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⚔️伝説の剣。福引きしたら、ドラゴンスレイヤーだったらしい……。  作者: 黒武者


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第33話:理の矛盾。メルディナの掲示板

 ――時刻は朝の八時。


 中立都市メルディナの朝は、石畳を叩く馬の蹄の音と、開店準備を急ぐ商人たちの活気に満ちていた。

 

 いつものエルド・アッシュマンの朝は早い。法の番人として、また聖職者として、夜明けとともに祈りを捧げるのが彼の日常であった。


 だが今日ばかりは、枯渇した魔力の回復を最優先させ、身体の奥底におりのように溜まった疲労を追い出すべく、この時間まで泥のような眠りに身を任せていた。


(……ふぅ。魔力の回路も、ようやく安定してきましたな。さて、そろそろこの町の「理」を見にいくとしますかな。九時にストーリア殿と合流する手筈と)


 エルドは衣服を整え、厳格な司祭の顔を取り戻すと、宿の部屋の重い扉を開けた。


 すると、まるで計ったかのように、ちょうど目の前の扉が開き、一人の青年が姿を現した。ルシアだ。


「あ、エルドさん、おはようございます」


 ルシアは、背負わされた緋色の剣に身体を傾けながら、苦笑いを浮かべた。


「昨夜はよく眠れたんだけど……やっぱり朝からこいつは重いです。起きた瞬間、階下から漂ってきた焼きたてのパンの匂いにつられて、ふらふらと出てきちゃいました」


 ルシアはこの地に「たどり着いた人」だ。故郷を離れ、不条理な旅を続けてきた彼にとって、唯一の楽しみは、その土地ならではの素朴な食事だった。

「ふむ……。実は私もだ」


 エルドもまた、空腹には抗えなかったらしい。


 宿屋を後にした二人は、人だかりで賑わう通りへと踏み出した。


 グレースランドのような神聖な静謐さとは異なり、ここには多種多様な種族が行き交い、雑多で、しかし妙に心地よい生命の熱量がある。


 二人は鼻をひくつかせ、芳醇な香りの正体を探してキョロキョロと辺りを見渡していた。


 やがて、香ばしい小麦の匂いが一段と強く漂う一角に差し掛かった時、エルドの足がふと止まった。


 広場の中央に立てられた、木製の掲示板。そこには町の日常が張り出されていた。


「えっと、行政のお知らせに、クエスト依頼、催事の案内……賑やかだなぁ。あれ、あの端っこの紙、なんか古くて丸まってて読めないな」


 ルシアが指差した先。湿気で端が丸まった、黄ばんだ羊皮紙があった。


 エルドは黙ってその紙を手に取ると、皺を寄せてまっすぐに伸ばし、その内容に目を走らせた。


 そこに記されていたのは、エルドにとって戦慄すべき「禁忌」に等しい文言だった。


────────────────────

【定期福引、実施中!】

当選内容は個人により異なります。

上位当選者は、下位の当選と交換できます。

(ただし一度限り)

なお、当選内容や役割は役場にて閲覧できます。

────────────────────


「な……何だとッ!?」


 エルドが、これまでの冷静さをかなぐり捨てたかのような声を荒げた。杖を握る手に凄まじい力が込められ、指の関節が白く浮き上がる。


「これでは……これでは、ことわりに反する! 万物、そして運命の決定打である福引が、人為的に『交換可能』などと……あってはならん、責任が宙に浮くなど、断じてあってはならんのだ!」


 エルドの激高に、周囲の通行人が驚いて足を止める。


 グレースランドにおいて、福引とは神聖不可侵な運命の宣告だ。一度引けば、それが王座であれ、死の宣告であれ、甘んじて受け入れるのが世界の掟だったはずだ。


「えっ、どうしたんですかエルドさん。そんなに怒らなくても……」


 ルシアは、杖を振り回しかねない勢いのエルドを、少し間抜けな、きょとんとした顔で見つめている。


「当選を変えられるって、いいじゃないですか。これ、いいシステムだなぁ……」


 ルシアは丸まった紙を覗き込み、心底羨ましそうに溜息をついた。


「俺もここだったらよかったな。そしたらこの『ドラゴンスレイヤー』なんて物騒なもん、ティッシュ一箱か、せめて一週間分の食料券とでも交換してもらうのに」


 やはり、ルシアという男は決定的にズレていた。


 伝説の剣を手にし、世界の運命を背負わされたはずの男は、聖職者が発狂せんばかりの「世界の崩壊」を前にして、ただ自分の肩の荷が軽くなることだけを願っていたのである。

 

 二人の背後で、メルディナの時計塔が静かに時を刻み続けている。


 九時まで、あと三十分。





さて…。


明日は少し遅れるかもです!

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