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届け!!〜私を救った君に捧げる、唯一無二の私の青春〜  作者: ふなつさん
初愛編

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第10話

夏休みの終わりが近づいた午後、体育館の床はいつもより熱を帯びていた。

 大会前、最後の練習。

 全員の動きに、自然と力が入る。

 瑞姫はコート脇から詩友くんを見ていた。

 ――おかしい。

 踏み込みの瞬間、ほんの一瞬だけ、詩友くんの動きが遅れる。

 気のせいにしようとして、でも、何度も同じ違和感が目に入る。

「……詩友くん」

 休憩の合間、声をかける。

「足、変じゃない?」

 詩友くんは一瞬だけ視線を落としたが、すぐにいつもの顔に戻った。

「別に」

「でも、今……」

「大丈夫だって」

 言い切る声は、少し硬かった。

 再開された練習。

 踏み込み、打突、切り返し。

 そのたびに、瑞姫の胸がざわつく。

 そして――

 詩友くんが、足首をかばうように着地したのを、瑞姫は見逃さなかった。

「抜けて」

 思わず、声をかける。

「今、抜けたほうがいい」

 詩友くんは振り返り、眉をひそめた。

「抜けたら、明日の大会出れなくなるだろ」

「でも、このまま続けたら……」

「いいから」

 きっぱりとした拒絶。

「今やめたら、全部無駄になる」

 その言葉に、瑞姫の胸がぎゅっと締めつけられる。

「……自分の体、第一に考えてよ」

「瑞姫には関係ない」

 冷たい言い方だった。

 でも、その背中が、痛みに耐えているのは明らかだった。

 ――このままじゃ、ダメ。

 迷いはあった。

 詩友くんが、これを嫌がるのも分かっていた。

 それでも。

 瑞姫は、先生のもとへ向かった。

 詩友くんの許可を得ないまま、足の異変を伝えた。

 結果は、すぐに出た。

「今日はもう上がれ。病院に行け」

 詩友くんは、信じられないという顔で瑞姫を見た。

 その目に浮かんだのは、はっきりとした怒りだった。

 病院での診断は、全治一週間。

 大会出場は、不可能。

 診察室を出た瞬間、詩友くんは立ち止まった。

「……なんで、言った」

 低い声。

「俺、瑞姫に頼んだか?」

「……頼まれてない」

「だったら、余計なことすんなよ!」

 怒りを隠そうともしない声に、瑞姫も思わず言い返す。

「多少悪いことしたって思ってるよ。でも!」

 涙がこみ上げる。

「無理して壊して、それで終わりになる方が、私は嫌だった!」

「俺の剣道だろ!」

 詩友くんの言葉が、鋭く突き刺さる。

「覚悟もないくせに、首突っ込むな!」

 その言葉に、瑞姫は息を詰めた。

 病院まで付き添ってきたことも、

 一緒に待っていた時間も、

 全部、否定された気がした。

 詩友くんは、踵を返す。

「……もういい」

 そう言い残して、瑞姫を置いたまま、歩き去っていった。

 呼び止める声は、喉で詰まって出てこなかった。

 廊下に残された瑞姫は、拳を握りしめる。

 間違っていたとは、思えない。

 でも――

 胸の奥に残ったのは、

 どうしようもない後悔と、痛みだった。

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