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届け!!〜私を救った君に捧げる、唯一無二の私の青春〜  作者: ふなつさん
初愛編

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第2話


昼休みの食堂は、いつもより少し騒がしかった。

 トレーのぶつかる音、呼び出しの声、椅子を引く音が重なって、ざわめきが途切れない。

 私たちは、窓際の四人席に並んで座っていた。

 「今日の唐揚げ、当たりじゃね?」

 垣端くんが、箸で唐揚げを持ち上げながら言う。

 「毎日同じこと言ってる」

 佳苗が、淡々と返す。

 「いや今日はマジ。衣が違う」

 「気のせい」

 そのやり取りを聞きながら、私はサラダを口に運んだ。

 「樋口、ちゃんと食べてる?」

 詩友くんが、私のトレーをちらっと見る。

 「うん。今日はこれくらいで大丈夫」

 「少な」

 「……垣端くん」

 注意すると、彼は肩をすくめた。

 「はいはい、瑞姫ちゃんは自己管理完璧っと」

 そのときだった。

 食堂の入り口付近で、マイクの音が鳴った。

 「失礼します。生徒会からお知らせです」

 数人の生徒が立ち止まり、視線が集まる。

 腕章をつけた生徒会の人たちが、順に告知を始めた。

 「来月、次期生徒会役員を決める選挙を行います。立候補希望者は――」

 形式的な説明が続く中、私はなんとなく詩友くんの方を見た。

 彼は黙って話を聞いていて、珍しく真剣な表情をしている。

 告知が終わり、生徒会の人たちが去っていくと、賢正が口を開いた。

 「へえ、生徒会かぁ」

 「榊、興味ありそう」

 佳苗が、箸を止めずに言う。

 詩友くんは少しだけ間を置いてから、言った。

 「……立候補しようと思ってる」

 一瞬、音が遠くなった気がした。

 「は?」

 賢正が、素で聞き返す。

 「生徒会? お前が?」

 「剣道部と両立できるなら、やってみたい」

 詩友くんの声は、落ち着いていた。

 「理由は?」

 佳苗が聞く。

 「学校全体のこと、ちゃんと見てみたい」

 それは、彼らしい答えだった。

 「いいじゃん!」

 最初に反応したのは賢正だった。

 「どうせならさ、瑞姫ちゃんも一緒に出ようぜ」

 「え?」

 思わず声が出る。

 「学年一位だし、マネージャーだし、向いてるって」

 「賢、軽い」

 佳苗が言いながらも、私の方を見る。

 「でも、悪くないと思う」

 「薗田……」

 詩友くんが少しだけ眉を寄せる。

 「樋口の負担が増える」

 「決めるのは瑞姫でしょ」

 佳苗の言葉に、三人の視線が集まる。

 心臓の音が、少し大きくなる。

 「……詩友くんが出るなら、私も……」

 言い切る前に、詩友くんがこちらを見た。

 「無理しなくていい」

 「でも、支えられるなら」

 短い沈黙のあと、賢正が手を叩いた。

 「決まり! 二人で立候補な!」

 「強引」

 そう言いながらも、佳苗は立ち上がる。

 「立候補用紙、今なら生徒会室にあるはず」

 食堂を出て、廊下を歩く。

 昼休みの終わりが近づいて、人の流れが少しずつ速くなっていた。

 生徒会室へ向かう途中、私は詩友くんの隣を歩く。

 「……詩友くん」

 「なに」

 「生徒会、正直……少し不安なんだよね」

 足が、わずかに遅れる。

 「人前に立つの、得意じゃなくて」

 詩友くんは、立ち止まらずに言った。

 「慣れる」

 「……そう、だよね…」

 一拍置いて、言葉が続きそうになる。

 「私、中学のとき――」

 そこまで言って、喉が詰まった。

 「……なんでもない。」

 慌てて、笑う。

 「大丈夫」

 その言葉が、廊下に落ちた。

 詩友くんは何も言わなかった。

 でも、歩く速度が少しだけ、速くなった気がした。

 生徒会室の前に着く。

 佳苗がノックをして、用紙を受け取る。

 賢正は相変わらず、空気を読まずに鼻歌を歌っている。

 「じゃ、あとで記入ね」

 佳苗が言って、二人は先に戻っていった。

 廊下に残ったのは、私と詩友くん。

 「……さっきの」

 詩友くんが、言いかけて止まる。

 「ううん。気にしないで!」

 私が先に言った。

 「本当に。」

 そう言って、視線を逸らす。

 昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。

 「戻ろう」

 詩友くんは、それだけ言って歩き出す。

 その背中を追いながら、私は胸の奥に残った言葉を、そっと押し込めた。

 言えなかったことは、まだ、重いままだった。


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