第2話②
一年生からは、副会長一人、総務一人、書記一人が選出される。
その事実を知ったのは、立候補用紙を提出した翌日の放課後だった。
「なるほどなあ……」
ファミレスのテーブル席で、垣端がメニューを閉じながら唸る。
「副会長、総務、書記、か」
「榊、どれにする?」
佳苗がストローを噛みながら、詩友くんを見る。
彼は少しだけ考えてから、言った。
「副会長」
「理由は?」
「高一がなれる役職の中で一番えらい感じがするから」
少し笑いながらいう。
「まあそれに俺は、誰かを支える立場の方がむいてる。」
それは、剣道部での彼と同じだった。
前に出るより、全体を見て動く。
「……じゃあ」
自然と、視線が私に集まる。
「瑞姫は?」
佳苗の声は、落ち着いている。
「私は……総務で」
少しだけ間を置いて、そう答えた。
「書類とか、調整とか……そういうのなら」
「完璧じゃん」
賢正が、迷いなく言う。
「瑞姫ちゃん、そういうの得意だろ」
「得意というか……慣れてるだけ」
そう言うと、佳苗が小さく頷いた。
「じゃ、決まりね」
テーブルの上に、原稿用紙とペンが並べられる。
「推薦演説、どうする?」
佳苗が言う。
「副会長・榊詩友の推薦演説は――」
「俺!」
垣端くんが、手を挙げた。
「はいはい」
「親友として、語れること山ほどあるからな!」
詩友くんは少しだけ嫌そうな顔をした。
「余計なこと言うなよ」
「大丈夫だって。盛るのは得意だから」
「それが問題だ」
佳苗は苦笑しながら、私を見る。
「瑞姫の総務推薦演説は、私がやる」
「……お願いします」
そう言いながら、私は少しだけ背筋を伸ばした。
「じゃあ、各自原稿な」
垣端くんが、ペンをくるくる回す。
「詩友の長所……まず運動神経抜群!」
「関係ない」
「真面目!」
「それも微妙だ」
「え、じゃあ顔?」
「やめろ」
やり取りを聞きながら、私はノートを開いた。
総務。
生徒会の中で、一番“裏側”を支える役職。
人前に立つ回数は少ない。
でも、責任は重い。
「瑞姫」
佳苗が、ペンを止めて言う。
「不安?」
「……少しだけ」
正直に答えると、佳苗は目を細めた。
「大丈夫。榊が前に立つ」
「……うん」
詩友くんは、少し離れた席で原稿を見ていた。
垣端くんに何か言われて、短く返す。
その様子は、いつも通りなのに。
昨日の廊下の空気が、まだ少しだけ残っている気がした。
「瑞姫ちゃん!」
垣端くんが、突然こちらを見る。
「詩友の推薦文にさ、“人をよく見てる”って入れていい?」
「……いいと思う」
詩友くんが、顔を上げた。
「それ、誰目線だ」
「俺と瑞姫ちゃん目線」
「勝手に決めるな」
でも、強く否定はしなかった。
ドリンクバーの氷が、カランと音を立てる。
夕方のファミレスは、部活帰りの学生で賑わっていた。
「瑞姫」
佳苗が、小さな声で言う。
「原稿、無理に明るくしなくていい」
「……うん」
「真面目で、ちゃんとしてる。それで十分」
その言葉に、少しだけ肩の力が抜けた。
しばらくして、詩友くんが顔を上げる。
「樋口」
「はい」
「総務、頼りにしてる」
それだけだった。
でも、その一言が、胸の奥に静かに落ちる。
「……頑張ります」
視線を合わせて、そう答えた。
垣端くんはその様子を見て、ニヤニヤしている。
「いいねえ、コンビ感」
「黙れ」
佳苗は、原稿をまとめながら言った。
「本番まで、もう少し調整しよ」
「だな」
詩友くんが頷く。
四人でテーブルを囲んで、ペンを動かす時間。
空気は、完全に元通りではない。
でも、同じ方向を向いている感覚は、確かにあった。
ファミレスの窓の外は、もう暗い。
それぞれの原稿に、まだ余白が残っている。
たぶん、それは言葉だけじゃなくて――
私たち自身のことも、まだ書ききれていないからだ。




