第10話②
家に帰っても、ずっと胸の奥が重かった。
シャワーを浴びて、制服をたたんで、ベッドに座っても、頭の中はあの廊下のまま動かない。
私、余計なことしたのかな。
先生に言った瞬間の、詩友くんの顔が、何度も浮かぶ。
信じられないって顔。
裏切られたみたいな目。
自分の体を大事にしてほしかっただけ。
それだけなのに。
「……」
膝の上で、手をぎゅっと握る。
詩友くんが怒るのも、わかる。
大会前で、ずっと頑張ってきて。
やっと、ここまで来て。
それを、私が壊した。
そう思うと、喉の奥が苦しくなる。
でも――
あのまま続けていたら、もっとひどくなっていたかもしれない。
取り返しがつかなくなっていたかもしれない。
それでも。
「……詩友くん、ごめん」
小さく呟いても、返事はない。
せっかく。
せっかく、気持ちが通じて。
付き合えるかもしれない、って思えたのに。
このまま、全部なかったことになるのかな。
詩友くんの中で、私は「余計なことをした人」になって。
それで、終わり。
胸が、きゅっと縮む。
嫌だ、って思ってしまう自分が、怖かった。
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家に着いても、気持ちは全然落ち着かなかった。
玄関で靴を脱いだまま、壁に背中を預ける。
「……くそ」
低く吐き捨てて、拳を壁に当てる。
力は入れない。
それでも、胸の奥がひりついた。
どう考えても、俺が悪い。
無理して、黙って。
瑞姫が心配してるの、わかってたのに。
それなのに。
甘えた。
瑞姫なら、怒っても受け止めてくれるって。
離れないって、どこかで思ってた。
「最低だな……」
病院まで付き添ってくれた。
最後まで、俺のこと考えてた。
それを、俺は全部ぶつけた。
悔しくて、情けなくて、怖くて。
その全部を、瑞姫に。
思い出すのは、廊下で立ち尽くしてた背中。
あの時、振り返ればよかった。
一言でも、言えばよかった。
なのに、逃げた。
「……」
足首が、ずきりと痛む。
それ以上に、胸が痛かった。
せっかく。
やっと、気持ちを伝え合えて。
ここからだ、って思えたのに。
このまま、終わるのか。
俺が、全部壊した。
瑞姫が、もう俺と一緒にいるのを嫌になっても、文句は言えない。
そう思うのに。
「……会いたい」
呟いた声は、誰にも届かない。
自分の未熟さに、苛立ちが募る。
この気持ちまで、失ってしまったら。
それだけは――
それだけは、耐えられなかった。




