第2話⑤
授業が終わって昼休み、校内放送が流れた。
生徒会選挙立候補者は、指定された教室に集まってください。
教室を出ると、廊下には同じように移動している生徒が何人かいた。
知らない顔も多い。
詩友くんと並んで、指定された教室に入る。
机はコの字型に並べられていて、前には生徒会の先輩たちが立っていた。
「では、これから選挙の詳細について説明します」
淡々とした説明が続く。
立候補者の人数。
演説の順番。
投票の方法。
「まず、副会長ですが――」
一瞬、教室が静かになる。
「立候補者は、榊詩友くん一名です。よって、副会長は信任投票となります」
ざわ、と小さなどよめき。
私は詩友くんを見る。
本人は、特に表情を変えない。
「次に、総務です」
私の番だ。
「立候補者は三名。樋口瑞姫さんと、大野誠司くん、安西秀くんです」
胸が、少しだけ強く鳴る。
三人。
ちゃんと、競争なんだ。
説明が一段落したあと、立候補者同士で簡単な顔合わせをする時間があった。
そのとき。
「へえ」
斜め前に座っていた大野くんが、私を見て言った。
「樋口が相手か」
声は大きくない。
でも、はっきり聞こえる。
「正直、人望的に考えたらさ」
彼は肩をすくめる。
「俺の方が有利だろ。どう考えても」
周りが、一瞬だけ静まる。
冗談っぽい口調。
でも、目は笑っていない。
胸の奥が、ひやっと冷えた。
昔と同じ、とは言えない。
でも、似た空気。
「……」
何か言おうとして、言葉が出てこない。
そのとき。
「それ」
低い声が、間に入った。
詩友くんだった。
「どういう意味だ」
教室の空気が変わる。
男子が、詩友くんを見る。
「え?事実じゃない?」
軽く笑って返す。
「樋口は大人しそうだしさ。推薦も身内ばっかりだろ」
次の瞬間。
詩友くんの目が、はっきりと怒りを帯びた。
声は大きくない。
でも、逃げ場のない強さがあった。
「人を見下した前提で語るな」
教室が、完全に静まり返る。
「お前は、樋口の何を知ってる」
男子は、一瞬言葉に詰まる。
「……別に、そこまで言うことじゃ」
「ある」
詩友くんは、一歩前に出た。
「選挙は勝ち負けの前に、立候補した理由を語る場だ」
「最初から相手を下に見るなら、生徒会に立つ資格はない」
その場の全員が、二人を見ていた。
男子は、ゆっくり立ち上がる。
「言うじゃん」
強がったように笑って、詩友くんを睨む。
詩友くんも、一歩も引かない。
視線が、ぶつかる。
私は、息をするのを忘れて、その光景を見ていた。
詩友くんが、怒っている。
私のことで。
教室の空気が、張り詰めたまま――
昼休みの終わりを告げるチャイムが、遠くで鳴った。




