表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
届け!!〜私を救った君に捧げる、唯一無二の私の青春〜  作者: ふなつさん
初愛編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

57/69

第12話③

「……私さ」

唇の熱がまだ残っているのをごまかすみたいに、私は少しだけ視線を逸らした。

「詩友って、もっと慎重で、奥手で、初々しいタイプだと思ってた」

指先をぎゅっと握りしめて、照れ隠しに続ける。

「まさか、こんなにやり手だったとは」

冗談めかしたつもりだったのに、言い終わった瞬間、顔が熱くなる。

……言い方、完全に失敗した気がする。

詩友は一瞬きょとんとして、それから小さく眉を寄せた。

「やり手?」

「……うん」

すると、少しむっとしたような、でもどこか困った顔で言う。

「そんなこと言う前に」

一拍置いて。

「そもそも、手を繋いだのだって」

私を見る。

「俺は、お前が初めてだぞ」

「……え」

一瞬、思考が止まった。

「……え!?」

驚きすぎて、変な声が出る。

「そ、そうなの……?」

「そうだ」

即答だった。

「今まで必要だと思わなかったし」

少しだけ視線を逸らして。

「……誰かと、こうなるとも思ってなかった」

胸の奥が、じわっと温かくなる。

嬉しい。

でもそれ以上に、恥ずかしい。

「……っ」

何て返せばいいか分からなくなって、私は慌てて話題を変えた。

「そ、そういえばさ!」

詩友が不思議そうにこちらを見る。

「花火、最後のやつ、音すごかったよね。

お腹に響く感じの」

「ああ。近かったな」

「ね。ちょっとびっくりした」

そんな、どうでもいい雑談。

屋台の話とか、浴衣の帯がきつかった話とか、

詩友が途中で買ってたラムネのビー玉がうまく落ちなかった話とか。

笑ったり、相槌を打ったり、

恋人になったばかりなのに、どこかいつも通りで。

でも、手だけはずっとつないだままだった。

気づけば、時間もすっかり遅くて。

街からどんどんと人の気配が減っていく。

「……そろそろ、だな」

詩友が言う。

「うん……」

名残惜しくて、ゆっくりと門をあけ、中に足を踏み入れる。

扉の前まで来て、立ち止まる。

「今日は……ありがとう」

「俺の方こそ」

一瞬、沈黙。

帰らなきゃいけないのに、

離れたくなくて、でも理由もなくて。

――そのときだった。

「……詩友」

気づいたら、私は詩友の袖を掴んでいた。

「?」

詩友が振り返る。

心臓が、今までで一番うるさい。

もう一方の手をそっと上げて、

人差し指で、さっき触れたばかりの唇に、軽く触れる。

「……もいっかい」

声、ほとんど出てなかったと思う。

次の瞬間。

「……っ」

詩友の目が、はっきりと見開かれた。

「……お前は」

息を吸って。

「世界一、可愛い」

低くて、でも確信に満ちた声。

「最高の彼女だ」

そう言い切って、今度は迷いなく距離を詰めてきた。

唇が、重なる。

さっきよりも、ずっと長い。

深くも、激しくもない。

ただ、離れない。

触れて、確かめて、

一秒一秒を噛み締めるみたいなキス。

時間が、ゆっくり流れる。

息が苦しくなる直前で、ようやく離れた。

額が触れそうな距離。

何も言えなくて、ただ見つめ合う。

「……帰るか」

詩友がそう言って、少し照れたように視線を逸らす。

「……うん」

手を離して、それぞれの帰路につく。

数歩歩いてから、振り返ると、詩友も振り返っていた。

何も言わずに、手を軽く振る。

その仕草が、どうしようもなく愛しくて。

胸いっぱいのまま、私は家に入った。

花火大会の夜は、

まだ、終わってなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ