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⚔️伝説の剣。福引きしたら、ドラゴンスレイヤーだったらしい……。  作者: 黒武者


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第32話:安息の一行。時計塔の街の夜

 中立都市メルディナ。


 石造りの街並みに、魔導灯の淡い光が幻想的な影を落としている。


 グレースランドの静謐さとはまた違う、人々の生活の熱と未知の文化が混じり合った独特の空気が、一行の鼻腔をくすぐった。


(うっ……何だ、急に頭が重い。額が熱いせいか? いや、色々ありすぎて疲れが出たんだろうな……)


 ルシアは、自身の足元がふわふわと浮いているような感覚に襲われていた。


 伝説の剣の重圧、キメラの咆哮、そして見知らぬ美女の出現。


 ただ薬草が欲しかった、癒しを愛する青年にとって、今日という一日は一年分にも等しい密度の絶望と困惑だった。


「みんなあのさ……なんか、急に疲れがきたみたいで。先に宿屋へ行ってもいいかな?」


 ルシアの青白い顔を見て、ロゼリアが痛ましそうに眉を寄せ、気遣うような声を出す。


「そうね。騎士団の方たちも、私たちを守りながら重い荷物を運んでくれたわ。一度、緊張の糸を解く時間が必要かもしれないわね」


「いや、オレたちはそれより腹が減って死にそうだ! なぁみんな、今日は死ぬ思いをしたんだ。キンキンに冷えた酒を流し込みたいだろ!?」


 ヴァルガスが、背後の部下たちに強引な同意を求める。部下たちは顔を見合わせ、「そ、そうですね、団長!」と、上司の顔色を伺うような、しかし期待のこもった声を上げる。


「なんかさ……すごく言わされてる感があるわね。格闘家の端くれとして、その規律のなさはどうなのかしら?」


 リフルが、勝気な口調で痛いところを突くが、ヴァルガスは豪快な笑いでそれを煙に巻いた。


「まぁ、よい。今宵は各々好きなように過ごすとよい。私も……ふぅ。少々、休ませてもらう」


 エルドが深く息を吐いた。常に泰然自若としていた彼だったが、やはり魔力の枯渇と理への執念は、その司祭という存在に深い疲労を刻んでいた。


「じゃあ、私はお姉様と美味しい食事に行きたいわ! ね、いいでしょ、ロゼリアお姉様!」


 リフルが先ほどまでの毒舌を嘘のように消し、輝くような笑顔でロゼリアの腕を取る。


「もう、ロゼリアでいいわよ。私もリフルと呼ばせてもらうから。お互い恭しいのは無しでね」


「え、嬉しい!もうお腹いっぱいだわ、お姉様」


「そうねリフル。私も少しお腹が空いたわ。ストーリアさんはどうかしら?」


「ありがとう。でも、私は自分の家に戻るよ。この町には馴染みの店もあるしね。また明日の朝、この町を案内してあげる」


 ストーリアは、吸い込まれそうな赤い瞳を細めて微笑んだ。


「そうそう、宿屋は数軒あるからどこかには泊まれるはずだけど、今の時間は混むから先に行った方がいいわよ。……じゃあ、明日の朝九時くらいに、あの時計塔の下で」


 彼女はそう告げると、赤髪を揺らしながら、宵闇に紛れるように軽やかな足取りで去っていった。


「あぁ、眠い……。あ、待てよ。オレ、金足りるかな? というか、一銭も持ってないや。


 ねぇエルドさん、お金貸してくれないかな。手元にはこの重い剣と、使い道のわからない運のタネしかないんだ……」


「……左様でしたな。英雄殿を野宿させるわけには参りませぬ。では、私と共に宿屋へ参りましょう。……それでは皆の者、また明朝に」


 ――こうして、各々の夜が始まった。


 ヴァルガスたちは酒場で深夜まで騒ぎ明かし、ロゼリアとリフルは静かなレストランで、これまでの旅路や互いの身の上話をゆっくりと語り合う。


 一方、エルドに手配された宿の個室に入ったルシアは、一人、目の前の問題に直面していた。


 部屋の中央に鎮座する、その禍々しくも美しい緋色の剣――ドラゴンスレイヤー。


(……これ、どう扱えばいいんだ? 立てかけておいて、倒れたら床が抜けそうだしな)


 ルシアは悩んだ末、「下に寝かせたらいいか」と結論を出した。


 たとえ自分を振り回す迷惑な存在だとしても、命を救われたのは事実だ。彼は一応、剣に対して深々と礼をし、儀式のように優しく、床へ横たえた。


 その時だった。


 剣のコアが、呼応するように淡く、優しく脈打った。


「おおっ、びっくりした!……なんだよ、ゆっくり寝かせてくれないのか?」


 恐る恐る近づいてみるが、すでに光は消え、沈黙を保っている。ただの気のせいだったのか。それとも、この意思を持つ魔剣が、彼なりの「挨拶」を返したのか。


 ルシアは這うようにしてベッドに潜り込んだ。


 天井の木目を見つめ、今日起きた信じられない出来事――福引、伝説の剣、キメラ、そしてストーリア――を思い出そうとしたが、脳がそれ以上の思考を拒絶した。


 数秒後。ルシアの意識は、深い眠りの深淵へと吸い込まれていった。


 同じ宿の別の部屋で。


 エルド・アッシュマンもまた、静かに横になっていた。


 彼は眠る直前まで、自らの胸に刻まれた「福引の理」の聖典を反芻し、枯渇した魔力を一滴ずつ溜めるように、静かな呼吸を繰り返していた。


 メルディナの夜は更けていく。


 時計塔が午前零時を告げる鐘を鳴らした瞬間、ルシアの額の紋章が、月明かりを浴びて紅く、不気味に共鳴していた。


やっと一休み。


明日も20時くらいの予定です!

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