第10話⑤
夜の公園まで歩いて、ベンチに腰を下ろした。
人は少なくて、街灯の下に虫の音だけが落ちている。
さっきまでの勢いが嘘みたいに、詩友くんは黙って足元を見ていた。
……その沈黙が、逆に怖くなる。
「瑞姫」
呼ばれて、心臓が跳ねた。
「……俺さ」
言いかけて、詩友くんは一度言葉を切った。
それから、恐る恐る、確認するみたいに続ける。
「俺のこと……嫌いに、なってないか」
胸が、きゅっと鳴った。
そんなふうに思わせてしまったことが、悲しくて、悔しくて。
でも同時に、ちゃんと聞いてくれたのが嬉しくて。
「――ならない」
即答だった。
「大好きだよ」
言い切った瞬間、頭が真っ白になる。
……ちょっと待って。今、私、何言った?
遅れて恥ずかしさが押し寄せてきて、慌てて両手で顔を覆う。
「……っ、い、今のは、その……」
耳まで熱い。絶対、顔真っ赤。
隣から、短い息を吐く音がした。
「……ほんと」
低くて、呆れたみたいで。
「可愛すぎるんだよ、お前は」
顔を覆った指の隙間から、詩友くんを見る。
街灯に照らされた横顔は、真剣で、少しだけ苦しそうだった。
「大会にも出られなくて」
ぽつり、と言葉が落ちる。
「剣道も、何もできなくて……それで」
拳を握る。
「一番大切な人に、甘えて、当たった」
声が震えているのが分かった。
「こんな俺だけど」
詩友くんは、真正面から私を見た。
「……どうか、付き合ってください」
胸が、どくん、と大きく鳴った。
――え、待って。
喜びが、一気に溢れて、止まらない。
「……っ、うそ……!」
思わず立ち上がってしまう。
「付き合うに決まってるでしょ!? 何それ、今さら!」
詩友くんの腕を掴んで、勢いのまま言葉が溢れる。
「大好きだし、心配だし、支えたいし、一緒にいたいし!
詩友くんが弱いとこ見せてくれるのも、私だけって思いたいし!」
止まらない。止める気もない。
「……本当に、ずっと、ずっと」
一瞬だけ息を吸って。
「大大大好きだよ! 詩友!」
呼び捨てにした瞬間、はっと我に返る。
……言っちゃった。
でも、詩友は驚いたあと、ゆっくり目を細めて、困ったみたいに笑った。
「……ずるいな」
そう言って、立ち上がる。
「もう、逃げられない」
夜風が、さっきより少しだけ優しく感じた。




