第13話⑥
文化祭当日。
校内は、朝からずっと騒がしかった。
廊下に流れる音楽、呼び込みの声、甘い匂い。
いつも静かな学校が、別の場所みたいだ。
私たちのクラスはパフォーマンス喫茶。
入口には黒板アートで描かれたロゴ。
中では、制服アレンジしたクラスメートたちが忙しなく動いている。
私は、壁際に立ってステージ前を眺めていた。
バンドの準備、ダンスの立ち位置確認。
照明チェックの声が飛び交う。
その横に――さっきまで、確かに詩友がいた。
「詩友、詩友は確かパフォーマンス側には出なかったよね?」
そう声をかけながら、顔を向けた瞬間。
「ん?」
そこにいたのは、詩友じゃなかった。
「……佳苗?」
「お、瑞姫」
トレーを持った佳苗が、何でもない顔で立っている。
一瞬、頭が追いつかない。
「え、詩友は?」
「さあ?」
佳苗は肩をすくめる。
「さっきまでここにいたと思ったけど」
「え、でも今――」
言い終わる前に。
会場の照明が、ふっと落ちた。
「――次は、バンドパフォーマンスです!」
司会の声。
ざわっと客席が沸く。
ステージに、メンバーが一人ずつ出てくる。
ギター、ベース、ドラム。
……そして。
最後に、マイクを持って現れた人物を見て。
「……っ」
息が、止まった。
詩友。
制服じゃない。
黒シャツに、細いネックレス。
いつもの無表情より、少しだけ鋭い目。
ボーカル――?
「え……」
隣で佳苗が、にやっと笑う。
「言ってなかったっけ」
「榊、昔から歌うまいよ」
「文化祭限定ボーカル」
知らない。
聞いてない。
というか――
「は……?」
音が鳴る。
前奏。
詩友が、マイクを握り直して、息を吸う。
そして。
歌い出した。
低くて、まっすぐな声。
感情を抑えたようで、ちゃんと熱がある。
客席が、静まり返る。
心臓が、うるさい。
――なに、これ。
ステージの上の詩友は、
私の知ってる詩友と、少し違って見えた。
かっこいい。
普通に。
いや、普通じゃない。
「……ずる……」
思わず、小さく呟く。
詩友が、ふっと視線を投げる。
一瞬だけ。
でも、確かに――目が合った。
次の瞬間、視線を戻して歌い続ける。
……ああ、もう。
胸の奥が、ぎゅっとなる。
文化祭の喧騒の中で。
私は、完全に不意打ちを食らっていた。
――終わったあと、絶対言ってやる。
なんで黙ってたの、って。
それと同時に、
誰にも聞こえないくらい小さく、こう思ってしまった。
……私の彼氏、
ちょっと反則すぎじゃない?




