第8話②
急に手を引かれて、気づいたら店の外に出ていた。
夜風が、さっきまでの騒がしさを一気に遠ざける。
「……詩友くん?」
歩道の端で足を止めて、振り返る。
詩友くんは、少しだけ距離を取って立っていた。
表情が硬い。
「どうしたの? 急に……」
私の声に、詩友くんは一度、視線を落とす。
「……さっき」
短く息を吸ってから、続けた。
「先輩と話してただろ」
「うん。仕事の話……」
「……嫌だった」
その一言に、胸が跳ねた。
「理由は、よくわからない」
詩友くんは、困ったように眉を寄せる。
「でも、ああやって笑ってるの見て……」
言葉を探すみたいに、少し間が空く。
「……嫌だって、思った」
頭が、真っ白になった。
嬉しいとか、戸惑いとか、全部一緒に押し寄せてくる。
抑えていたものが、堰を切ったみたいだった。
「……詩友くん」
声が、少し震える。
「好き」
言ってしまった。
空気が、止まる。
――あ。
自分が何を言ったのか、遅れて理解する。
心臓が、耳元で鳴り始める。
「……っ、ごめん!」
反射的に、そう言っていた。
「今の、忘れて!」
詩友くんの顔を見るのが怖くて、私は踵を返す。
「瑞姫――」
呼ばれた気がしたけど、立ち止まれなかった。
そのまま、逃げるみたいに家に帰った。
――次の日。
学校で詩友くんと目が合いそうになるたび、視線を逸らした。
廊下でも、生徒会室でも、なるべく距離を取る。
話しかけられそうになったら、用事を作って逃げる。
胸が、ずっと落ち着かない。
結局、ちゃんと話せないまま。
終業式が終わって、教室の机が空になって。
気づいたら、夏休みになっていた。
何も解決していないのに。
でも、時間だけが、先に進んでしまった。




