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⚔️伝説の剣。福引きしたら、ドラゴンスレイヤーだったらしい……。  作者: 黒武者


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第30話:交錯する「理」。異界の地の夜

 燃え盛る焚き火の炎が、森の闇を赤く照らし出す。


 キメラを葬り去ったことで、一行を覆っていた極度の緊張は、ようやく氷解し始めていた。


 だが、その場の空気は、安堵というには程遠い、張り詰めた疑問と警戒に満ちている。


「ところで、ここは一体どこなんだ?」


 ヴァルガスが、完璧に装着し直した重厚な鎧を鳴らし、開口一番にそのことを尋ねた。


 彼の口から出る言葉は、屈強な戦士のそれだが、その目には見知らぬ土地への戸惑いが滲んでいた。


「ここか?ああ、ここはメルディナだよ。正しくはメルディナの眠れる森」


 ストーリアは、事もなげに答えた。


 彼女の赤い瞳が、焚き火の炎を反射して妖しく瞬く。


「メルディナだと! なぜこんなに遠くに……」


 エルドが驚愕に目を見開く。グレースランドから遥か離れた地名に、彼の抱える世界の地図に大きな空白が生まれたのだ。


「あのダンジョン、まさしく生きてたというわけか。途中の回廊や分岐点が異空間に繋がっていた、という証だな」ヴァルガスが顎に手を当てて納得する


「どういうこと? 君たちこそ、なぜこんな場所にいるのさ?」


 ストーリアが、当然の疑問を投げ返す。彼女の表情には、一抹の疑念が浮かんでいる。


「知ってて来たんじゃないの? 遠くと言ったし。しかもここ一体、魔物の巣窟だよ? 君たち、冒険者にしては少しばかり……呑気に見えるけど」


 エルドは大きく息を吸い、慎重に言葉を選んだ。


 この謎多き女性に、どこまで「理」の真実を語るべきか、迷いがその表情に見て取れた。


 だが、彼らが置かれた現状を鑑みれば、協力を仰ぐ以外に道はなさそうだ。


「我々は……我らが聖地グレースランドの地より、『福引の理』を果たすため、あのダンジョンへと辿り着いたのだ」


「福引の理……? え、その話ホント? 信じられないわ」


 ストーリアが驚いたように口を開いた。彼女の表情から、一瞬だけ冷徹な「観測者」の仮面が剥がれ落ちる。


「あの福引の話しは本当だったと言うの?私も詳しくは知らないけど、このメルディナの地方では、一部に福引を伝統として残す店はあるものの、それを『理』とまで言い放つなんて知らないわ」


「待ってよ! 私は小さい頃から教育として習ったわよ! このアストラム大陸の古くからの理として、福引は、厳然として存在するって!」


 リフルは待ってましたと言わんばかりに、身を乗り出して会話に加わった。


 彼女の博学な知識と、ベルシュタイン家の娘としての誇りが、ストーリアの言葉に反論する。


 当のルシアは、やはりここでも蚊帳の外だった。


 重すぎる緋色の剣を凝視したまま、首を捻っている。ストーリアとエルド、リフルの専門的な会話は、彼の頭にはまるで入ってこない。


「てことは……福引って、グレースランドだけのことではないってことか〜」


 ルシアは剣を構えてみたものの、やはりずっしりと重い。


 世界を救う剣というよりは、ただの厄介な足枷だ。


「無論だ。私は立場上、『福引の理』は熟知しておるつもりだ。グレースランドはその中心。


 だが、全貌を把握しているわけではない。未だに多くの謎が解明されてはおらん」


 エルドの言葉が、改めて世界の広大さと、彼らが踏み入れた未知の領域の深さを物語る。


「で、貴方がその『特賞』の当選者で、運良くそれを引き当てたと?」


 ストーリアが、ルシアをまっすぐに見つめた。


 ルシアは「うんうん」と、一同と顔を見合わせて2、3度頷く。


「信じられないわ。それ、凄いことよ。運もだけど、その剣から放たれるオーラ……半端じゃないわよ」


 ストーリアは、驚きと感嘆を含めた表情で口にした。


 強者だけが感知できる、理の外にある圧倒的な力。彼女の赤い瞳が、ルシアの額の紋章と緋色の剣を、まるで獲物を見つけたかのように煌めかせた。


「ところでお主、その弓のような武器と腕前。相当なもんですな」


 エルドが、今度はストーリアの得物に視線を移し、感心したように尋ねた。


「ああ、これね。私の相棒。シュテラスという弓さ」


 ストーリアが、艶やかな赤髪を揺らし、弓を誇らしげに見せた。


「普通の弓とは違うわね……。矢尻がないように見えるけれど」


 ロゼリアが、その特異な形状に気づき、口にした。


「そうよね! 刺さってる針を見たら、矢尻がついてないみたいだったし、どうやって射るの!? もしかして、魔力で矢を形成してるの!?」


 リフルは好奇心たっぷりの顔で、前のめりになって詰め寄る。ヴァルガスもまた、ストーリアに顔を向け、同じ疑問を抱いているようだった。


「それね。私は、いわゆるマジックアーチャーさ。通常なら矢尻がついてる。


 私の場合、少しでもスピードを上げるために、矢を魔力で形成する『ニードル仕様』にしてるのさ。


 魔力を凝縮して、空気抵抗を極力無くすの。もちろん普通の矢もあるわよ」


「空気抵抗を極力無くすと? だが、それが出来る術者は相当だと聞く。……魔力の緻密な制御と、弓との同調。まさか、そこまでの腕前とは」


 エルドが感心したように呟く。


「そうよね、つるに当てる場所が限られてるもの……。それに、魔力で矢の形を維持するなんて、私には想像もつかないわ」


 ロゼリアは己の剣術経験から、その技術の難易度を瞬時に悟る。


「あ、さっきキメラに当てたのも、軌道がアーチを描いて曲がってたぞ! なんか変な動きだったけど、すげえな!」


 ルシアが、興奮気味に身振り手振りで説明する。

「待って。貴方、アレが見えたの? 相当な射速よ! 普通は見えないはずよ……」


 ストーリアの赤い瞳が、ルシアの顔をまじまじと見つめた。その眼差しは、初めて「観測者」としての純粋な驚きを帯びていた。


「確かに、私は何となくしか分からなかったわ……」


 ロゼリアが、自分の認識能力の限界を認めるように呟く。ヴァルガスもエルドも、ロゼリアに続いて頷いた。


「私はお姉様に夢中だったし!」


 リフルが、屈託のない笑顔で答える。


「そうなの? オレ、目がいいのかな。ハハハ……」


 なんか見えてまずかったか? ルシアはバツの悪そうに頭を触った。


 彼の無自覚な「特異性」が、また一つ、ストーリアの心に深い疑問の種を植え付けた瞬間だった。


ルシアは凄いのか?


明日も20時時ごろです!

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