第9話
浴衣を着て電車に乗るだけで、心臓が落ち着かなかった。
帯、ちゃんと結べてる。
袖、変じゃない。
何度もスマホの画面に映る自分を確認してから、私は電車に乗り込んだ。
今日は、みんなで行く花火大会。
四人で、いつも通り――のはず。
空いている車内で、つり革につかまる。
ガタン、と電車が揺れた、そのとき。
ドアが開いて、乗ってきた人を見て、息が止まった。
詩友くんだった。
私と同じ車両。
私を見つけた瞬間、ぴたりと動きが止まる。
「……」
そして、わかりやすいくらい――顔が赤くなった。
「……っ」
目を逸らして、口元を押さえる。
今まで、こんな反応されたこと、ない。
「し、詩友くん?」
声をかけると、びくっと肩が跳ねた。
「……な、なんでもない」
その直前、詩友くんが、何かを言った気がした。
声が小さくて、電車の音にかき消されて。
「今、なんて言ったの?」
聞き返すと、詩友くんはさらに視線を逸らす。
「……別に」
ぶっきらぼうな返事。
え、今の何。
困惑していると、後ろから声がした。
「はいはい、そこで誤魔化すのやめ」
ひょい、と横から顔を出したのは、佳苗だった。
「佳苗?」
「今ね」
楽しそうに、私を見る。
「榊、瑞姫のこと『かわいい』って言ってたよ」
「……っ!」
一気に、顔が熱くなる。
「な、なに言って……!」
振り向くと、詩友くんは完全に耳まで赤くなっていた。
「薗田……!」
「事実でしょ」
佳苗は肩をすくめる。
「浴衣似合ってるし」
「……っ」
何も言えなくなる。
詩友くんは、ぷいっとそっぽを向いたまま、
「……知らない」
小さくそう言った。
電車が次の駅に停まる。
胸が、ずっと落ち着かない。
みんなで行く花火大会。
なのに、最初から――こんな調子だった。




