第9話②
集合場所に着くと、すでに垣端くんがベンチに座っていた。
スマホをいじりながら、私たちに気づくと顔を上げる。
「……え」
一瞬きょとんとして、それからわざとらしく眉をひそめた。
「なに? 俺だけハブられた?」
「時間通りじゃん」
佳苗が即座に突っ込む。
「いやいやいや。三人一緒に来るとか聞いてないんだけど?」
腕を組んで、むすっとした顔。
でも、目はちょっと楽しそうだ。
「仲間外れはひどいわー」
「さっき電車一緒だっただけだよ」
私が言うと、
「はいはい、そういうことにしとく」
全然納得してなさそうだった。
そこで、佳苗がにやっと笑う。
「賢、面白いもの見たよ」
「なに?」
「電車でね」
佳苗は、わざと詩友くんの方を見る。
「榊が、瑞姫見た瞬間、真っ赤になって」
「……っ」
詩友くんが、露骨に顔を背ける。
「で、小声で『かわいい』って言ってた」
「は!?」
垣端くんの機嫌が、一瞬で戻った。
「まじで!?」
「ちょ、佳苗……!」
「事実でしょ」
佳苗は涼しい顔。
「へー、詩友やるじゃん」
にやにやしながら、肩を叩いてくる。
「浴衣効果?」
「……うるさい」
詩友くんはそれ以上何も言わず、耳まで赤い。
私はというと、恥ずかしさでどうしていいかわからず、視線を泳がせるしかなかった。
そのまま、四人で会場へ向かう。
屋台が並ぶ通りは、人でいっぱいだった。
焼きそば、たこ焼き、りんご飴。
甘い匂いと、油の匂いが混ざって、夏だなって思う。
「まず何行く?」
「焼きそば!」
「かき氷」
「フランクフルト」
意見はバラバラ。
結局、行き当たりばったりで屋台を回る。
私は佳苗と一緒に小物を見たり、垣端くんに引っ張られて射的を見たり。
詩友くんは、少し後ろを歩いていた。
気づいたら、姿が見えなくなっていて。
「……あれ?」
探そうとした、そのとき。
「瑞姫」
後ろから、小さな声。
振り向くと、詩友くんが立っていた。
手には、袋に入った綿飴。
「……これ」
差し出される。
「え、いいの?」
「……余ってた」
絶対嘘だ。
「……ありがとう」
受け取ると、ふわっと甘い匂いがした。
詩友くんは、視線を逸らしながら、
「……似合ってる」
小さく、付け足す。
今度は、ちゃんと聞こえた。
「……っ」
顔が、また熱くなる。
「……詩友くんも」
何を言えばいいかわからなくて、そんなことを言った。
「?」
「いつもより、なんか……楽しそう」
詩友くんは一瞬驚いた顔をして、それから、
「……そうか」
短く答えた。
花火の音が、遠くで上がる。
四人でいるはずなのに、
一瞬だけ、二人きりみたいな時間だった。




