第8話
夏休みまで、あと二日。
生徒会の前半活動終了を祝うって名目で、打ち上げが開かれた。
店は駅前の居酒屋風のところで、未成年だからソフトドリンクだけ。
それでも、いつもより賑やかで、少しだけ浮ついた空気だった。
俺は壁際の席で、グラスを持ったまま周りを見ていた。
――瑞姫が、二年の先輩と話している。
総務の先輩だ。
仕事で関わることも多いし、別に不自然じゃない。
でも。
先輩は距離が近かった。
声も低くて、やけに柔らかい。
瑞姫は笑っていた。
作り笑いじゃない、普通の、楽しそうなやつ。
それを見た瞬間、胸の奥が、少しだけざわついた。
「……詩友くん」
隣から、小さな声。
玲奈先輩だった。
「今、瑞姫と話してる先輩」
視線で示される。
「瑞姫のこと、狙ってるらしいよ」
「……は?」
思わず、低い声が出た。
「前から可愛いって言ってたし。
生徒会終わったら、告白するつもりなんじゃない?」
玲奈先輩は、楽しそうに笑っていた。
冗談みたいな顔で。
でも、その言葉を聞いた瞬間。
頭が、妙に冷えた。
……狙ってる?
意味が、よくわからない。
なのに、腹の奥が、急に熱くなる。
瑞姫は、まだ笑っている。
相手の話に、頷いている。
それだけなのに。
気づいたら、体が動いていた。
俺は席を立って、真っ直ぐ瑞姫のところへ行く。
「……瑞姫」
声をかけると、瑞姫が少し驚いた顔で振り向いた。
「詩友くん?」
その手首を、反射的につかんでいた。
「……帰る」
「え?」
戸惑う声を無視して、俺はそのまま歩き出す。
「ちょ、榊くん――」
背後で先輩の声がしたけど、振り返らなかった。
店の外に出ると、夜の空気が一気に肺に入る。
少し歩いてから、ようやく足を止めた。
……何やってんだ、俺。
手を放すと、瑞姫は目を丸くして俺を見る。
「ど、どうしたの?」
自分でもわからなかった。
理由を聞かれても、説明できない。
ただ。
さっきの光景が、頭から離れない。
瑞姫が、誰かと親しげに笑っている姿。
それを見たくなかった。
その事実だけが、はっきりしていた。
「……悪い」
それしか言えなくて、視線を逸らす。
胸の奥が、まだざわついている。
よくわからない。
でも、無視できない。
瑞姫が、俺の知らないところへ行くかもしれないと思った瞬間。
――無性に、腹が立った。
その理由を、まだ俺は言葉にできなかった。




