第12話②
街灯の光の下、つないだ手はまだ離れないまま。
少し沈黙が続いてから、詩友くんが口を開いた。
「……瑞姫」
いつもより、慎重な呼び方。
「今の俺との恋愛に対して」
一拍置いて。
「展開が早いって、不満はないか?」
「……え?」
思わず、間の抜けた声が出る。
どういう意味か、すぐには理解できなくて、首を傾げた。
その反応を見て、詩友くんは続ける。
「付き合ってから、まだ二日だ」
淡々としてるけど、視線は真剣。
「でも俺は、多分……恋愛のペースが早い」
握っていた手に、少し力が入る。
「初日で恋人つなぎ。
今日は、初めてちゃんとしたデートで」
少しだけ、言いづらそうに。
「肩を抱いて、二度目の告白をした」
胸が、どくん、と鳴った。
「正直」
詩友くんは、正面から私を見る。
「その先のことも、想像しながら、今日ここに来た」
夜の空気が、ぴんと張りつめる。
「……だから聞きたい」
「この早さに、不満はないか」
少しだけ、不安が滲んだ声。
私は一瞬考えて――それから、思わず笑ってしまった。
「……それ、ほんとに聞いてる?」
「?」
「もし私が、ゆっくり歩みたいタイプだったら」
顔を赤くしながら、言う。
「手を出せオーラなんて、出すわけないでしょ」
詩友くんが、目を瞬かせる。
「……それに」
恥ずかしくて視線を逸らしながら、でもちゃんと続ける。
「これ以上を求めそうになるくらいには」
小さく、でもはっきり。
「……私だって、せっかちよ」
言い終わった瞬間、心臓が爆音を立てた。
数秒の沈黙。
それから。
「……はあ」
詩友くんが、心底ほっとしたみたいに息を吐いた。
「……そうか」
そして、次の瞬間。
口元が、ゆっくりと、いたずらっぽく歪む。
「そうか……まだ望むか」
一歩、距離が詰まる。
「そうかそうか」
「……ちょ、ちょっと待って」
言う間もなく、腕が回ってきた。
困惑する間もなく、抱きしめられる。
胸に、詩友くんの鼓動が伝わってくる。
数秒――いや、もっと短いかもしれない。
それから、少しだけ体が離れた。
「……」
声を出そうとした、その瞬間。
ふっと影が落ちて。
唇に、柔らかい感触。
静かで、短くて、確かに――重なった。
「……っ」
何が起きたのか理解する前に、詩友くんはもう離れていた。
耳まで真っ赤。
でも、目だけは逸らさずに。
「……嫌だったら、言え」
低い声。
「でも」
小さく、付け足す。
「……俺は、嬉しかった」
顔が、熱くて、言葉が出ない。
ただ、ぎゅっと、もう一度手を握り返した。




