第10話③
私は、スマホを握ったまま、何度も画面を見つめていた。
剣道部の結果。
初戦敗退。
その結果が決まった瞬間、胸がぎゅっと縮んだ。
詩友くんの姿が、すぐに浮かんでしまったから。
――なんて送ればいいんだろう。
「ごめんね」
「お疲れさま」
「詩友くんのせいじゃない」
頭の中にいくつも文章が浮かんでは、消える。
でも、どれも違う気がした。
先日のケンカ。
怒った顔。
置いていかれた背中。
今、どんな言葉を送っても、
それがまた詩友くんを追い詰める気がして。
それとも、自分が傷つくのが怖いだけなのか。
「……」
しばらく迷ってから、瑞姫は画面に短く文字を打った。
『初戦敗退だったよ』
それだけ。
感情も、励ましも、何も付け足さずに。
送信ボタンを押す指が、少しだけ震えた。
――――
詩友のスマホが鳴ったのは、その少し後だった。
画面に表示された瑞姫の名前に、心臓が跳ねる。
急いで開いて、目を落として。
「……」
そこにあったのは、結果だけの文面。
初戦敗退だったよ。
それだけ。
慰めもない。
責めもない。
感情が、まるごと抜け落ちている。
それが、逆にきつかった。
「……俺、そんなに」
想像以上に、瑞姫を傷つけたんだ。
怒鳴って、突き放して、
それでも何もなかったみたいに連絡してくると思っていた自分に、吐き気がする。
結果だけを伝えて、
それ以上、何も言ってこない。
それは、距離を取られている証拠だった。
「……このままじゃ、だめだ」
考えるより先に、体が動いていた。
詩友はスマホを掴み、連絡先を開く。
「薗田」
電話越しの佳苗は、少し驚いた声を出した。
「瑞姫の家、どこか教えて」
一瞬の沈黙。
事情を察したのか、佳苗は何も聞かずに答えた。
通話を切った瞬間、詩友は靴を履く。
痛む足首も、気にならなかった。
今、行かなかったら、
きっと一生、後悔する。
「……謝る」
それだけを胸に、
詩友は家を飛び出した。




