第12話①
最後の花火が夜空から消えて、余韻だけが残る。
周りから拍手や歓声が起きて、人の波がゆっくり動き出した。
私たちも、その流れに乗って歩き出す。
手は、まだつながったまま。
さっきよりも、少しだけ力が強い気がする。
離す理由なんて、どこにもなかった。
しばらく黙って歩いていたけど、詩友くんがふっと口を開いた。
「……なあ」
「なに?」
「今日」
一瞬、言葉を探すみたいに間があってから。
「何かしてくるだろうなって、思ってた」
「……え」
心臓が跳ねた。
「さっきの感じ」
横目でこちらを見る。
「“今か、今か”ってオーラ、分かりやすかった」
「……っ」
一気に顔が熱くなる。
「で」
詩友くんは、少しだけ意地悪な笑みを浮かべた。
「最後に一気に喜ばせた方がいいと思って
……わざと、何もしなかった」
「――っ!?」
思わず立ち止まりそうになるのを、手を引かれてなんとか歩き続ける。
「そ、そんな……」
恥ずかしさで、声が震える。
「……性格悪い……」
「褒め言葉として受け取る」
淡々と言われて、余計に恥ずかしい。
「……もう」
一瞬うつむいてから、顔を上げる。
「詩友って、ほんと性格変わったよね」
半分、本気で、半分、からかうつもりで。
「漫画かよってくらい。
私と付き合った瞬間からね??」
言い切った、はずだった。
でも。
詩友くんは、少しも照れずに、即答した。
「当たり前だろ」
「……え」
「こんないい彼女、他にいない」
夜道なのに、はっきり聞こえる声。
「そんなお前に、ぶっきらぼうとか」
少しだけ眉を寄せて。
「失礼極まりないだろ」
言葉を継いで、低く続ける。
「それになにより」
一瞬だけ、視線が逸れて。
「……俺は、お前の思ってる百倍は浮かれてる」
胸が、ぎゅっと掴まれたみたいになった。
「……っ」
嬉しくて、でもどう反応していいか分からなくて、ただ手を握り返す。
「……ばか」
小さく言うと、詩友くんは短く息を吐いた。
「それ、今さら」
そのまま、家の近くまで来る。
街灯の下で立ち止まって、名残惜しくて、でも帰らなきゃいけなくて。
「……今日は、ありがとう」
私が言うと、詩友くんは頷いた。
「……瑞姫」
呼び止められて、振り返る。
詩友くんは、少しだけ真面目な顔になっていた。
そして、つないだ手を見てから、静かに言った。
「……正直」
「不安なことも、ある」
その言葉が、夜の空気に落ちた。




