第7話
終業式が近づいてきて、教室の空気が少しだけ浮つき始めた頃。
放課後、いつもの四人でファミレスにいた。
「夏休みさー」
ドリンクバーから戻ってきた垣端くんが、席に座りながら切り出す。
「暇じゃね?」
「最初からそれ言う?」
佳苗が、メニューを閉じながら冷静に返す。
「いや、ほら。せっかくの夏だし?」
「部活あるでしょ」
佳苗の視線が、詩友くんに向く。
「……ある」
詩友くんは、ストローを回しながら短く答えた。
「でも、全部じゃないよね」
私が言うと、三人が一斉にこっちを見る。
「瑞姫ちゃん、いいこと言う!」
「普通のこと言っただけなんだけど……」
垣端くんが身を乗り出してくる。
「じゃあさ、八月の最初の花火大会!」
「あー、あれね」
佳苗が頷く。
「毎年混むやつ」
「でも定番だよね」
私も思い出す。
川沿いでやる、大きな花火大会。
「……行くなら、早めに決めないと」
詩友くんがぽつりと言う。
「ほら、榊も乗り気じゃん」
「別に、そういうわけじゃ……」
否定しきれない感じが、少しおかしい。
「じゃ、決まりね」
佳苗がまとめる。
「八月頭、四人で花火大会」
「よっしゃ!」
垣端くんが拳を握った。
そこからは、完全に雑談モード。
屋台の話とか、浴衣どうするとか、暑さ対策とか。
他愛ない話なのに、夏が少し近づいた気がした。
帰り道、駅前でいつも通り解散……のはずだった。
「垣端くん、佳苗、先行ってて」
「ん?」
「ちょっと話」
私の声に、二人は一瞬だけ目を合わせてから、
「りょーかい」
「じゃ、また明日」
軽く手を振って、先に歩いていく。
残ったのは、私と詩友くん。
夜風が、昼間の熱を少しだけ冷ましていた。
しばらく、並んで歩く。
心臓の音が、やけに大きい。
「あのさ」
意を決して、声を出す。
「八月の終わりにも、お祭りあるの知ってる?」
「……ああ」
「その……」
一瞬、言葉に詰まる。
「今度はさ、二人で行かない?」
言った。
逃げ場はない。
詩友くんは、足を止めた。
「……瑞姫」
名前を呼ばれて、胸がきゅっとする。
詩友くんは、少し困った顔で視線を逸らす。
「……予定、確認してからでいいか」
はっきりしない答え。
「……うん」
それでも、私は頷いた。
「大丈夫。待つ」
「……悪い」
「ううん」
断られたわけじゃない。
でも、即答でもなかった。
それだけで、十分にいろんな意味があった。
家の前で別れるとき、詩友くんは一度だけ振り返って、
「……また連絡する」
そう言って、帰っていった。
一人になった道で、私は空を見上げる。
夏は、まだ始まったばかり。
でも、少しだけ前に進めた気がしていた。




