第9話⑤
胸の奥がまだ熱いまま、私はそっと詩友くんを見上げた。
「あの……」
声が少し震える。
「私たちって……付き合える、の?」
花火の余韻が残る夜気の中で、その一言は思っていた以上に重たく落ちた。
詩友くんは一瞬だけ驚いた顔をして、それからゆっくり息を整える。
「……正直に言うな」
真剣な目。
「次の大会が、もうすぐある」
剣道のことだ、とすぐにわかる。
「だから、それが終わったら……もう一度、俺からちゃんと告白させてほしい」
瑞姫の胸が、きゅっと鳴る。
「でも」
詩友くんは続けた。
「もし、これ以上待たされるのが嫌なら、今ここで付き合おうって言うこともできる」
少しだけ視線を逸らしながら、
「ただ、その場合……正直、瑞姫のために使える時間は、いきなり多くはならない」
その言葉に、瑞姫は迷わなかった。
「待つよ」
即答だった。
「ちゃんと待つ」
そして、少し照れながら付け足す。
「だから……大会までは、恋人だって、自分で思いながら応援する」
その瞬間だった。
詩友くんの表情が、一気にほどけた。
今まで見たことがないくらい、素直で、嬉しそうな笑顔。
「……ほんとに?」
「うん」
「それ、反則だろ」
なんて言いながら、嬉しそうに頭をかいた。
少し間を置いてから、ふっと真顔になる。
「なあ、瑞姫」
「なに?」
「夏休み中……俺と会うの、気まずくて部活に顔出してなかっただろ」
図星だった。
「え……」
言い当てられて、瑞姫は一気に顔が熱くなる。
「……ごめんなさい」
小さく頭を下げる。
「告白したあと、どう接していいかわからなくて……」
すると詩友くんは、目を見開いたあと、ふっと肩の力を抜いた。
「……よかった」
「え?」
「嫌われたわけじゃなくて」
ほっとした表情で、少し意地悪そうに言う。
「じゃあ明日からは、休憩時間に瑞姫のその可愛い顔、見れるってことか」
「っ……!?」
一瞬で、瑞姫の顔が真っ赤になる。
「な、なに急に……性格変わりすぎじゃない?」
思わずそう言うと、
「それな」
横から、聞き覚えのある声。
「こいつ、本当に懐いた奴には、とことん甘いぞ」
賢正だった。
「……っ!?」
振り向くと、そこには佳苗もいて、にやにやしている。
「全部、見られてた……?」
瑞姫と詩友くんは、同時に赤面した。
「お前ら、いい雰囲気すぎ」
賢正が楽しそうに笑う。
「まあでも」
佳苗が少しだけ柔らかく言った。
「よかったじゃん」
その一言で、場の空気がすっと和らいだ。
気恥ずかしさは残るけど、不思議と嫌じゃない。
詩友くんと目が合って、2人して照れたように視線を逸らす。
恋が始まる手前で、
友情も、少しだけ形を変えて。
でも確かに――
4人の距離は、今までよりずっと近くなった。
そんなふうに思えた、忘れられない一日だった。




