしても、すごいタイミングね。……何も起きなきゃいいけど」


 リールーは不思議な胸騒ぎを覚えながら、最新の


 「理の通信記録(福引リストのバックアップ)」


 が収められた水晶板に触れた。


 そこには、メルディナの異変とは別に、隣国グレースランドから流れてくる「さらにあり得ない」最新の情報が刻まれていた。


 『グレースランド/特賞:ルシアの剣』


 「ルシア?……伝説の名前が、消えた?」


 「個人名が……景品になったというの……?」


 リールーの眼鏡の奥で、その瞳が驚愕に見開かれた。


 伝説という器を失い、生身の人間の名前が「在庫」として世界に晒される。


 その生理的な拒絶反応を伴う異常。


 (ストーリアさん……何か、とんでもないことが起きようとしています……)


 リールーの声は、誰にも届くことなく、深い書庫の闇に吸い込まれていった。


 外では、何も知らないメルディナの民が、今日も「今日という日の幸運」を求めて小さな福引を回している。


 だがその頂点には、今この世で最も冷たい「死」を冠した剣が、誰かに引き当てられるのを待っているのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ