第4話②
体育館を出ると、空はもう夕方を通り越していた。
荷物を持って外に出たところで、
「……瑞姫」
呼ばれて、思わず足が止まる。
詩友くんが、少し迷ったみたいに立っていた。
「一緒に、帰らないか」
「……え」
一瞬、どう返せばいいかわからなかった。
今まで、そんなふうに言われたこと、なかったから。
「……うん」
小さく答えると、詩友くんは歩き出す。
並んで歩く帰り道。
夜に向かう空気が、じんわり冷たい。
「……ごめん」
しばらくして、詩友くんが言った。
「励ましてもらったのに、結果」
「謝らなくていいよ」
すぐに言葉が出た。
「詩友くん、すごかった」
足を止めて、ちゃんと顔を見る。
「見返せたよ。ほんとに」
「……」
「一年で、次鋒で、あそこまでやったんだよ?」
「……瑞姫は」
詩友くんが、少しだけ声を落とす。
「いつも、俺のこと見てるよな」
胸が、どくっと鳴る。
「それが……嬉しかった」
「……」
「だから、今日も、あそこまでいけた」
詩友くんは、ぎゅっと拳を握った。
「……なあ」
「なに?」
一瞬、迷った間のあと。
「お前にだけは」
視線が、少し揺れる。
「弱いとこ、見せていいか」
「……え?」
意味がわからなくて、言葉に詰まる。
「……う、うん」
困惑したまま、でも頷いた。
次の瞬間、詩友くんは私の手首を軽く引いて、近くの路地に入る。
街灯の光が届かない、静かな場所。
「……ちょっと、隠してくれ」
「え?」
そう言った直後だった。
詩友くんが、顔を歪めて、声を押し殺そうとして――でも、できなかった。
「……っ」
喉の奥から、震える音が漏れる。
悔しさが、そのまま形になったみたいな声。
胸が、ぎゅっと締めつけられる。
「……変な意味じゃないから」
自分でも驚くくらい、落ち着いた声が出た。
私は一歩近づいて、そっと腕を回す。
力なんて入れてない。
ただ、逃げないように。
詩友くんは、一瞬だけ硬直してから、堪えていたものを全部吐き出すみたいに泣いた。
低くて、苦しそうな鳴き声。
すっかり暗くなった夜空に、その声だけが響く。
私は何も言わなかった。
ただ、そこにいて、離さなかった。
……弱いところを見せてくれた。
それだけで、胸がいっぱいだった。




