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⚔️伝説の剣。福引きしたら、ドラゴンスレイヤーだったらしい……。  作者: 黒武者


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第13話:骨の城の先客

現れたのは!

迷宮の奥底、湿った空気が肌にまとわりつく。


 ルシアたちの眼前にそびえ立つのは、数多の白骨が幾何学的なまでに積み上げられた異常な構造体――

「骨の摩天楼」だった。


 松明の赤暗い炎が揺らめくたび、その巨大な影が洞窟の壁面に映り込み、まるで巨大な怪物がこちらを睨みつけているような錯覚を抱かせる。


 カチ、カチ……。


 静寂の中で、乾いた音が等間隔で響く。


 よく見れば、複雑に組み合わされた肋骨や大腿骨の隙間に、無数の「穴」が開いていた。そこから何かがこちらを覗き見ているような、不気味な視線を感じる。


「……下がって、英雄殿。ここは私が」

 ロゼリアが預けていた松明を無造作にヴァルガスへ放り投げた。

 同時に、愛剣「ソード・オリヴィア」を音もなく抜く。


 その瞬間、場の空気が凍りついた。ロゼリアの全身から放たれた鋭い殺気は、背後に立つルシアの肌をチリつかせるほどに苛烈だった。


「対話の余地はなさそうね。この禍々しい建築物の主……まとめて断ち切る」


 ロゼリアの宣言に応えるかのように、骨の塔がいよいよ崩れ落ちるような不気味な振動を始めた。ガラガラと小刻みな音を立て、最上部の頭蓋骨がルシアたちの足元へ転がり落ちる。


 いよいよ、この世ならざる魔物が姿を現す――。


 誰もがそう確信し、エルドは杖を構え、ヴァルガスは盾を固めた。


 だが


「待って!待って!待って! お願い、切らないで! ごめんなさいぃ……っ!」


 静寂を切り裂いたのは、地響きのような咆哮ではなかった。


 この世の終わりを嘆くような、高く、そしてあまりに澄んだ「少女の悲鳴」だった。


「「「「…………えっ?」」」」


 一同の動きが、まるで見えない魔法で固められたかのように静止した。


 重厚な鎧が擦れる音も、エルドが床を叩く杖の音も止み、迷宮の奥底には少女の声の残響だけが虚しくこだまする。


 やがて、強固に組まれていた大腿骨や肋骨のバリケードが、内側から押し広げられるようにガラガラと音を立てて崩れ落ちた。


 その隙間から、這い出してきたのは――。

 毒を吐く大蛇でも、蘇った死者でもなかった。


 透き通るようなブロンドの髪をポニーテールにまとめ、驚きで大きく見開かれた翠色の瞳を持つ、一人の可憐な乙女だった。


 彼女は重苦しい鎧など纏っていない。しなやかな革で作られた、まるで忍びか軽歩兵を思わせる身軽な出立ち。煤で汚れた白い頬を何度も袖で拭いながら、彼女は涙目でルシアたちを見上げた。


「……え、ええ? なんで、こんなところに人が……?」


 ルシアは呆然と呟いた。

 連日の心労と寝不足でギラついていたはずの瞳が、あまりの予想外すぎる事態に点になっている。


「わ、わ、私はリフレシア……リフレシア・ベルシュタイン。……あ、リフルって呼んでいいわよ! お願い、怪しいものじゃないの、ただの迷子なのぉ!」


 その名が発せられた瞬間、それまで事務的に構えていたエルドの眉が、これ以上ないほど跳ね上がった。


「べ、ベルシュタイン……ですと!? もしや、かの有名な……大陸全土の流通と金鉱を支配し、王国の国庫すら凌ぐと言われる財閥ベルシュタイン家のご息女ですかな!?」


「あー、もう、それ! どこに行ってもそればっかり! 私は家がどうとか、金がどうとか関係なく、自由な冒険がしたいだけなの! 家なんて、私にとってはただの豪華な金色の檻なんだから!」


 リフルは腰に手を当ててぷりぷりと怒ってみせたが、すぐに現状を思い出したように顔を真っ青にさせた。


「……でも、さすがに今回は反省したよ。偶然、町の中に変な『穴』を見つけて、ちょっと探検のつもりで入ったら……。

 奥に行くほど空気は重くなるし、持ってた松明は消えちゃうし。真っ暗闇の中で、もう死ぬんだって思ったんだから!」


 彼女は震える指先で、先ほどロゼリアが切り伏せようとした「骨の摩天楼」を指差した。


「暗闇に目が慣れてきたら、もう怖くて怖くて……。そこら中に落ちてた骨を集めて、バリケードを作ってたの。いつか、誰かが助けに来てくれるのを信じて、ずっと……」


 ルシアは改めて、背後にそびえる骨の塔を見た。


 よく見れば、それはただ乱雑に積まれたものではない。絶妙な重心移動と噛み合わせによって、外部からの物理的衝撃に耐えうるように設計された「要塞」だった。


 一人で、この暗闇の中でこれを組み上げたというのか。

「……怖かったんだよぉ、本当に! もう、カビの匂いしかしないし、変な音はするし、さっきはなんか『切る』とか聞こえてくるし!」


 リフルは一気にルシアに詰め寄ると、その煤けた外套の裾をギュッと、離さないと言わんばかりに握りしめた。


 上目遣いに見つめてくる彼女の視線が、ルシアの血走った瞳を捉える。


「お兄さん、すごい目をしてるね……! 一晩中、私を探して戦い抜いてきたの? その鋭い視線……その圧倒的な気迫……間違いない、本物の英雄さまだわ!」


(……いや、ただの深刻な寝不足だし。君を探してたわけでもないし。むしろ帰りたかっただけだし)


 ルシアは内心で激しく否定したが、至近距離から放たれるお嬢様パワーに言葉が詰まった。


 一方、エルドの脳内ではすでに、別の「理」が働き始めていた。


 「特賞当選者であるルシア」が「行方不明の財閥令嬢」を救出した――。この事実は、教会と国家にとってこれ以上ない「美談」となる。


「ふむ……。お主の不運……いえ、幸運。このリフル殿を導き出したこともまた、理の巡り合わせに相違ありませんな、ルシア殿! やはりあなたは、天に選ばれた役割をお持ちだ!」


 エルドは調子よく頷き、満面の笑みでルシアの背中を力任せに叩く。


「……骨のバリケード。これを一人で、短時間で組み上げたというのなら、相当な身のこなしね」


 ロゼリアは剣を鞘に収めたが、その視線は依然としてリフルの軽装に向けられていた。


「家出中のお嬢様が身につける技術にしては、少しばかり実戦的すぎる気もするけれど」


「えへへ、ちょっとだけ、隠密とか武闘の訓練を受けてたからかな! ……それより、お兄さん! ここから出してくれるんだよね!? ねえ!」


 ルシアは、自分の外套を握りしめる小さな手の震えを感じ、大きなため息をついた。


 伝説の剣、強制的な英雄扱い、そして次は財閥のお嬢様の救出。

 

 俺が欲しいのは薬草だ。ただの、安い、あの緑色の草なのだ。


 なぜ、平穏を願うほどに、俺の日常はこうも華やかで、最悪な方向へ転がっていくのか。


「……ああ、わかったよ。とりあえず進もう」


 ルシアのその力ない返答を、リフルは「静かな決意」と受け取り、目を輝かせた。


 こうして、望まぬ英雄の背中には、また一つ「重すぎる役割」が積み重なっていくのであった。

予想外のことに、皆がバグっています。


続きは明日も20時です!

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