第3話:静寂の破綻と選ばれし者
福引きが世界を回す!
続きです!
深夜の教会は、冷徹なまでの静寂に包まれていた。
この国の法を司り、規律を重んじる司祭エルド・アッシュマンは、燭台の火に照らされながら、古びた典礼書をめくっていた。
彼にとって、この町で行われる「抽出の儀」は、単なる行事ではない。世界の理を滞りなく回すための、神聖な義務である。
「……チリン、チリン……」
遠くで鳴るベルの音を聞きながら、彼はふと手を止めた。
ビショップ・エルドは、書類にサインをしていた。
福引に関する報告書。
紛失。破損。
そして、特賞未発生の定期確認。
形式だけの業務。そう思われている。
だが、彼は違った。
この職に就いたとき、
最初に渡されたのは祝福の書ではない。
封印記録だった。
「エルド様! エルド様ッ!!」
「……何だ、夜更けに騒々しい。法に背く不敬だぞ」
扉の向こうで、声が震えている。
「申し訳ございません! ですが……出たのです! 今、道具屋グドーの福引所にて……『特賞』が!」
一瞬、部屋の空気が沈んだ。
エルドの手から、羽根ペンが音もなく床に落ちた。
エルドは目を伏せた。
あの穴。
いつからあるのか、誰も知らない。
掘られたのではなく、
“残った”としか言いようのないもの。
王は、関わらなかった。
冒険者ギルドも、
縁起物として扱うだけで深追いしなかった。
だから、神殿が引き受けた。
運を信仰するのではなく、
運を制御するために。
棚から帳簿を一冊取り出す。
ページをめくる音が、やけに大きい。
特賞。
伝説の剣。
理論上、出ない。
出てしまった時は――
エルドは扉を開け、使者を中へ通す。
「……当選者は」
「一般市民です。冒険者登録もありません」
エルドは、帳簿を閉じた。
誰かを責める理由はない。
これは、制度が選んだ結果だ。
彼は椅子から立ち上がらず、
外套にも手を伸ばさなかった。
ただ、ゆっくりと息を吐いた。
「……わかった」
覚悟を決めた重い声だった。
神に祈るためではない。
奇跡を祝うためでもない。
あるがままに、あるがままを受け止めるために。
「私が行く」
それは命令ではなく、責任を引き受ける言葉だった。
彼はゆっくりと立ち上がり、ステンドグラスの向こう、騒がしくなり始めた夜の街を見つめる。
「……ついに出たか。停滞していた運命の歯車が、ようやく動き出したというわけか」
エルドの瞳に、使命感という名の鋭い光が宿る。
「すぐさま布告せよ。明日、伝説の剣の引き渡しを行う。選ばれし者と共に、我ら討伐隊は封印されし『竜の住処』
――かのダンジョンへと赴く!」
次の更新は21時です!




