第5話
大会が終わって、少しだけ特別だった空気が、気づけばすっかり抜けていた。
放課後の校門前。
私は、垣端くんと佳苗と一緒に詩友くんを待っていた。
「なー瑞姫ちゃん、今日ひま?」
垣端くんが、いつもの軽さで聞いてくる。
「うん。今日は特に予定ないよ」
「よっしゃ。じゃ、駅前寄ってこ」
即決。
こういうところ、ほんと垣端くんだなって思う。
少し遅れて、校舎の方から詩友くんが出てきた。
剣道着じゃなくて制服姿なのが、なんだか新鮮だった。
「榊、今日どうする?」
佳苗が聞くと、詩友くんは一瞬だけ考えて、
「……行く」
短く答えた。
それだけで、四人で動く流れが自然に決まる。
駅前の雑貨屋をぶらぶらしながら、垣端くんが意味もなくキーホルダーを手に取る。
「これさ、詩友っぽくね?」
「どこがだ」
「無表情な犬」
「……いらん」
即答だった。
私は思わず笑って、棚に並ぶ文房具に目を移す。
メモ帳とペン。生徒会用に、いくらあっても足りない。
「それ、買うのか」
詩友くんが、私の手元を見て言った。
「うん。すぐなくなるから」
「……真面目だな」
ぽつりとした一言。
なぜか少しだけ、くすぐったかった。
そのままの流れで、駅前のファミレスに入る。
ドリンクバーを取りに行く途中、垣端くんが言う。
「こういう日、いいよな」
「何が?」
佳苗が、ストローを咥えながら聞き返す。
「何も起きない日」
「今までが起きすぎなんでしょ」
佳苗が淡々と返す。
席に戻ってからは、どうでもいい話ばかり。
小テストの愚痴、先生の癖、最近見た動画。
詩友くんは相変わらず口数は少ないけど、ちゃんと話を聞いていて、たまに短く突っ込む。
それだけで、この場が落ち着くのが不思議だった。
帰り道、駅前で解散する。
「じゃーな、瑞姫ちゃん」
「また明日」
垣端くんと佳苗が手を振って、先に歩いていく。
残ったのは、私と詩友くん。
並んで歩く、ほんの少しの距離。
「……今日は、楽だったな」
詩友くんが、前を見たまま言った。
「うん。何も考えなくてよかった」
そう返すと、詩友くんは小さく頷いた。
特別なことはない。
でも、この何気ない時間がちゃんと続いていることが、今は少しだけ嬉しかった。




