第7話②
家に帰って、玄関で靴を脱いだ瞬間から、頭の中がうるさかった。
――二人で行かない?
瑞姫の声が、何度も浮かぶ。
自分の部屋に戻って、鞄を床に置く。
剣道具の匂いが残っているのに、今日はそれすら落ち着かない。
正直に言えば。
薄々、気づいてはいた。
視線の向き。
声の温度。
俺が何かするとき、必ず少しだけ先に気づいているところ。
それを「ありがたい」で済ませてきたのは、たぶん俺だ。
布団に倒れ込んで、天井を見る。
恋か、と聞かれたら、違う。
少なくとも、今はそう言える。
瑞姫といる時間は楽だ。
静かでも気まずくならないし、無理に喋らなくていい。
弱いところを見せたのも、あいつだけだ。
でも、それがそのまま「恋」かと言われると、わからない。
だから、予定を確認してから答える、と言った。
逃げじゃない……と思いたい。
まだ時間はある。
夏休みまでは、もう少し。
八月の終わりの花火大会までに――
もし、その間に。
瑞姫の隣にいるとき、
今よりも心が動くようになっていたら。
名前を呼ぶだけじゃなくて、もっとそばにいたいと思うようになっていたら。
そのときに、ちゃんと向き合えばいい。
でも。
もし、今のまま。
何も変わらず、特別な感情を抱けないままだったら。
「友達でいたい」
その願いは、たぶん叶わない。
瑞姫は、前に進もうとしている。
俺だけが立ち止まったまま隣にいたら、傷つける。
だったら――距離を置くしかない。
それが、あいつに対してできる、最低限の誠実さだ。
そう決めて、目を閉じる。
まだ答えは出ていない。
でも、考えることからは逃げない。
夏が来るまでに、
俺の中のこの感情が、どこへ向かうのか。
それだけは、ちゃんと見極めようと思った。




