第13話③
圭の怪我は、骨折で済んだ。
その知らせを聞いたとき、胸の奥から力が抜けるように安堵した。
入院は短期間、しばらくは松葉杖生活になるけれど、後遺症はないらしい。
……本当によかった。
そう思っているのは、私だけじゃなかった。
詩友は、それから毎日、圭を迎えに行った。
授業が終わるとすぐに圭の荷物を持って、ゆっくり歩く速度に合わせて校門を出る。
帰りは必ず、家まで送る。
生徒会の仕事が残っていても。
剣道部の練習があっても。
「今日は先帰る」
それだけ言って、詩友は圭の横に立つ。
理由は分かっている。
責任感と、後悔と、償い。
恋愛感情なんて、ない。
圭も、詩友も。
それは、見ていれば分かる。
……分かっているのに。
「……なんで、こんな気持ちになるんだろ」
生徒会室で一人になったとき、
思わず机に額をつけた。
胸の奥が、きゅっと縮む。
放課後、廊下で見かけた二人の後ろ姿。
詩友が圭の歩調に合わせて、少しだけ歩幅を小さくしていたこと。
段差の前で、さりげなく手を差し出していたこと。
――全部、正しい。
――全部、優しい。
だからこそ。
「……やだな、私」
小さく呟く。
詩友が誰かを大切にしている姿を見ると、
胸がざわつくなんて。
それが、怪我をしたクラスメイトで、
しかも自分のせいだと思い込んでいる相手なのに。
「嫉妬とか……最低」
自分でそう決めつけて、余計に苦しくなる。
詩友に何か言われたわけでもない。
蔑ろにされたわけでもない。
ただ、会う時間が減っただけ。
それだけなのに。
「私、心狭すぎ」
詩友なら、こういうとき、きっと言う。
――それでも、そう思ったなら仕方ないだろ。
そんなふうに、淡々と。
でも、それが逆に怖かった。
この気持ちを口にしたら、
“理解できる”で終わってしまいそうで。
放課後の校門。
遠くで、詩友と圭が並んで歩いているのが見えた。
私は、声をかけなかった。
かけられなかった。
「……私、彼女なのに」
自分で自分に、苛立つ。
信じているはずなのに。
分かっているはずなのに。
それでも、
詩友の隣に“自分以外”がいる時間が増えるたび、
胸の奥が、ちくりと痛む。
文化祭の準備は進んでいく。
圭の怪我も、少しずつ良くなっていく。
――なのに。
私の中の、この感情だけが、
どこにも行き場を見つけられずにいた。




