第2話③
ファミレスのテーブルに並んでいた原稿用紙は、いつの間にか一枚ずつ重ねられていた。
「……よし」
佳苗が、最後の一行に目を通してから顔を上げる。
「これで一通り完成かな」
「おお、ついに!」
垣端くんが、両手を上げて大げさに喜ぶ。
「いやー、俺の推薦演説、我ながら神がかってると思うんだけど」
「盛りすぎ」
詩友くんが、即座に切り捨てた。
「事実を並べただけだろ」
「事実をエモく語るのが才能なんだよ」
垣端くんはそう言って、満足そうに自分の原稿を眺めている。
私は、自分の総務用の原稿を手に取った。
派手な言葉はない。
でも、ちゃんと“私がやれること”が書いてある。
「瑞姫」
佳苗が、私を見る。
「無理してない?」
「……うん。大丈夫」
本当だった。
少し前まであった胸のざわつきが、今は不思議と静かだった。
「じゃあ」
詩友くんが立ち上がる。
「今日はこの辺で」
「だな。長居しすぎた」
垣端くんも席を立ち、伝票を手に取る。
店を出ると、外はすっかり夜だった。
街灯の光が、アスファルトを淡く照らしている。
「原稿は――」
佳苗が言いかけたところで、詩友くんが頷く。
「明日、生徒会室に提出しに行こう」
「一緒に?」
私が聞くと、詩友くんは一瞬だけ間を置いてから答えた。
「ああ。樋口と俺で」
その言葉に、胸の奥が少しだけ跳ねる。
「じゃ、明日な!」
垣端くんが手を振る。
「副会長候補様、総務候補様!」
「やめろ」
「恥ずかしいから」
佳苗と詩友くんが、同時に言った。
駅へ向かう道で、自然と別れる。
「瑞姫」
佳苗が、少しだけ声を落とす。
「今日はよく頑張ったね」
「佳苗も」
「私は付き添いみたいなもん」
そう言って、佳苗は軽く手を振った。
垣端くんは相変わらず楽しそうで、詩友くんと何か話しながら去っていく。
私は、一人になった帰り道を歩き出した。
夜風が、少し冷たい。
でも、不思議と足取りは軽い。
明日、提出する。
詩友くんと一緒に。
それだけのことなのに、胸の奥がじんわりと温かい。
生徒会選挙。
知らない世界に足を踏み入れる不安は、確かにある。
それでも――
今は少しだけ、楽しみだと思っている自分がいた。
原稿を抱え直して、私は夜道を進む。
明日が、少しだけ特別な日に思えた。




