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⚔️伝説の剣。福引きしたら、ドラゴンスレイヤーだったらしい……。  作者: 黒武者


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第21話:共鳴する魂

 神話の時代から取り残されたかのような「氷の心臓部」を背に、一行は再び、逃れようのない暗黒の回廊へと足を踏み入れた。


 先ほどまでの緋色の閃光と、ドラゴンスレイヤーが放っていた神々しいまでの魔力嵐。


 それらが嘘のように凪いだ今、彼らを包んでいるのは、自分たちの荒い吐息や石畳を踏みしめる足音さえも、どこか遠い世界の出来事のように吸い込んでしまう、濃密で、粘り気のある静寂だった。


 ルシアの右手には、依然としてあの「鉄塊」が握られている。引きずるたびに石畳と擦れ、低く重い音を立てるその剣は、まるで「お前はもう、ただの風来坊には戻れない」と無言で宣告しているかのようだった。


「ジャーン! では、ここからの道案内は、このリフル様に任せて!」


 その重苦しい空気を一変させたのは、リフルの弾んだ声だった。


 彼女は煤で汚れた頬を、まるで勲章でも誇るかのように高く上げ、暗闇の先を指差した。


 その翠色の瞳には、先ほどまでの死に物狂いの恐怖は微塵も残っていない。代わりに宿っているのは、禁断の宝物庫の鍵を手に入れた子供のような、純粋で、危ういほどの好奇心だった。


 「え、なんで……? お前、道を知ってるのか?」


 ルシアは、肩に食い込むドラゴンスレイヤーの重みに顔を顰めながら問い返した。


 無理もない。ここは「生ける迷宮」だ。侵入者の足跡を消し、構造を組み替え、獲物を混乱させて死へと誘う魔窟。数時間前に通った道が、今も同じ形で存在している保証などどこにもないのだ。


「リフルさん。先頭は危険よ。あなたが道を示してくれたら、私が先頭を行くから」


 ロゼリアが、一歩前に出てリフルを制した。その言葉には、聖騎士としての厳格な義務感と、それ以上に、この無鉄砲なお嬢様に対する微かな、しかし確かな庇護欲が混じっていた。


 「……っ、お姉様! 大好き!」


 リフルはまたしても感激に身を震わせ、ロゼリアの手を握りしめた。彼女の「お姉様信者」っぷりは、短時間のうちに加速度的に進化を遂げ、今やこの迷宮に巣食うどんな凶悪な魔物よりも強固で、揺るぎないものになりつつあった。


「大丈夫じゃないかもしれないけどさ、ルシアのあんなカッコいい……っていうか、ヤバい姿を見せられたらね、私の冒険心にも火がついちゃったの! 


 魔法でひとっ飛びなんて、そんなのベルシュタイン流じゃないわ。お宝の匂いは、自分の足で嗅ぎ分ける。それが、真の冒険よ!」


「ふむ、実に見事。さすがはベルシュタイン家の血筋ですな」


 エルドが、魔力が枯渇して「リターナー」が不発に終わった恥辱を棚に上げ、さも最初からこの過酷な徒歩を望んでいたかのように、深く、尊大に頷いた。


「ダンジョンとは、その土を踏み、壁を撫で、己の足で一歩ずつ神秘を紐解いていくもの。リフル殿、若くしてその『真理』に到達されるとは……。このエルド、感服いたしましたぞ」


「……全く、どの口が言ってるんだか。あの狸司祭」


 ルシアが冷めた独り言を吐き捨てた時、一行の前に巨大な分岐点が現れた。


 左は、どこか地上から差し込む微光を予感させるような、緩やかな上り坂。対して右は、さらに地の底、底知れぬ深淵へと獲物を誘い込もうとするような、急な下り坂だ。


「あ、ここ、分かれてる……」


 誰もが直感的に、そして生存本能に従って「左」の上り坂を選ぼうとしたその時。


 ロゼリアが、リフルの肩にそっと、羽が触れるような柔らかさで手を置いた。


「ねぇ、リフルさん。武闘家として日々、過酷な修行で心身を鍛えているあなたなら、人一倍高い精神力を持っているはずよ。


 その力を、ほんの少しだけ『解放』してみない? 私がサポートするわ。そうすれば、この場所の

『声』が聞こえるかもしれない」


「ええっ! お姉様、そんな魔法みたいな……あ、魔法か! そんなことまでできちゃうの!? する! 絶対、お姉様と繋がりたい!」


 ロゼリアは微かに微笑むと、愛剣『ソード・オリヴィア』を胸の前に垂直に構え、祈るように目を閉じた。


 彼女の薄い唇から紡がれたのは、古風で、どこか物悲しい旋律を帯びた聖教会の秘術――感覚同調の詠唱だった。


「さあ、リフル。目を瞑って、深く呼吸して。私の心に、あなたの意識を重ねて……行くわよ」


 ロゼリアの手から、淡く、清らかな白銀の光がリフルへと伝播していく。二人の魂が、魔力を媒体にして一時的に重なり合う。


「えっ……嘘、これ、何!? すごい……何か、何か見えてくる!」


 リフルは顔の前で手を合わせ、眉間に皺を寄せて強く目を瞑った。


 彼女の脳裏に流れ込んできたのは、三次元の地図ではない。


 この巨大な「生ける迷宮」が刻む脈動。血管を流れる熱、神経を伝わる電気信号、そして――この場所が持つ、どろりとした肥大な「意思」。


「……わかったわ。右ね。右へ行かなきゃダメ」

 リフルがカッと目を見開き、迷いなく下り坂の闇を指差した。


「おい、待てよ! 右は下りだぞ! これ以上深く潜ってどうすんだよ。俺たちは地上に帰りたいんだぞ!」


 ルシアが、至極当然の、そして切実な叫びをぶつける。しかし、リフルは不敵な、どこか超越的な笑みを浮かべて一歩を踏み出した。


「いい、ルシア。ここは『生きてる』のよ。胃を抜けて、腸へ向かって、最後にお・・へ出るには……一度、ぐっと下がらなきゃいけない時もあるでしょ? 普通の測量術じゃ、この場所の出口は見つからないわ!」


 その言葉と共に、リフルの背中が右側の濃い闇へと吸い込まれていく。


「……理屈はわかるが、例えが最悪すぎるだろ」

 ルシアは、肩に食い込む緋色の剣を担ぎ直した。

 迷宮の「排泄物」にでもなるつもりか、と毒づきながら。


「ああ、クソ……。胃が痛い。俺が今一番求めているのは、伝説の剣でも財閥の報酬でもない。……胃薬だ。よく効く、安物の胃薬をくれ……」


 絶望的な溜息を吐きながら、ルシアは暗闇へと続く下り坂へ、重い一歩を踏み出した。


 背後でエルドが「ほう、聖別された体内巡礼ですな!」などと調子のいいことを言っているが、もはやルシアの耳には届いていなかった。


さあ、無事戻れるのか!


明日は21時予定!乞うご期待

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